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第四十三話 秘密の買い物

 旅行から戻ってきた三日後。

 俺は駅前にやってきていた。


「先輩、お待たせしました!」


 キョロキョロとまわりを眺めながらしばし待っていると、待ち人がやってくる。


「悪いな、天月。わざわざ付き合わせちゃって」

「いえいえ。楽しみにしてたんで全然問題ないですよ」


 楽しみにしていたというのが事実であることを証明するかのように、今日の天月はより一層ファッションに力を入れていた。


 可愛らしいフリルの付いたオフショルダーを着ているため、肩口や鎖骨があらわになっている。

 下はショートパンツをはいていて、美しい曲線美を描く素足がさらけ出されていた。


 ちなみに俺がなぜオフショルダーを知っているのかというと、レナと一緒にファッションの勉強をしたからである。

 メジャーな服やズボンの名称くらいならわかるようになっていた。


「どうですか?」

「似合ってるよ」

「可愛いと思いますか?」

「うん、可愛い」


 天月が可愛いのは事実だ。

 というか、美少女もいいところだろう。

 通り過ぎた男たちが振り返ってしまうほど目を引くのだから。


 だけど、不思議と胸が高鳴るようなことはなかった。


「おー、あの先輩が恥ずかしがらずにするりと言えるんですね。ひょっとして、最近レナちゃんに可愛いとか言っちゃったんですか?」

「ギックゥゥ!?」

「なんですか、美容系の誇大広告みたいに誇張しまくったそのリアクションは」

「いや、天月の手のひらの上で転がされるくらいなら、いっそオーバーなリアクションをして笑いを取りにいこうと……」

「盛大にスベりましたよね」

「やめて!?」


 結局、天月の手のひらの上で転がされるという未来を変えることはできず、半ば自供した俺は一通りからかわれた。


「……そろそろ行こうぜ」

「それもそうですね」


 今回の目的は買い物だ。



 明後日は八月七日――レナの誕生日なのだから。



 今回レナがいないのも、それが理由である。

 レナがしてくれたように、俺もこっそり誕プレを買いに来たのだ。


「どれにするんですか?」

「……うーむ、うーむ、うーむ……」

「考えてなかったんですね」


 そういうわけで例のショッピングモールに買いに来たものの、俺は何を買おうか迷っていた。


「仕方ありませんね。『誕生日プレゼント 女性』これで検索っと」


 スマホをポチポチした天月が、ランキングを上から順番に読み上げてくれた。


「一位、財布」

「使いどころないじゃん」

「幽霊ですもんね。二位、バッグ。これも使いどころないですよね」

「幽霊だもんな」

「三位、腕時計。これは彼女や奥さん向けなんで先輩にはまだ早いですね」

「そもそも使いどころがないしな」

「四位、アクセサリー」

「レナに装飾品や服は必要ないだろ。本人もいつも着てるやつ以外は、不干渉モードに切り替えるたびにすり抜けて落っこちるから必要ないって前に言ってたし」


 着物を着た時も、すぐに脱いでたしな。


「五位、ポーチ」

「レナは化粧品とか使わないし、そもそも持ってないから必要ないな」

「すでに死んでるから美容とか関係ないですもんね。六位のコスメと七位の美容家電は飛ばして、八位のスイーツとかはどうですか?」

「確かにレナは甘いもの好きだけど……一緒に旅行に行ったときにお土産で買ったし、その時にたくさんもらったお菓子も余ってるし、明後日はケーキを作るし……」

「なんかこの展開、レナちゃんと一緒に先輩の誕生日プレゼント買いに来た時にもありましたよ」

「俺とレナって似たもの同士なのかな」

「波長が合うくらいですしね。それはそうと、一緒に旅行に行った話は後で詳しくお願いします」


 天月の頼みはスルーして、何にするべきか二人で頭をひねる。


 一般女子が喜ぶ物はレナでも喜ぶだろうけど、そもそも使い道がない。

 それは先ほどのやり取りでも明らかだ。

 ならやはり、俺の誕生日の時みたいに形に残るようなものがいいだろう。


「形に残るもの形に残るもの……」


 ふと脳裏に浮かんできたのは、夏休み前の一幕。

 レナの希望もあってゲーセンに行った時に、クレーンゲームでぬいぐるみを取ってほしいと頼まれたあの光景だった。


「これだ! ぬいぐるみだ!」


 レナはあのぬいぐるみを、毎晩抱きしめて寝るほど大事にしている。

 となれば、ぬいぐるみを誕生日プレゼントとして贈るのが一番だろう。


「いいですね、ぬいぐるみ。どんなのにしますか?」

「んーっと、一緒に出掛けてる時なんかに猫に興味を持ってることが多かったな。毎回すぐに逃げられて悲しそうにしてたから、猫のぬいぐるみを送ったら喜ぶと思う」

「では、それでいきましょう。レナちゃんなら絶対に喜んでくれますよ」

「天月もそう思うか。じゃあ、決まりだな。買いに行こーぜ」


 俺は上機嫌で歩き出す。


「……先輩のくれたものなら何でも喜んでくれると思いますけどね」

「なんか言ったか?」

「いえ、何も言ってませんよ」


 小さな声で呟かれた天月の言葉は、周囲の雑音にかき消されてよく聞こえなかった。

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