第四十六話 世界最高のケーキ
『ふ~、今日も海斗の料理は最高だったわ』
「もう隠さなくなりましたね」
『誰かさんのおかげでね』
取り繕うことすらなくなったレナが、満足そうにお腹を撫でた。
一見するとお腹いっぱいという感じだが、付き合いの長い俺はレナが「スイーツは別腹」を体現した存在だと知っている。
だから、間髪入れずにケーキの入った箱を持ってきた。
ちなみに俺と天月は別腹を持ち合わせていないので、ケーキを食べる分は胃の容量をセーブしてある。
「本日二度目のじゃじゃーん! 箱の中身はなんでしょう?」
『開けていいの?』
「イエース」
宝箱を前にしたかのような面持ちでレナが箱を開ければ、中からパティシエが作る一流のものと謙遜ない仕上がりのケーキが現れる。
中から出てきた予想以上のお宝に、レナは思わず目が釘付けになった。
『すごい! これ海斗が作ったの!?』
「まあな。一生分の製菓技術を詰めこんだ最高の作品だ」
「レナちゃんのためだけに頑張ったんですよね」
「そうそう。レナの喜ぶ顔がどうしても見たくて……ふおぉぉぉぉぉんっ!!!」
「近所でF1レースでもやってるんですかね?」
またもやナチュラルに話を振ってきた天月に俺もまんまと乗せられて、絶対に本人に聞かす気はなかったセリフを口走ってしまった。
反応をうかがうようにちらりと横を見れば、レナは顔を真っ赤にしていた。
「やー、嬉しいんですねー」
『う……嬉しいもん……』
消え入りそうな声で呟かれたその言葉は、耳を凝らしていないと聞こえないほどの声量なのに、なぜだかはっきりと耳に届いた。
なんだよ。嬉しいもん、って。
可愛すぎかよ……。
またもや心臓が高鳴る。
そろそろ心不全で死んでもおかしくないくらいには、俺の心臓は限界だった。
『は、早く食べましょ! ほら、海斗。切り分けて!』
「お、おう。そうだな!」
ペティナイフを持つ手が震える。
切り終えたケーキを見れば、大きさにばらつきがある上に不格好な感じになっていた。
「先輩、動揺しすぎですよ。そんなに嬉しかったんですか?」
「うるせー。天月だけケーキなしにすっぞコノヤロー」
「ふふっ。では、口をつぐんでおきましょう」
天月が大人しくなったところで、ケーキを食べる。
光沢を放つ美しいチョコクリームの上では、鮮やかな色をしたいちごが王様のように陣取っている。
他のフルーツは、さながら王を引き立てる家臣といった感じだ。
ふわふわのスポンジは間に生クリームがはさまれて層になっており、断面から顔をのぞかせるイチゴがキュートだった。
そしてなんと言っても、一番の目玉はレナのケーキに乗せられたホワイトチョコレートだ。
チョコペンで「誕生日おめでとう!」という文字と一緒に書かれている彼女の似顔絵を、レナはまじまじと眺めていた。
口角がいつもより上がっているあたり、相当嬉しいのだろう。
「すごくレナちゃんの特徴を捉えた似顔絵ですねー」
『そうね』
「これだけ上手なのは、先輩がレナちゃんのことをしっかり見ている証拠ですねー」
「はべらがッ……!」
俺は手で顔を覆ってしゃがみこんだ。
『も、もう……。美沙っちはすぐそうやってからかうんだから……』
レナは文句を言いながらも、まんざらでもない様子で俺のほうを向いてから。
――とどめの一撃を刺してきた。
『……海斗のおかげで、人生で一番楽しい誕生日になったわ。海斗のケーキは世界で一番おいしい最高のケーキだったわよ。その……ありがと』
レナの誕生日に俺が思ったのと同じようなセリフを伝えてきただけでもオーバーキルなのに。
『……今度、お礼にまた膝枕してあげるね』
最後に呟かれたその一言によって、俺は今度こそ軟体動物のように、茹蛸そのもののようにふにゃふにゃになってしまった。





