第六十二話 今度こそ
『ひどい顔してるわよ』
リビングに移動するなり、レナがタオルを渡してきた。
顔を拭いてから、もう一度前を見る。
……よかった。
すべては俺の幻覚で、顔を上げたらレナは再び消えているんじゃないかって思ったけど、ちゃんといた。
この世に存在していた。
「……レナはなんで成仏できなかったんだ?」
ずっと気になっていたことを尋ねる。
レナがここにいるということは、成仏できなかったということだ。
『正直に言うとね、天国の入り口までは行ったわよ。海斗と一緒に過ごすのはとても楽しかったわ。すごく満たされたし、おかげで成仏できるようになったもの。でも、天国の入り口を前にして思ったの。まだ成仏したくないなって。だから帰ってきちゃった』
レナは『だって……』と前置きしてから、続けた。
『──すごく大きな未練ができちゃったから』
未練がなんなのか、考えなくても分かる。
いや、そんなこと、話を聞く前から分かっていた。
レナがここまで言ってくれたんだ。
俺も、今度こそ言うんだ。
二つの言葉が脳裏によぎる。
──成仏した後も決して色褪せることのない思い出にするしかないんだよ。
──決して後悔しないようにしてください。
このままではダメだ。
変わらないといけない……いや、変わると心に決めたから。
驚くほどあっさりと、伝えたかった言葉を口にできた。
一歩を踏み出せた。
「レナ。俺は、お前のことが、大好きだ!!!」
正面から目線を合わせて、一言一句ハッキリと。
俺のすべてを言葉に込める。
「俺の人生のすべてをかけて、お前の未練を満たしてやる。これ以上ないくらいに満足させてやる」
だから。
──だから!
「俺と、付き合ってくれ!! あの世に行っても忘れることができないくらいの、最高の思い出を一緒に作りたいんだ。レナじゃないと、ダメなんだッ!!!」
俺の本当の気持ちを。
ずっと伝えたかったことを。
ありったけの想いを込めた、本気の告白だ。
絹のように白いレナの頬が、瞬く間に赤く染まる。
きっと俺も、レナに負けないくらい赤くなっているのだろう。
「俺じゃ嫌か?」
『……バカ。いいに決まってるでしょ。私を幸せにしてみせなさいよね!』
やれるものならやってみなさいと言わんばかりに偉そうに告げてきたレナは、俺の体に腕を回す。
ギュっと抱きしめられた。
「できないわけがないだろ?」
この幸せを手放したくない。
レナがいない生活に戻りたくない。
俺はレナを抱きしめ返した。
最高に楽しいレナとの同棲生活は、これからも続いていくのだ。
これにて本作は完結となります。
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