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紗蘭と亜門、神社の戦闘

 紗蘭と亜門は、食事を終えて神社に戻っていた。

 神社の敷地内で、エネルギーの流れを確認している紗蘭と亜門。


「ここらが一番、負のエネルギーが溜まってるのよね」


 特殊な力を持つ2人には、拝殿と授与所から、黒い風のような負のエネルギーが流れていることが分かる。

 それは少し離れた箇所で渦巻いていて、黒い球体のようになっていた。


 紗蘭は特殊な呪符じゅふを使って、その場所にエネルギーが溜まらないよう、流れを変えるつもりで周囲を見渡していた。


「おい、ゲートが広がってくぞ。お出ましか?」

「どういうこと?誰かに呪術の類いでも使われた?」


 黒い球体が広がっていき、突然、大きな犬型のモンスターが現れた。頭が2つ、尻尾は蛇の形をしている。体高(四つ足の状態の高さ)は2メートルほどある。

 2人は即座に距離を取ったが、特に驚きはしなかった。


「なによ、化け犬?大きいわね」

「オルトロス……。ギリシャ神話に出てくるケルベロスの弟にあたる魔獣だ」


「ハア?日本に出現するとは思えないじゃない。召喚されたってこと?」

「非物質状態なのは当然として、まだ存在が不安定だな。俺がやる。召喚、童子切安綱どうじきりやすつな!」


 亜門の右手に日本刀が現れた。

 童子切安綱とは、源頼光が用いて、酒呑童子を倒したとされる刀剣である。日本の国宝に指定されていて、現存している。現在は国立博物館に保存されているはずだ。


 紗蘭は両手を合わせて印を結びながら、真言を唱える。


「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」


 紗蘭の周囲、半径1メートル程に光の膜が現れた。

 忍者や陰陽師が使ったとされる『切紙九字護身法きりかみくじごしんぼう』と呼ばれる密教の呪法である。

 なお、印を結ばずに手刀を使う『早九字護身法はやくじごしんぼう』という類似の呪法も存在する。印を結ぶほうが、時間はかかるが効果は高い。



 刀剣でオルトロスに斬りかかろうと走る亜門。しかし、それが届く前に、オルトロスの双頭の周辺の空気が歪み、2つの口から無色の何かが吐き出された。


「ぐはっ!」


 亜門が気づいたときには、腹部にダメージがあった。動きを止めて苦しむ亜門。


(空気を圧縮した弾みたいなもんか?)


 亜門は腕でガードしながら、オルトロスから距離を取る。またも空気が歪む。


「召喚、プロテック・タクティカル 防弾シールド!」


 亜門は左手を前に出して、大きな盾を召喚して空気弾を防いだ。

 SWATがテロ鎮圧等の時に使う盾である。プロテック・タクティカルとは、米国の大手防弾装具メーカーのことだ。


(やはり、空気弾だな)

「ちょっと、何それ?祓魔師ふつましらしい武具にしなさいよ」

「魔力は込めてるぞ。見た目なんか気にすんな」


 オルトロスは、紗蘭のほうにも空気弾を放つ。しかし、沙羅の周囲に張られた光の膜に搔き消された。


「私が動かないうちは通じないわよ。亜門とやってなさい」


 紗蘭の九字護身法は、魔力から身を守る強力な結界術であり、範囲から出るか、自身が他の術を使うまでは有効だ。

 オルトロスは、紗蘭には通じないと早々に諦めたのか、標的を亜門に絞って、2つの口から空気弾を連射する。亜門はそれを盾で防ぎ続ける。


「ろくに見えねえ攻撃なんて、まともにやってられっか。どうせ誰も見ちゃいねえ。召喚、B&T VP9!」


 亜門は周囲を確認してから、今度は拳銃を召喚した。それと同時に刀剣のほうは消えた。

 スイスのB&T社が開発した、動物を安楽死させる用途で開発した消音拳銃VP9である。

 消音性能を重視しており、全長の半分程がサイレンサー。マガジンの容量は5発だが、ボルトアクション式で弾丸の装填に時間がかかり、連射は出来ない。


「亜門、だから弓とかにしてよ」

「これを使ってみたかったんだよ。銃声は無いから安心しろ。食らいやがれ!」


 亜門は弾丸を装填して、オルトロスに向かって撃った。VP9は、音速に近い速度で弾丸を発射することが出来る。

 弾丸が命中して、オルトロスは苦しんでいる様子だ。


「VP9の銀の弾丸なら、空気弾では防げんだろ。最新鋭の兵器をなめんなよ。ギリシャ神話の番犬さんよ」


 次の弾丸を装填している亜門を見て、紗蘭は少し呆れた様子だ。


「本人は得意気だけど、なんか格好が付かないわね……」

「何か言ったか?紗蘭」

「何でもない。とっとと滅しちゃって」


 オルトロスが中距離攻撃を諦めて、亜門に飛びかかってきた。

 亜門は更に弾丸を撃って動きを止め、童子切を再度召喚して持ち変える。即座に童子切で2つの首を斬り落とした。

 オルトロスの姿が消えていく……。


「やったわね」

「正確には、召喚前の場所に追い返しただけだがな」


「首を斬り落としたのに?神話の怪物だからってこと?」

「それなりの認知度があって形をイメージしやすい。あのクラスで存在が安定しちまうとヤバいぞ」


「なんにせよ流れを整えれば、この神社がゲートにはならないわよね?」

「ああ、とっとと塞いどくか。ありゃ危険すぎる。東京は人が多すぎるしな」


 紗蘭と亜門は、予定通り呪符や結界石を使って、神社のエネルギーの調整を終えた。


「一応、如月きさらぎに報告しとこうかしら?魔術師が儀式に失敗したとか、あり得るでしょ?」

「素人が偶然召喚したって線は……あのレベルじゃ可能性が低すぎるか。しかし、今時そんなことする連中いんのか?ありゃ悪魔召喚の類いだぞ」


「魔術師なら召喚目的で儀式をしたことになるわね……。けど、悪魔は召喚しても制御が出来ないことは理解してるはずか……」

「オルトロスは手違いにせよ、あの手の奴を召喚しようなんて自分の身も危険だろ。契約前提なら、ここがゲートになったのが理解に苦しむ」


「どのみち、そこまで調べるのは私たちの役目じゃないわよ」

「如月に報告するのは反対しねえよ。あいつに調べさせるか」


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