第五十話 海水浴へいざ行かん
レナの誕生日から数日後。
とうとう三人で海水浴に行く日がやってきた。
俺とレナが待ち合わせ場所に指定したいつもの駅に着けば、天月はすでに待っていた。
レナの誕生日プレゼントを買いに行った時と同じように、気合の入った服装だ。
『お待たせ~』
「待たせたな」
「先輩、スネ〇クの声真似お上手ですね」
『ずっとその声で喋ってれば?』
「いいですね、それ」
「遠回しに俺のことドブボって言ってる?」
『そんなことないわよ』
「そんなことないですよ。そっちのほうがモテモテになりそうだなーって思っただけですー」
声がイケボになったくらいでモテるものなのか? と俺が思案していると。
『……でも、声真似を聞けるのが私たちだけってのも悪くないかも』
レナがボソッと呟く。
本当に聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で、実際に俺は良く聞こえなかったけど、耳ざとい天月にはばっちり捉えられていたようだ。
「自分たちだけの秘密ってわけですか。独占したがるレナちゃんも可愛らしいですねぇ~」
『ふぇ!? なんでそんなに地獄耳なのよ!?』
レナは顔を真っ赤にした。
俺は首をかしげる。
「何を恥ずかしがってんの?」
『海斗は知らなくていいことなの! ほら、さっさと行きましょ! 電車が来るわよ!』
見計らったかのように電車が来るメロディが流れ始めたため、俺と天月は特に追及することなくレナの後を追った。
やってきた電車に乗り込んで、相席に座る。
いつもなら窓側に座りたがるレナが、今日はなぜか俺の隣に座った。
それがあまりにも自然な流れで、加えてこの前の旅行で隣に座っていたこともあって、俺は特に意識したりというのはない。
しかし、目ざとい天月はニヤニヤしながらいつもの調子で話しかけてきた。
「先輩の家にお邪魔した時もですけど、レナちゃん最近は先輩の隣に座るようになりましたね。仲が進展してるみたいで何よりですよ。あともう少しで――」
『ちょ、美沙っち! それ以上は言っちゃダメ!』
「なんか今日、レナが恥ずかしがってばっかりだな」
なぜにそこまで恥ずかしそうに悶えるのか、俺には全く分からなかった。
「あれれ? 先輩にはあまり効いてませんね。レナちゃんには効果抜群だったのに」
「普段から一緒にいるわけだし、別に隣に座ることくらいおかしなことではないだろ。友達なんだし」
俺が率直に思ったことを告げると、
『むー』
なぜかレナが拗ねたように頬をふくらませた。
いよいよ俺には訳が分からなかった。
「先輩はもうどうしようもないですし、話題を変えましょう。楽しまないと損ですよ」
『……そうね。海斗だもんね』
「なぜに俺は見限られたん?」
可哀そうな子を見る目で見られるのは解せないけど、せっかくのお出かけなのだ。
楽しまなきゃ損というのはその通りなので、俺は素直に乗っかることにした。
「海に着いたら何がしたいですか?」
『はいはいはい! ビーチバレー!』
「お、いいですね! 私とレナちゃんチームvs先輩で行きましょう!」
「俺、不利すぎない? ……って言いたいところだが、中学時代はバレー部だったんだよ。逆境で勝ってこそ燃えるぜ」
「なら、手加減する必要はなさそうですね。現役バレー部エースの実力を見せて差し上げましょう」
「調子に乗って大変すみませんでした。手加減してくださいお願いします」
その後も他愛のない会話は続く。
話題も海の話から移り変わっていっていろいろと盛り上がる。
「っと、もう降りる駅か」
電車を降りたら、今度はバスに乗り換える。
バスの中でも会話は弾み、期待感がマックスまで高まったところで目的地に着いた。
鼻孔をくすぐる潮風の香り。
肌を撫でる冷たい風の心地よさ。
どこまでも続く青色が目の前にあった。
「着いた、海!」
『よ~し、いっぱい遊ぶわよー!』
「おー!」
テンションの上がった俺たちは、腕を振り上げて叫ぶのだった。





