第五十六話 シルバーウィーク
俺が馬鹿になってからは、いつも通りの日々が続いた。
俺の手料理をレナが頬張って、一緒にゲームをして、バイト終わりに天月も含めた三人で駄弁って、休日は一緒に遊びに行く。
少しだけ今までと変わったのは、俺とレナの距離がさらに近づいたことくらいだ。
そんなこんなであっという間に一ヶ月が過ぎ、みんな大好きシルバーウィークがやって来た。
ちなみに明日からはバイト漬けだ。
飲食店の宿命というやつである。
絶対に忙しいんだろうなぁと、今の時点ですでに憂鬱だった。
『やっと来たわね、シルバーウィーク!』
「ずっと楽しみにしてたもんな」
すでに準備を完了させたレナが、せわしなく家の中をウロチョロする。
『さっさと準備しなさいよね!』
「まだ電車の時間まで余裕あるんだからのんびりいこーぜ」
そうは言ったものの、俺もまたそわそわしていた。
スキップしながら移動するくらいには。
俺たちが朝からテンション高めなのは、今日が遊園地に遊びに行く日だからだ。
ばあちゃん家から帰って来た日に当選したアレである。
「おし! 準備完了!」
『出発進行!』
「レッツゴー!」
『うまく韻を踏んできたわね』
「いや~それほどでも」
俺たちは顔を見合わせてクスリと笑ってから家を出た。
『ん』
レナがいつものように手を差し出してくる。
俺はその手を取った。
もう何度目かもわからない、むにっとした感触が伝わってくる。
その手を少しだけ強く握り返したら、レナも負けじと握り返してきた。
そのまま半ば引っ張られるようにして駅に向かう。
電車に乗って席に座れば、隣にレナが座ってきた。
それも肌と肌が触れ合うような距離だ。
レナのいい香りがこれでもかと漂ってくる。
「なんというか、こう……恥ずかしいな」
『そう? いまさらでしょ』
「確かにいまさら感はあるけど、今日のレナはいつもより可愛いから」
『ん、気合入れたもん』
今日のレナはいつもの服装プラス、霊力で作り出したのであろう帽子とネックレスをつけている。
洗練されたデザインのそれらはレナの可憐な容姿にマッチしていて、より上品さを際立たせていた。
そんなレナが、自分のためにオシャレに力を入れてくれたことが嬉しかった。
「あ、帽子かぶってるんだったな」
ついレナの頭に手を伸ばそうとして、やめる。
すると、レナが帽子を脱いだ。
『撫でて』
至近距離からの上目づかいに耐えられるわけもなく、俺は秒でレナの頭に手を置く。
絹のように滑らかな触り心地の髪を、崩れないように優しく梳くように撫でる。
レナは満足げに口元を緩めながら、足をパタパタさせた。
『いっぱい遊ぼうね』
「もちろん。遊びつくそうぜ」
『海斗はどのアトラクションに行きたいの?』
「やっぱ、遊園地の定番といったら観覧車だよな」
『超わかる! やっぱり観覧車は外せないわよね!』
「そういうレナは?」
『んーっと、私は売店巡りしたい!』
「どうせ、スイーツが食べたいんだろ? 食いしん坊め」
『よく分かってるじゃないの』
遊園地の話に花を咲かせていると、あっという間に降りる駅に着いた。
電車を降りてからは、徒歩で向かう。
雑談しながら二十分ほど歩いていると、とうとう目的地が見えた。
中心にそびえたつ大きな城。
その後ろをゆっくりと回る観覧車。
圧倒的な存在感を放つジェットコースター。
「これぞまさに遊園地って感じだな」
『そうね。三年ぶりの遊園地、いっぱい楽しんでやるわ!』
瞳をぱぁぁと輝かせた俺たちは、心躍らせる地へ足を踏み入れた。





