ペンタグラム・コロシアム(4)
遠くにいるサカモトは、キタザワを狙っていたが、突然標的が猛スピードで移動したため混乱している。
ローザは、キタザワを加速させた直後に弓を持ち、弓弦を引いていた。サカモトを狙って弓技スキルを放つ。
「アルテミス・ウインド・アローズ!」
ローザは『アルテミス』の発声をロックオンに指定している。高速の弓矢がサカモトに向かって放たれた。
トドロキは、防御バフを掛けていたこともあり、ほとんどダメージを受けなかったが、浮いている状態だ。
仮に炎を跳んで避けずとも、風の影響で浮き上がっていたと思われる。
「ち!しかし引き離されただけ……速い!」
キタザワも軽く浮いている状態で、一瞬で距離を詰めていた。そして鞘から剣を抜いて、剣技スキルを発動する。
「クリムゾン・フレイム・スラッシュ!」
(煙遁・改!)
トドロキは咄嗟に判断して、煙幕を張った。キタザワの剣は、赤い閃光を放って、素早く横に斬りつけたが、斬れたのは丸太だった。
トドロキが発動したのは、緊急回避のために、魔法によって身代わりを用意するスキルである。いわゆる空蝉の術。
自身は瞬間移動したわけではなく、数メートル上空に飛び上がっている。現状のCFUには、即座に瞬間移動可能なスキルはない。やはり、対人戦のバランス面の理由からである。
ローザはサカモトに向けて、バフで強化された10本の矢を放っていた。
サカモトは、キタザワに意識を向けていたため、盾を構えるのが間に合わず、ほとんど食らってしまった。
「しまった!ぐぁぁ!」
CFUは、身体が魔力で守られている設定となっており、本人のレベルやスキルに応じてダメージが軽減され、その上で攻撃に応じた痛みや熱さを感じる。4人のレベルは大差ないが、直撃は相応に苦しい。
一気にダメージを食らった際に、痛みを感じてしまうと苦しすぎるため、限度は設けられているが、思わず叫ぶ程度にはキツい。
トドロキは、空蝉で攻撃を躱して上空にいる。キタザワの視界には入っていないはずである。
上空から仕留めるため、短刀を抜いて、大ダメージを与える剣技スキルを発動する。
「(殺った!)疾風迅雷!」
「ボルカニック・ブースト!」
空蝉で躱されることを想定していたキタザワは、すぐさまスキルを発動した。全身が激しい炎に覆われて、上空に炎が噴き上がる。
このスキルは、発動時に攻撃するだけでなく、『ブースト』の名の通り、炎の威力を増加するバフ効果も付いている。
「バカな!(スラッシュの硬直時間はないのか?しかも全身攻撃だと?)」
トドロキの渾身の攻撃は、炎で止められた。大体の位置を把握したキタザワが追い討ちをかける。
「そこか!バーニング・サラマンダー・ダンス!」
剣に炎竜のオーラを巻き付けて、連続攻撃を放つ剣技スキルだ。
CFUの剣技や槍技は、武器を属性効果等で強化して攻撃を放つことが出来る。オートとマニュアルがあり、オートは身体を勝手に動かしてくれる。
キタザワが使ったのはマニュアル剣技だが、『…スラッシュ』は一閃で『…ダンス』は滅多斬りに過ぎない。自分で動いたほうが方向も定めやすい。
キタザワの長剣は、炎の効果を増加させる効果を持つ『ソード・オブ・イグニス』。それが炎のバフと剣技で強化され、とてつもない威力となった。
何度も斬られるトドロキ。防御バフを掛けていても、さすがに耐えきれずに敗北。闘技場から姿を消した。
◇
ギルドルームで観戦していた荒木が興奮している。
「すげえ!炎と風で一気にトドロキを倒した!」
中島が疑問点を指摘する。
「あのスラッシュ?連撃ではないと言っても、硬直時間あるんじゃないの?」
モニカが気づいていた。
「たぶんスラッシュはダミーね。見た目の効果だけで、ただ軽く斬っただけ。それなら、ゲージも減らないし硬直もないわ。スキル枠をひとつ潰すことになるけど……」
モニカの想定通り、キタザワは、対人戦のためにダミーのスラッシュを用意していた。
本来は斬った箇所から炎が吹き上がって、追加ダメージを与えるスキルだが、ダミーは、単に赤い光が出るだけの効果にされていたのだ。
しかし、山田たちは、ローザの光の意味までは想像が付いていない。
山田はモニカに尋ねてみた。
「結局あの光の柱はなんだったんだ?近づかせないためのブラフ?」
「そこが良く分からないのよね……」
◇
疾風迅雷の残りはサカモト。弓を構えてローザの様子を窺いながら走っている。
キタザワの長距離攻撃はないはずだが、ローザは別だ。下手に背を向ける訳には行かない。
「兵糧丸!とにかく動かなければ狙われる。中距離スキルも積んではいるが……」
兵糧丸は、回復魔法スキルである。名前は忍者の食べ物らしくしているが、遠距離にも対応していて、食べるわけではない。本来はトドロキのために用意していた。
サカモトは、ローザの弓矢で相当なダメージを受けていたため、完全には回復出来なかった。スキルは即座に連続使用は出来ない。効果によって時間は異なるが、少しの間、チャージする必要がある。
サカモトは、様々な方法の攻撃を優先していたため、他に回復スキルはセットしていなかった。
「アスクレピオス・キュア!ゼピュロス・アローズ!」
弓を構えていたローザも回復スキルを使った。更に、ロックオン不要な直線的に攻撃する弓技スキルで、矢を連射してきた。
(もう無理だろ、これ……)
半ば諦めぎみだが、一応は回避するサカモト。すると近くにキタザワがいることに気づいた。
「なんだと?(速すぎる!)疾風手裏剣!」
「そんじゃまたな。バーニング・サラマンダー・ダンス!」
サカモトは、弓を落として中距離攻撃スキルを出したが、悪あがきに過ぎない。避けられて、斬られまくって敗北した。
「WINNER ライジングサン!」
アナウンスが流れて、ライジングサンの勝利で終わった。




