死体処理
「自首したって、捕まるだけだよ?」
彼の言ってることは至極真っ当だが、手伝わせた僕が言うのもなんだけど、彼には潔白でいて欲しかった。彼も罪をかぶるくらいならいっそのこと僕を糾弾してくれれば良かった。
「君だって、それは嫌だろう?」
「手伝わせて、ごめん」
「別に、やりたくてやってるわけだから、謝らないで」
そう言って彼はまた笑う。僕はそれを見て、やっぱり、と内心思う。
やはり、彼は善人だ。悪人であればこんな風に笑えないはずだから。
しかし、そんな彼をこれから貶めようとしていることに罪悪感を覚えるが、もう後戻りはできない。
今更やめることなどできないのだ。
話すこともなくなり、黙々と作業を続ける。
時折鳥の声や、なにかが動いて草が揺れる音だけ聞こえる。
スコップの掘る音が響く。
この音を聞いているのは、僕らと動物だけだとわかっていても、その音を後ろめたく感じる。
僕は昔から、人の目を気にして生きてきた気がする。他の人よりも、テストで良い点数を取りたがったし、運動でも、できる人とできない人が分かれてしまうような競技では、できるだけ目立たないように努力してきた。きっとそういうところがあったんだろうと思う。
目立つことを怖れているくせに、自分が優位に立ちたいという気持ちもあったのかもしれない。
中学のときなんかは特に酷かった。
クラスの中心人物である男子生徒のことをずっと意識していた。
彼が何かすると、自分もそれを真似したり、周りもそれに同調したりしていた。それがとても楽しかったし、自分の価値が上がったようで嬉しかった。
結局、それは虚像に過ぎなかったけど。高校に入って少しはマシになったと思ったけど、それも気のせいでしかなかった。
ただ、目立たないように、波風立てないように。
いつも誰かの顔色を窺っていた。
そんな時だった。
僕はいじめを受けた。
最初はふざけてからかわれたりする程度だったけど、エスカレートしていき、お金を取られたり、時には、殴られることもあった。
僕が人を殺した日、僕は、いじめっ子の1人から、あまり人気がない神社に呼び出された。
僕は神社の賽銭箱の前で彼がくるのを待っていた。
わざわざ人気のないところへ呼び出したのだから、いつもより執拗に殴られるのだろう。
いじめっ子が来た。
殴られるかと思いきや、いじめっ子はポケットからナイフを取り出した。
とっさに手首を掴み力任せに引っ張ると、バランスを崩したのかいじめっ子は転んで、賽銭箱に頭をぶつけた。
その隙にナイフをひったくって、背中に刺した。
殺すつもりはなかった。
殺してしまったら、罪に問われるのは自分だと理解していたからだ。
いじめっ子がいじめられっ子の反撃を受けて怪我をしたということでなんとかなると思っていた。
人間は脆い。
たしかに、ナイフを一回刺しただけでは、いじめっ子も大怪我を負うだろうが、死ぬことはなかった。
だがそれは、すぐに処置を受けた時の話だ。
人間は大怪我をしても処置を受けれなければ死ぬ。
だが....僕は逃げた。
次の日学校で担任の先生が彼が行方不明になっていることを伝えた。
クラスメイトは、ざわめき、驚いていたが、悲しんでいる様子や心配する様子はなかった。
その日は授業に身が入らなかった。
放課後、急いで神社に行った。
ソレは、階段のすぐ近くにいた。
賽銭箱から茶色くなった血が伝っていた。
きっとすぐには死なずに這って移動したのだろう。
もう少し進んでいたら階段の下から見えて、もしかしたら通行人に見つかっていたかもしれなかった。同時に、少し安心する。
まだ、誰も気づいていない。
急いで片付けないと。
何か使えそうなものがないか家に帰ろうとした時だった。
親友の彼がいた。彼は「やあ」と呼びかけてきた。そして、彼は言った。
「手伝ってあげようか?」
「昨日あいつに呼び出されてたよね。でも、あいつは帰ってこなかった。」
「まさかとは思ったけどね。」
彼は微笑んだ。
「これで君は殺人犯だ。」
彼は僕の肩に手を置き、言葉を重ねる。
「一緒に埋めよう?」
彼は小さい頃からギターをしていた。
彼のギターケースに入れて、2人で運べば誰にも見られず死体を運べるだろう。
幸い、僕の家の物置にはノコギリがあった。
ソレを使い、四肢を分断し、匂いが漏れないようにサランラップでぐるぐるに巻いてギターケースに半分ずつ入れた。
彼は、「もうこのケース使えないね」と笑った。
死体は、山に埋めることにした。山は広く、深く、奥まで行けば人も滅多に来ないからだった。
ザク、ザクという音が止まる。
「これくらいでいいかな?」
彼は汗を拭う。ソレを見て、自分も汗をかいていたことに気づく。
死体を穴の中に入れる。
そーっと入れたけど、胴体を入れると、ドスンと大きな音がなった。
その重みに、罪の重さを感じる。
土をかぶせる。
掘る時とは対照的に、すぐに終わった。
土の色が違うのを隠すために周りの土を上にかける。
終わりは案外あっさりだった。
ただ、彼を共犯者にしたことだけが気がかりだった。