打倒カーバンクル(1)
「Hey、アダム!発光石を頼む。……3体かよ」
キタザワが洞窟内に明かりを灯した。やはり広いだけの空間だった。
そこに、体長60センチ程度のウサギのようなモンスターが3体。それぞれ身体の色が異なり、青、緑、黄。
額に光り輝く赤い宝石が付いていて、耳と尻尾が長い。尻尾も60センチ程あるので、耳の長い大きなリスと言ってもイメージに近い。
どうにも強そうには見えないため、ルタオがキタザワに確認する。
「キタザワ、ライジングサンのギルメン、あれ1体に4人で負けたんだよな?」
「ああ。みんな、説明したようにドラゴン級のブレスあるからな」
「あんな可愛いのに強いの?マジ?」
「モニカ、とりあえずデバフ頼む」
「凍えちゃえー!キラキラ・ダイアモンドダスト!……緑には躱されたです!」
「(寒っ!ケツ?)青と黄には、ちゃんと効いてるはず」
山田のシナスタジアはオンの状態だ。
弱点属性を把握するため、カーバンクルを注意深く観察していると、モニカのデバフに応じて、自分の尻付近にも奇妙な感覚があった。
「緑なら試してみるか……フレイム・ブレッツ!」
キタザワは、デバフの範囲外となった緑色を狙って炎弾を連射した。
しかし、反射されて自分に攻撃が向かってくる。
カーバンクルの周囲には、シールドのような物は視認出来ない。身体に当てると反射されるようだった。
「アイギス・シールド!色は関係ない?」
キタザワは咄嗟に大盾を出して、反射した炎弾を防御した。
次は山田が緑色に攻撃してみる。
「ラピッド・ウインド・ブレイド!」
風の攻撃も反射された。山田はなんとか盾で防ぎきった。
「マジで?ひとつの属性反射じゃないんか!」
「召喚!来て、ジジ、ララ!青色と黄色に軽く攻撃して!みんな、ジジとララは物理攻撃です!攻撃力は弱いですー!」
モニカは、デバフにより速度が鈍っている2体を牽制するために、犬と猫を向かわせた。物理攻撃が効くか試すことも出来る。
5人は緑色のカーバンクルに集中する。小さいだけあって動きが速い。
今度はレイナが攻撃を試す。
「シャンパン頂きましたー!シャンパン・シャワー3連脚!……ブレス?」
中距離から攻撃を放ったが、命中するより前に、カーバンクルがブレスを吐いてきた。
蹴りから噴射した3発の水の攻撃は、すべてブレスに消されてしまった。
「おい、マジでドラゴンのブレスと同じじゃねえか!ええい、知るか!殴ってみんぞ!」
ブレスは広範囲だが、レイナが水を放った部分なら威力が相殺されていて突っ込める。
ルタオは両腕の盾を構えながら、カーバンクルに向かって走っていく。
「すぐに連打すんなよ、筋肉!」
「分かっとるわ。おらあ!通る!逃がすか!あーたたたたたたた!うぉわちゃー!」
相手が小さいため、まずは蹴りあげて浮かせた。
ダメージは通ったため、浮いた相手を拳で殴りまくった。しかし……
「いーててててててて!ぐはっ!」
(痛たたたたたた!痛たー!!)
攻撃が反射され、ルタオは仮想の拳で腹を殴られまくり、ふっ飛ばされた。
様子を窺っていた山田は、ルタオを視界から外せなかった。かなり痛みを感じたが、なんとか声をあげずに我慢した。
「なんで?通ったろ?モニカ嬢、ミルク飴!」
ダメージが大きい。モニカに回復を要求するルタオ。
青色と黄色のほうも口を開いた。キタザワが注意を促す。
「もう2体からも来るぞ!ワイドレンジ・フレイム・スウィープ!」
キタザワは、ブレスに向かって右腕を振るい、地を這う広範囲の炎を放った。
片方のブレスは掻き消せた。もう片方は大盾で防御して、後ろに控える山田とモニカを守る。
「ペロペロしちゃえ!ファンファン・キャンディー・ミルク味!」
モニカは、ルタオの前方に回復用のキャンディーを出した。
ルタオとカーバンクルの様子を見ていた山田が叫ぶ。
「ルタオさん、2発目が当たる前に頭のルビーみたいなのが強く光った!」
「どういうこと?(ガリガリ)」
「まさか、反射の属性が変わるっての?」
「当てた属性に対応して切り替えるのかもな」
「どうしろってんだ。近距離から連打は無理か?」
前衛にルタオとレイナ、後ろにキタザワ、更に後ろに山田とモニカというフォーメーションを維持して対策を考える5人。
とりあえず動き回っているのは緑色だけなので、防御は出来る状態だったが……
青色と黄色の身体が光って、周囲の雪が消された。
「あー!デバフ解除されたですー!」
「モニカ、やられないうちにジジとララは戻すんだ。方法を考える」
モニカの犬と猫は、ブレスを躱して足止めしていたが、速度デバフが解除されては、おそらく倒されるだけだろう。
モニカは犬と猫を一旦消すことにした。
青色と黄色のカーバンクルが炎を吐いてきた。
「山田は右側!〆張鶴・純米大吟醸・プレミアム!」
「ラピッド・ウォーター・ブレイド!」
レイナと山田は水の刃を出して攻撃を掻き消した。
盾は反射攻撃を受けるために重要なので、あまり耐久度を下げたくない。
「このコたち、炎も吐くわけ?」
「色と攻撃は関係ないのか。他の攻撃もあるかもしれん」
「(緑は物理を反射するままのはず。)モニカ、緑を狙ってハリネズミさん頼む。攻撃の時なら狙える」
「ルタオさんの感じだと、あたしの下からハリネズミさん来るわよ」
「キタザワさん、ごめん。たぶん下からチクチクして持ち上げられる」
「分かった。なんだか知らんがやるだけやってみ」
(集中しろ、俺)
カーバンクルは、攻撃を放つために口を開けた時は少し動きが止まる。
緑色が口を開けた隙を狙って、モニカがスキルを発動する。
「チクチクしちゃえ!お怒りハリネズミさん!」
カーバンクルの下から大きなハリネズミが現れて針で突き刺した。数秒だけカーバンクルの身体が持ち上がる。
バランスを崩したカーバンクルは、口を閉じて攻撃を止めた。
ハリネズミが消えた後、予想通り反射されて、モニカの下からハリネズミが現れた。
「あん!……きゃっ!痛っ!山田のバカー!」
「痛っ!……おっと、痛っ!」
「……おっとっと」
範囲にいる3人共にチクっとした感覚があったが、レベルが低い山田以外は、ほとんど痛くはなかった。
モニカが最も上に持ち上げられてから、地面に落ちて膝をついた。山田とキタザワは、バランスを崩して転びそうになった。
「やっぱりチクっと痛いくらいね。荒木たちは寝てたから、あんなに痛がってたのかな?」
「そうかもな。俺はレベル低いから少し痛かったけど。キタザワさん、尻尾狙いなら通るはず」
カーバンクルがハリネズミの針に突かれた際、山田には尻尾の位置にダメージの感覚があった。それゆえ、尻尾は反射対象ではないと予想した。
勿論、山田に尻尾は無いのだが、山田の想定する仮想の尻尾に感覚がある。
ミラータッチ共感覚を持つ人には、自分の身体にはない部分、尻尾であっても感じ取れる人がいる。位置を想定出来るためだろう。
「後ろに回るのはレイナでも難しそうだぞ……。誰か直撃させないで浮かせられそうか?」
キタザワは、山田のボーナススキルの事を知らないが、山田の案に従うことにした。
カーバンクルに飛行能力はないため、スキルで浮かせることが出来れば大きな隙を作れる。
「さっきのハリネズミさんだと厳しいですか?」
「バランス崩す方向の予測が付きづらい。出来ればもう少し時間が欲しいな」
「あたしがあるわよ。近づいてからのパンチラ」
「「「パンチラ?」」」
そもそもレイナの蹴りはローキック以外はパンチラする。
しかし、レイナには更なる特別なパンチラがあるようだった。




