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太陽の君

少しだけ過激な内容とも捉えられるので、念のためご注意ください。

君は太陽だ。

君は何事にも一生懸命で情熱が絶えないけど、いつもは穏やかな笑顔を浮かべて私の心を暖かく包みこみ明るく照らしてくれる。君にはずっと笑っていて欲しい。

それが私の願いだ。だからもし君の笑顔を曇らせるものがあるとしたら私の全力を以って排除しよう。君に初めて会った時にそう決めたんだ。君には太陽のように暖かく明るく笑っていて欲しいから。


そういえば、初めて会ってから数年経った時から君は私の後をついてきてくれるようになったね。私が少し離れるとその可愛い声と明るい笑顔で追いかけてきた。私だけに向けてくれる笑顔が何より嬉しかった。

それからまた数年経つと私の隣に並んで歩くようになったね。小さい君が私を見上げて嬉しそうに笑ってくれる。近くなった距離から暖かさをより感じられて君の存在はいっそう眩しくなった。

ある時君は嫌な事があったのか元気がない時があったね。君は私に心配を掛けさせないようにと隠していたようだったけど、何年も隣で君を見ている私にはすぐに分かってしまったよ。そんな気遣いも嬉しかったけれど、そういう時に頼ってもらえないのは少し寂しかったな。

それから少しすると君はまた元気に笑うようになった。暖かく私を照らしてくれるようになった。頑張って障害を取り除いた甲斐があったかな。


それからまた穏やかな日々が続いていたある日。私の中で君の次に大切な人が空へ旅立ってしまった。突然の事だった。その人がいたから君と出会えた。その人が笑っていると君も嬉しそうに笑う。だから彼女の事も大切だった。

少し広くなった部屋は君がいてもどこか寒かった。小さな箱の中にいる彼女の最後の表情は綺麗な笑顔だった。涙が止まらなかった。

君も彼女がいなくなって悲しくてとても辛いはずなのに、君はずっと私の隣にいてぎゅっと手を握ってくれていたね。その手は強く握っているからか、君も泣いているからか、私が泣いているからか、ずっと震えていた。

その時に改めて君の心の強さと温かさを知ったんだ。だから彼女と最後の別れのとき、改めて誓ったんだ。君の心を曇らすものは私が絶対に排除する。君は太陽だから。私の唯一の太陽になったから。

それから元の生活に戻るのに時間はかかったけれど、また君が太陽の姿を見せてくれるようになった。それを見ると私の心も前と同じように温かく明るくなる。穴は随分と小さくなっていった。

私には君が笑っているだけでいい。


いつの間にか君は私の隣ではなく前を歩くようになった。私の手を引いては時々後ろを向いて笑ってくれる。その後姿はなんだか大きく見えた。彼女がいなくなってから君は時々私を気遣ってか私の傍から離れない時がある。

だから私は時々君に甘えて君をそっと抱きしめるんだ。君の私より高い体温と私の腕の中で嬉しそうに笑う君は本当に暖かくて眩しくて離れがたくなる。

慣れない料理を一生懸命に頑張る君。初めは焦がしてしまったり、味が薄かったりと上手に作れなくて泣いてしまう時もあったけれど、毎日毎日レシピとにらめっこして納得いくまで挑戦して。君もどんどん毎日のやる事が増えて君の作った夜ご飯を食べながら今日あった事を話す時間が幸せで。

二人で過ごす時間は減ってしまったけれど、二人で囲む食卓が前よりずっと楽しくなった。


そんな日が続いて数年が経ったある日。君はまた前よりやる事が増えてそれに伴って君の世界もどんどん広がっていった。私の知らない君が増えていくけれど夜に、今日こんな事があった、今日こんな事が出来た、と少し興奮したみたいに頬を赤らめて瞳をキラキラさせて楽しそうに私に教えてくれる君は私しか知らないだろう。

それなら私が知らない君が増えても良いかなと思う。最後に全て私の所に戻ってきてくれるから。そんな風に思っていた。思っていたのに。

いつの間に間違えてしまったのだろう。最近はたまに今日あった事の中で私に教えてくれない事がある。いつものように夜ご飯を作ってくれていつものように瞳をキラキラさせて話してくれるけれど、たまに何かをぼんやりと考えては嬉しそうに頬を緩めている。

私が何かあったか聞いても少しだけ頬を赤らめて何もないと答えるだけ。何で教えてくれないのか。私だけが君の中まで知っていればいいのに。私だけの太陽なのに。それでも私に向けてくれる暖かさは変わらないから良いのかな。

でも君の事を全て知っていないといざという時に守れないじゃないか。私の役目は太陽の君を曇りから守る事だから。


そうやってぐるぐるして過ごしていたある日。家に帰った私を玄関まで迎えてくれた君の顔に涙の痕があった。その瞬間私の心の一部分が真っ黒に塗りつぶされた気がした。私を見て君はいつものように笑うけれど、それは私の知ってる太陽とはかけ離れていた。

何が君にそんな顔をさせたのか。何が君を無理させているのか。

私は一旦、真っ黒を隠して君に何があったのか聞いた。私なら君を曇らせる原因を排除できるから。それなのに君は何もないよ、と辛そうに笑うだけだった。全く隠せていないのに君は私に心配されたくないからか隠そうとする。

私の見ていない所で、隠れて泣いている。何度聞いても君は何も教えてくれない。私はいつ間違えてしまったのか。

私は君に太陽のように明るく笑っていて欲しい。私は君に太陽のように暖かくいてほしい。私は君に太陽のように心を熱く一生懸命でいて欲しい。私は君に太陽のように私を照らし包み込んでいて欲しい。

それだけなのに。

今の君は曇りのように泣きそうに笑う。今の君は雷が鳴ったかのように肩を震わせている。今の君は雨が降ったように全ての熱をなくしてしまった。今の君は雪が降ったように私を冷たくさせる。

何でこうなってしまったのだろう。何を間違えてしまったのだろう。

君は太陽でなければならないのに。だから私は考えた。だから私は行動する。

何とか探った原因はどうやら完全に排除するのは難しいようだった。けれど君を曇らせた一番の原因だけは排除した。それでもやはり君は元に戻らなかった。それならば私の手で君を元に戻してあげよう。何よりも明るくて何よりも暖かくて何よりも熱い太陽の君に。そしてその姿の君で私を照らし包み込んで欲しい。

君は私の太陽だから。

そしてまた、今度は彼女も一緒に3人で笑おう。




◇◇◇




一昨日の午前2時に○○県△△市の住宅で火事があり、焼け跡から二人の遺体が発見された事件で警察によりますと、この家に住む40代の男性とその子供で小学3年生の女の子である事が分かりました。警察は二人の遺体は抱き合うような形であったため無理心中を図ったとみて調べを進めています。

強すぎる光は時として毒にもなってしまうのです。

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