キタザワとルタオとレイナ(2)
「レイナー、こっちは大丈夫だ。炎は通ってる」
キタザワは少し大きな声で、レイナとルタオに状況を伝えた。ブレッツが命中した際、デーモンが少し仰け反っていたので、無効化はされていないはずだ。
炎が通用すると判断したキタザワがスキルを発動する。
「イフリート・ブースト!アキレウス・ブースト!」
炎の威力バフと移動補助の速度バフだ。
後者はペンタグラム・コロシアムでも使用したスキルだが、その時ほどは速くならない。ライフゲージ条件やローザの援護が無いだけではなく、パッシブスキルが異なる。
普段のキタザワは、パッシブスキルとして火属性の威力強化を2つセットしている。
コロシアムでは、対トドロキのために速度強化2つに切り替えていた。どれもスキルレベル5だが、普段は速度強化はセットしない。
あの時はしばらく動かなかったため、トドロキとサカモトは、普段より明らかに速いキタザワに意表を付かれた。
「フレイム・ブレッツ!バーニング・サラマンダー・ダンス!」
ブレッツを前方30度ほどに散らしてから、鞘から剣を抜いて走り出す。炎竜のオーラを纏わせた剣を振り回しながら、強引に突き進むキタザワ。
デーモンが魔法攻撃を仕掛けてきたが、全て炎竜で打ち消す。仮に水属性の攻撃でも、キタザワの力のほうが遥かに上なので問題ない。
「クリムゾン・フレイム・スラッシュ!」
近づいて斬撃を一閃。当然今回は本物だ。デーモンの身体から炎から吹き上がる。
斬れないと追加効果がない攻撃のため、威力が大きく相手を仰け反らせられる。
多少の硬直があるが、まともに当たったのでキタザワのほうが先に動けた。
「いける!ライジング・ドラゴン・ボルケーノ!」
剣を地面に付けると魔法陣が現れ、そこから斬り上げる。剣は炎竜のオーラを纏い、地面からは猛炎が吹き出す。
噴火と昇り竜が合わさったイメージの剣技スキルだ。
斬撃も当たったため、大ダメージを与えてデーモンを倒した。
キタザワは、これほど大技を連発せずとも倒せたはずだが、ルタオたちが心配なので一気に決めた。他にも早めに倒した理由はあった。
◇
時間は少しだけ遡る。雷属性が効かず、ルタオがデーモンに吹っ飛ばされた直後だ。
レイナが援護のためデーモンのほうに走りながら、スキルを発動する。
「シャンパン頂きましたー!シャンパン・シャワー3連脚!」
パッシブスキルに速度強化2つをセットしているレイナは、速度バフ『シャンパン頂きました』によって最高速度に達した。
その状態で走り込みながら蹴りを3連発。蹴る度にブーツから、圧縮された水が噴射される。
速度バフは、地面からの蹴り出しや脚の振りを速くする補助のため、蹴りも速くなる。
最初の蹴りが命中した時点で、水の威力でデーモンが吹っ飛ばされた。残りの2発は水の攻撃だけ当たる。
「簡単に吹っ飛ばされやがった。水に弱いなら一気に……」
レイナが距離を詰めようと走り出したが、デーモンが雄叫びを上げると、デーモンの前に黒い球体が現れた。
「デカイくせにビビってんのか、雑魚悪魔。あー、あたしのパンチラで興奮したか変態め」
黒い球体が広がり、更なるグレーターデーモンが召喚された。
グレーターデーモンは仲間を呼ぶことがある。キタザワがスキルゲージの消費を無視して一気に片付けたのは、これを防ぐためでもある。
「良かった、俺の出番あるじゃねえか」
仲間を呼ばれたことで、むしろ喜ぶルタオ。
「ルタオ、新しく出たほうは任せんぞ」
「閃光気雷弾.info!……よっしゃ、いける!」
ルタオは、新しく現れたデーモンに雷の気弾を命中させた。大きく仰け反り痺れるデーモン。弱点ではないようだが、雷属性は効いている。
「最初からそうしろよ、筋肉バカ」
「くそ、言い返せねえ。クソ悪魔を一瞬でぶっ潰す!」
雷の効くほうに走っていくルタオ。もう片方には、レイナが一気に距離を詰める。
ルタオのパッシブスキルは、攻撃強化が2つ。速度強化2つに速度バフを加えたレイナのほうが明らかに速い。
「あたしのほうが速いっての。ミドルミドルミドル!食らいな、〆張鶴・純米大吟醸・プレミアム!」
『〆張鶴』は日本酒の銘柄だが、効果は水の刃のついたミドルキックである。
なお、レイナの蹴り技は全てが水属性ではない。赤ワインやテキーラなら火だったりもする。
「うっせー、速さの違いは仕方ねえだろが!」
「そろそろイケや!ローローロー!瀧自慢・純米大吟醸 ・匠35!……からのー、東洋美人・純米大吟醸・一番纏!」
今度はローキックに意識を向けさせてからハイキックを浴びせるレイナ。
ハイキックがヒットすると、敵の頭上から滝のような水が落ちて敵の動きが止まる。レイナは更に近づいて、一番纏で飛びヒザを叩き込んだ。
グレーターデーモンは逝った。
ちなみに『瀧自慢』と『東洋美人』も日本酒の銘柄である。レイナは、スキル名に酒の種類や銘柄の名称を入れている。
「ちっ!やられやがったか、雑魚悪魔が!(とっとと終わらせねえと格好が付かねえ)」
デーモンに文句を言うルタオ。攻撃を盾で受け流して、最後の1体に近づいた。
「超絶コンボ・電光雷轟.net!あーたたたたたたた!」
雷属性が付与された拳を、素早く10発ほど叩き込む。具体的には、5秒間グローブに電撃を纏わせる形となっている。
つまり単なるパンチだが、グローブが紫色に光っており、腕の軌跡に残光があるため、それなりに格好は付いている。
痺れまくっているデーモンの両腕を払ってガードを抉じ開けたルタオ。
「ボディがガラ空きだぜ!Lightning!Thunder!At mark!Ogasawara!!!」
自身のプレイヤー名を付けた必殺ブロー『LTAO』。
綺麗に全身をモーション通りに動かさないと威力が出ないという制限を付けることで、凄まじい威力を出せるようにしている。
許容される誤差は少ないが、ヒットの度に敵は激しく痺れるため、うまく初撃を決めれば、あとは自分との戦いだ。
まずは『LTA』で高威力の雷を纏ったボディを踏み込みながら3発。
そこから『Ogasawara』と共にジャンピングアッパーを決めると、地面から上に向かって逆さ雷が昇り、強烈なダメージを与える。
なお、自然界でも稀ではあるが、逆さ雷が見れることはある。
『92%ルタオ!!』
ついでにアナウンスが流れるように設定しているルタオ。『92%』は、理想モーションにどれだけ近かったかを示している。
実際は2発目の『Thunder』でデーモンは倒せており、オーバーキルだったが、本人には分からないし、そこは彼にとって問題ではない。
「92ルタオ?くっそ、焦りすぎたか?」
何はともあれ、デーモンは全滅した。元より彼らを倒せるほどの相手ではなかったが。




