第四十一話 翌朝
「んぅ……」
肌に降り注ぐ日差しが暑い。
寝苦しさを感じて目を開いた俺の視界に、あどけない寝顔をさらしているレナの姿がぼんやりと映った。
最初は理解できなかった。
だが、すぐに昨夜の出来事が鮮明にフラッシュバックする。
そのとたん、茹でたエビみたいに俺の顔が赤くなっていくのを感じた。
どうしようどうしようなんて言い訳しよう……。
パニックになりかけたけど、俺はなんとか踏みとどまる。
変に動けば、レナを起こしてしまいかねない。
こっそり抜け出してしまおうかとも思ったけど、俺の体は相変わらずがっちりとホールドされたままだった。
これではレナを起こさずにこっそり抜け出すことなんてできそうにない。
それ以前に、俺の体にレナが密着しているというだけで限界だった。
レナの匂いが、レナの甘い声が、レナの感触が俺の心臓を荒ぶらせる。
激しい鼓動音がうるさかったのか、レナがもぞもぞと動き出す。
お互いに体がくっついている状態なので、くすぐったくて、むず痒くてしょうがないことこの上ない。
レナがゆっくりと瞼を持ち上げる。
すぐにその瞳が俺の姿を捉えた。
『……海斗?』
「……おはよう」
『おはよう。……何してるの?』
ホントに何してるんだろう?
自問してみる。
自答できなかったから、大人しく誠心誠意謝ることにした。
「……一緒に寝てました誠に申し訳ございませんでしたぁ!」
ぎこちなく言葉を返せば、レナは顔を真っ赤にしてあたふたしだした。
そのタイミングで今の今まで俺を抱きしめていたことに気づいたのか、頭から湯気が出まくっている幻影が見えるほどテンパりだす。
すぐに俺は解放された。
『こ、こっちこそごめん! よくよく思い返してみれば、うっすらとだけど無理やり海斗を抱きしめたっぽい記憶があるわ!』
「こっちこそ、そのタイミングで布団を抜け出さなかったのが悪いから! ホントにすみません!」
『海斗のことだから、私を起こすのが申し訳なくて出れなかったんでしょ! ホントにごめん!』
「なんかもうすみませぇん!!!」
お互いに謝りまくったところで、なんとか落ち着いてきた。
だいぶ気まずいけど、ひとまず友情が壊れることはなさそうだ。
そのことに俺が安堵していると──。
『……こうしてるのも意外と悪くないわ。もう少しだけ続けていいかな?』
なぜかレナが、控えめな上目づかいで甘えてきた。
今度こそ心臓がぶっ壊された。
何か言おうとするも、うまく言葉が出てこない。
必死に何か絞り出そうとしていると、そんな俺にはお構いなしにレナがくっついてきた。
体を丸めて、俺の胸に顔をうずめてくる。
『ん、心臓の音が早いわよ。ドキドキしちゃってるんだ』
「しないわけ……ないだろ」
からかってきたレナにそう返せば、レナは満足そうに小さく声を漏らした。
『頭撫でて』
「……なんでそんなに甘えてくるの?」
『そういう気分の時もあるでしょ』
「……そういう時もあるな」
『ん、素直でよろしい』
俺はレナの頭に手のひらを置いた。
それから、髪の毛がぐちゃぐちゃにならないように優しく撫でる。
手のひらに伝わるサラサラとした感触。
レナの子猫のような蕩けた甘い声。
俺は理性を保つのが限界だった。
『ん、ありがと。だいぶ落ち着いたわ』
「俺はだいぶ落ち着けなくなったわ」
『当然でしょ。落ち着けなくしてあげたんだから』
いつにもまして小悪魔っぽいレナにドキドキしてしまう。
朝からこれはきつすぎる。
でも……。
「落ち着けないのも悪くないかな。ほどほどにしてほしいけど」
『今日はほどほどにしない日なの』
「そうかい。次はほどほどにしてくれよ」
俺が撫でるのをやめれば、レナは少しだけ残念そうな声を出しながら起き上がった。
『お腹空いたわ』
「俺も。支度してごはんにするか。帰る時間も迫ってきてるしな」
今日は旅行最終日。
ここを出るのは十時過ぎなので、俺たちは急いで準備を整える。
ちょうどタイミングよく出来上がった朝ごはんを食べに向かうのだった。





