表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/62

第六十話 最後

「着いたはいいものの、あんまり腹減ってないんだけど」

『……私も一個丸々食べるのは無理そうだわ』


 クレープ屋までやって来たのはいいものの、ここにきて問題が発生した。

 三十分ほど前に昼ごはんを食べたばかりだったから、二人ともあまりお腹が空いていなかったのである。


「せっかく来たんだし、何も買わないっていうのもなぁ……」


 そう漏らすと、レナが恥ずかしげに提案してきた。


『一つ買って一緒に食べるのはどうかな?』

「それ、間接キスにならない?」

『そうなるけど、海斗なら気にならないわ』

「……そっか」


 そう言われれば、断ることはできなかった。

 俺としても気にならないし、そもそもレナの誕生日パーティーの時にがっつり間接キスしていたから、いまさらって感じだし。


 そんなわけで、俺はクレープを買ってきた。

 レナと一緒に近くのベンチに移動する。


『すごくおいしそうね!』

「そうだな」


 生地の中にたっぷりと詰まった生クリーム。

 ふんだんに入っているチョコバナナ。

 見てるだけで食欲が掻き立てられるほどおいしそうだ。


「レナから食べていいぞ」

『ん。じゃあ、お先にもらうわね』


 レナが大きな口を開けて頬張る。

 たったの一口で俺の三口分くらい持っていったのがレナらしくて、つい頬が緩む。


『ん、最高!』


 目を輝かせながら一生懸命食べるレナは、見ていてとても愛くるしかった。


「次は俺の番だな」


 俺も一口パクリ。


「ん、うめえ!」


 あまりのおいしさに、思わず目を見開いた。


 甘さ控えめな生クリームに、チョコレートたっぷりなバナナの風味がマッチしている。

 生地はしっとりとした触感で、生クリームやチョコバナナの味をより引き立てていた。


『次は私の番よ!』

「分かってるって。ほれ」

『ん~、やっぱり最高!』


 レナと交互にかじっていく。

 あっという間にクレープは減っていき、すぐに食べ尽くしてしまった。


『大満足。さすがにもう入らないわ』

「俺も大満足だよ。買ってよかったな」

『ん、いっぱい間接キスできたわね』


 嬉しそうに告げてきたレナに、思わず心臓が張り裂けそうになった。


 胸の内から溢れ出てくるのは、喜びの感情。

 とても心地いい感情だ。


 やっぱり言葉にできないこの感情がなんなのかは分からないけど、俺は幸せだった。


「そろそろアトラクション巡りを再開するか」

『そうね。食後の腹ごしらえは終わったもの。遊ぶためのエネルギー補給はばっちりだわ!』

「食後の腹ごしらえってパワーワード初めて聞いたよ」

『さあ、たっぷりと遊びつくすわよ!』


 これ以上ないくらいに生き生きとしたレナと一緒にいるだけで、とても幸せで。

 満たされていくような感じがして。

 とにかく楽しかった。


 あっという間に閉園時間が近づいてくる。

 ただ遊園地で遊んだだけなのに、半日程度とは思えないほど濃密な時間を過ごすことができた。

 この思い出は、一生忘れることはないだろう。


「そろそろ帰る時間か……」

『……残念ね…………』


 もっと遊びたかったなぁと思いながら呟いたら、やけに悲しそうな声音で返ってきた。

 それだけ残念に思ってくれているのだろう。


「レナと一緒に遊びに来れて、最高に楽しかったよ」

『ん、私もよ。海斗と一緒に来れて……ううん。海斗と出会えてよかった』

「そっか。俺もだよ」


 頬をポリポリかきながら返せば、レナが嬉しそうに笑った。


「また遊びに行こうな」

『………………行けたら、いいわね』


 不自然なほどに間があった。

 すごく悲しそうな、申し訳なさそうな声だった。


 それっきり、レナは静かになってしまった。


 どうしたんだ?

 疑問に思う。

 いつも元気で騒がしいレナが静かになるなんて珍しいから。


 ふと、脳裏をよぎる。

 今日のレナは、どこかおかしかったことが。


 昼ごはんの時に「さくらんぼを使った料理を作ろうか?」と聞いたら、長い()の後に『お願いね』と帰ってきたこと。

 お願いしたいけど、きっとできない。そんな思いが込められていた気がした。


 観覧車で、レナのことを友達と言ったら寂しそうな表情を見せたこと。

 聞きたかった言葉が聞けなかった。そんな感じだった。


 そして、今さっきのやり取り。

 『行けたら、いいわね』と言ったレナは、つらそうだった。

 まるで行けないということが分かっているかのような──。


『……大事な話があるの』


 意を決したように、レナが話しかけてきた。


 話ってなんだろうか?

 レナのことだから、どうせお腹空いたとかアイス食べたいとかそんな感じだろ。


 俺はそう思った。

 そう思いたかった。

 思わずにはいられなかった。




『──やっと成仏できるわ。海斗と出会えてよかった。波長が合ってよかったわ。大好きだよ』




 何を言っているのか分からない。

 いや、分かりたくない。

 理解したくない!


 だって……! だって、俺は──!


『これが最後になるの、寂しいわ』


 レナが抱き着いてくる。


 何かを言おうとして、言葉が出ない。

 それでも口を開こうとした直後。


 柔らかくて、甘い感触が、唇に伝わってきた。


『……じゃあね』


 レナに口づけされたのだと気付いた時には、もう遅かった。

 レナは寂しそうに微笑んで、手を振って──。



 ──気づいた時には消えていた。



 驚くほどあっさりと。

 まるで最初からいなかったかのように。

 すべては(はかな)い幻想だったとでもいうかのように。


「レナ……」


 先ほどまでレナがいたはずの場所に手を伸ばしてみるものの、空気の感触しか掴めなかった。


 返事は、返ってこなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつも読んでくださりありがとうございます!
↑の【☆☆☆☆☆】を押して評価していただけると作者が喜びます!

こちら新作です!

タイトル『落ちこぼれの無能だと貴族家を追放された俺が、外れスキル【キメラ作成】を極めて英雄になるまで』

貴族家を追放された主人公が、美少女キメラと一緒に英雄にまで成り上がるお話です!
こちらもよろしくお願いいたします!!!

また、peepにて拙作『不知火の炎鳥転生』がリリースされました!!!

html>


作品ページはこちら

超絶面白く仕上げているので、ぜひ読んでみてください! 青文字をタップするとすぐに読めます!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ