山田、特訓開始
目的のエリアに辿り着いた山田とモニカ。
道中はこちらから仕掛けず、襲われそうになったら逃げ続けた。いきなり強力な攻撃を受けたらどうなるかを知りたいため、ダメージは避けたい。
幸い速い敵には遭遇せずに全て逃げきれた。山田の感度は、物理、火、水、土、全てレベル1で変わっていない。
「山田、そろそろモンスターが強くなるはずよ。この辺に転送魔法陣を設置しよ」
「自分でも造れるのか?それなら何度も歩かなくて済むな」
「うん、少し広さのある平地なら設置が出来るわ。一人ひとつだけね。あたしが手本を見せるから、隣に造ってみて」
CFUでは、転送魔法陣を任意の場所に設置可能だ。
敗北して自宅に戻されても、すぐに設置した場所に移動出来るため、セーブポイントのように使える。
ただ、どこにでも設置出来る訳ではなく、特にダンジョン内は設置出来る場所が少ない。
山田とモニカは、1、2体程度のレッサーデーモンを探して挑む方針だ。
攻撃を受けるのが目的とはいえ、勝てるなら勝っておきたい。相手が3体以上の時は、可能なら逃げる。
山田は腕付けの小盾を出してあり、状況次第で身を守る予定だ。
モニカは相変わらず盾を出さないが、普通に考えて山田のほうが先に負ける。その時はモニカはログアウトして、ギルドルームに集合。そして、一緒に転送魔法陣からやり直すことになる。
「あれか?確かに強そうだな。黄色と緑色なら、ちょうど雷と風だろ?」
「デーモンだから光属性はいないよね。そこは後で考えないと。あっ、気づかれた」
レッサーデーモンは、身長180センチ以上、頭は山羊のような形で筋肉質。大きめの翼も生えていて、まさに悪魔ぽい姿だ。
それが2体。山田とモニカに気づいて向かってきた。インプのように速くはない。バサッバサッと羽ばたきながら、ゆっくりと向かってくる。
「俺、一撃では死なんよな……」
「凍えちゃえ!キラキラ・ダイアモンドダスト!」
まずはモニカが速度デバフを2体にかけた。
「ペロペロしちゃえ!ファンファン・キャンディー・ミルク味!」
山田の目の前に、棒付きの渦巻き柄の飴が出現して地面に落ちた。
「ペロペロキャンディーだと?」
「片手が塞がる分、効果は高いわ。ダメージ受けたら食べて。持つと勝手にビニールは取れるわ」
「攻撃キター!ぐはぁぁぁあ!」
デーモン2体の魔法攻撃を食らった山田。予定通りではあるが……。物凄く痛い。
飴を拾って盾を構える山田。速度デバフは効いている。すぐに次の攻撃は来ないはずだ。
「生きてるよね?見とれちゃえ!キラキラ・スターズ」
「残り30%くらい。死んでしまいます、モニカさん」
攻撃は受けたので、モニカは命中率を低下させるデバフを使った。
「噛むのを許可するわ。ペロペロしてると少しずつ回復するけど、一気に食べちゃって」
「勝てるのかよ、こんなの……(ガリガリ。確かにミルク味だ)」
モニカのスキルは、名前だけ食べ物だったサカモトのスキルとは違う。ちゃんと食べることが出来て味もある。
CFUのフルダイブは、味覚まで再現可能だ。さすがに味覚の身体スキャンは無理があるため、標準的な味覚のみ再現する仕様となっている。
逆に、味覚障害があろうが、味を感じることが出来る。本作の時代において、味覚を完成形に近いレベルで再現したVRはCFUのみであり、話題の機能のひとつだ。
「倒せれば、山田はすぐレベル上がるでしょ。ペロペロしちゃえ!ファンファン・キャンディー・ミント味!」
「……今度はバフってこと?」
「うん、ミント味は風の威力バフ。あ、ファンファンは、ファンシー・ファンタジーの略ね」
「お、おう……(ガリガリ。スースーすんな)」
ツッコミを入れる余裕はない。黄色のデーモンは雷属性で風属性が弱点。そちらを狙って杖を構える。
ネット情報では、弱点攻撃なら2倍のダメージ。更にモニカのバフで強力になるはずだ。
「ラピッド・ウインド・ブレイド!」
10発の風の刃がデーモン目掛けて高速で飛んでいく。全て命中して痛がるデーモン。
「痛ってーー!!そっか、さっき風と雷を食らったんだった……」
「ペロペロしちゃえ!ファンファン・キャンディー・イチゴ味!頑張れ、山田!」
「火のほうは感度レベル1……(ガリガリ。ちゃんと甘酸っぱい。すげえなCFU)」
デーモンが更に攻撃してきたが、ろくに狙いが定まっていない。一部は盾で受けきった。腕付けの盾なので飴を食べながら防御出来る。
ただ、何度か受けるとレベル1の盾は割れてしまうだろう。なるべく早く片を付けなければならない。
「このイチゴ味。ちょっと良いやつ?ファイアー・ブレッツ!」
今度は緑色を狙って火のスキル。敵は動きが鈍っており的も大きい。こちらも10発全て命中した。
「痛ってー!が、さっきよりはマシか……」
「頑張って調整したからね、イチゴ味。てか、他も良かったでしょ」
「元々ミントはそんなに好きじゃないんだよな」
「ハァ?そんじゃミントもうあーげない」
「ごめんなさい。バフないと無理っす」
「冗談よ。早く倒さないと盾が割れるわよ」
(ぐ……。あくまで攻撃は俺かよ)
「あたしは攻撃しないわよ。山田の貢献度を上げたほうが良いし」
「(心の声がバレてやがる。まあ意地でもモニカに攻撃は当てさせん。)もういっちょ、ラピッド・ウインド・ブレイド!」
共闘で得られる経験値の割合は、ダメージ量などの貢献度で決まる。
勿論、モニカの補助も効果が高いために貢献度は高いので、なるべく山田は攻撃して稼いだほうが良い。
また、CFUでは実力差の大きい敵を倒したほうが得られる経験値は増える。
これだけ苦戦する相手だから、倒せれば山田は多くの経験値を得られるはずだ。
◇
山田は攻撃スキルを何度も命中させて、レッサーデーモン2体を倒せた。途中でスキルゲージが切れかけたが、盾で凌いでなんとかなった。
「ハァハァ……。やったぞ」
「ごめんね、山田。途中でスキルセット切り替えれば痛みを抑えられたのに、忘れてたわ」
山田は、ダメージを与える度に自分も痛かったので、やたらと疲労感があった。ライフゲージは回復しているので、気のせいでしかないのだが。
弱点が分かっている相手なのだから、攻撃を受けたらスキルセットを切り替えて、シナスタジアをオフにすれば良かった。
「いや、俺も忘れてたし。プリセット作れば良いのか?」
「うん、発声で切り替えられるわよ」
「Hey、アダム!ステータス画面を見せて。先に感度レベルの確認だ。えっと、風と雷はレベル3」
「やっぱり攻撃を受けた回数じゃないのね」
「やってやるぜ。これで光以外はレベル3に出来る」
山田自身のレベルも8に上がった。まだレベルは簡単に上がるはずで、少しずつ楽にはなる。
ただし、何体も襲ってこられると厳しい。そして、このエリアには、勿論レッサーデーモン以外の敵もいる。
しかし、何度か負けるのは想定内だ。山田たちは、感度レベルを上げるための特訓を続けることにした。




