山田、ボーナススキルを試す(5)
山田がモニカに言われて、荒木と中島のほうを見ると、中島が棍棒で殴り飛ばされていた。
(痛ってーな、ありゃ……。あれ?眼が痛い……)
倒れた中島が起き上がらない。荒木に続き、中島も寝てしまったことに気づいた山田。
「ヤバい、中島も寝た!どうすんだ、これ」
「でも、鎧は追撃してないわね。起きちゃうから?」
「こっち向かってくるだろ」
「あたしのスキルゲージに余裕はあるけど……」
荒木と中島は、横になって文字通り寝ている。
鎧ゴブリン2体は、荒木と中島は問題ないと思ったのか、山田たちのほうを見た。
一応、鎧ゴブリンとは、まだ5メートル以上は距離があり、見る限り足は遅そうだ。しかし、中島を殴り飛ばした力を考えると、近づかれたら勝ち目はないだろう。
「起こすしかねえ、撃てば良いのか?それかジジとララ?(さっき、眼に痛みを感じた。それからすぐ中島が寝た……)」
「寝てるのに当てられる?それに、下手にダメージ与えるのも……。あ!」
必死に頭を回す山田とモニカ。お互いに何かを思い付いた。
モニカが杖を荒木に向けて、スキルを発動した。
「チクチクしちゃえ!お怒りハリネズミさん!我慢しろ、荒木」
「なんですと?」
山田はメイジとゴーレムの攻撃を捌きながら、荒木のほうを見た。
横になっている荒木の下に、針を突き立てた大きなハリネズミがいた。荒木の身体が針で持ち上がっている。
「痛ってー!!!……がふっ!」
荒木が叫び声を上げて飛び起きた。ハリネズミは数秒で消えて、荒木の身体は地面に落ちた。召喚術ではなく、あくまで攻撃スキルだった。
メイジが驚いて荒木のほうを見ていたのに気づいた山田は、その隙にメイジをロックオンする。
「サンダー・チャージ。ロックオン。モニカ、荒木にダイアモンドダストと回復」
「え?ハリネズミさん、ダメージは少ないはずだけど、荒木を凍えさせる?」
「たぶんまた眠らされる。何かいる。土属性だと思う」
「ま、いっか、荒木だし。凍えちゃえ!キラキラ・ダイアモンドダスト!」
相手が中島だったら躊躇ったのだろうか。モニカは、ハリネズミを荒木から試して、更に言われたまま冷気のデバフを浴びせた。
「寒い。何が起こってやがる?」
寝ぼけているのか、震えながら混乱している荒木。
山田のほうに向かおうとしていた鎧ゴブリン2体が、荒木が起きたのに気づいた。
荒木に近い位置にいる1体が、荒木に棍棒で殴りかかろうとする。
「一刀・猛焔斬!」
反射的に荒木は、迎え撃つためにマニュアル剣技を発動した。剣に炎を纏わせた一撃のみの技だ。
寒さで動きが鈍くなりながらも渾身の力で剣を振るい、鎧ゴブリンの腹部に当てられた。
「チクチクしちゃえ!お怒りハリネズミさん!……痛いのかなぁ?威力は低いんだけどな」
モニカは、中島も起こすためにハリネズミを使った。
「痛ったー!!!……げほっ!……痛てててて、何?」
中島も飛び起きた。ハリで刺されてから地面に打ちつけられるのだから、当然それなりに痛がる中島。
メイジの意識は、荒木と中島のほうに向いているらしく、ロックオンした位置から動いていない。それを確認した山田がスキルを発動する。
「サンダーボルト!」
バフで威力の増した雷撃を当てられた。倒せなかったが、大ダメージを与えたはずだ。
山田は、雷属性が自分に直撃した経験が無かったため、痺れは感じなかった。
「(いずれ俺も痺れるんだろ?目を逸らさないとヤバいな。)モニカ!たぶん凄く小さい敵がいる」
山田は、中島が寝る直前に自分の眼が痛かったのは、何らかの魔法によるものだと予想していた。その時、メイジは動いていなかったはずなので、以前モニカから聞いた小さなモンスター辺りがいるはずだ。
「凍えちゃえ!キラキラ・ダイアモンドダスト!小さい敵?遂に使うときが来たわね」
結局、中島に対しても躊躇しなかったモニカ。それなりにパーティーのピンチだと言うのに、むしろ、レアモンスターを倒せることが楽しみで仕方ないようだ。
「来て!雪の妖精シマエナガちゃん!……あっちのほう探してチッチ!」
「シマエナガ?鳥?」
とても小さな鳥が召喚された。体長が10センチくらいしかない白い鳥だ。
モニカが杖で荒木のいる辺りを指して、その鳥を向かわせた。小さいが動きは速い。
「可愛いでしょ。北海道にしかいないからか飼えないのよね。疑似召喚なんだけど、あのコなら探せるはずよ」
「疑似召喚?そんなことも出来んの?ウォーター・ブレイド!」
ゴーレムに攻撃しながら会話をする山田。
荒木と中島が寒がりながらも奮闘しているが、まだ敵を倒せたわけではない。とはいえ、鎧ゴブリンは、山田とモニカのほうには近づいて来ない。当面の危機は脱したはずだ。
「うん、時間かければ色んなスキル創れるわよ。あ!捕まえたっぽい」
「速いな、チッチ」
本当のペットではないそうだが、モニカとしては名前で呼んで欲しいだろうと、チッチと呼ぶことにした山田。
山田はシマエナガという鳥を知らなかったが、確かに小さくて可愛い。たぶん虫とかを食べるため、小さい敵を探せるのだろう。
チッチが何かを咥えて戻ってきた。
「山田に見せて、チッチ」
「なんだこいつ?爺さん?」
背中に袋を抱えた老人みたいなモンスターだった。妖精の類いだろう。
その妖精はチッチよりも小さいが、チッチは敵を倒せる訳ではないようだ。食べることを想像したくもないが。
杖には攻撃力がないし、チッチごと叩くわけにもいかないので、ゴーレム側に放り投げて貰う。
「モニカ、ゴーレムのほうに頬り投げて貰って」
「あの辺に投げて、チッチ」
「……ファイアー・ブレッツ!」
山田は、中島が眠らされた時の感覚から土属性と予想していたため、ウォーター・ブレイドにしたいところだったが、薄い刃の形状で当てるのは難しそうなので、自動連射となるブレッツを使用した。
何発かは分からないが、小さな妖精に命中した。




