第四十話 予想外の出来事
『は~、最高だった』
「ラストの彩色千輪はとんでもなかったな」
花火大会が終わった後。
俺たちは余韻冷めやらぬまま感想を言い合う。
そんな中、レナがわずかに視線を逸らしながら告げてきた。
『……海斗と一緒に来れてよかったわ』
「今日はえらく素直だな」
『ん、今日はそういう日なの』
「そっか。俺もレナと一緒に来れてよかったよ。絶対に一人で来るより楽しめたからさ」
『えへへ』
そう伝えると、レナはふにゃりと笑った。
初めて聞くレナの照れた声に、思わず心臓がドグンッと爆発しそうになる。
デレたレナの破壊力は、核兵器みたいにすさまじかった。
『手、つないで帰ろ?』
そこへさらに追撃がやって来る。
俺は挙動不審になりながらも、レナの手を握った。
「……レナはさ、今回の旅行満足したか?」
帰りのバスに乗ったタイミングで尋ねてみれば、レナは咲き誇る花のような満面の笑みを浮かべながら答えた。
『当り前よ! 海斗と一緒に遊んで、夏祭りに行って、蛍を見て、一緒に釣りをして、花火大会を見れて。成仏が一気に近づいたくらいには大満足したわよ!』
「……そうか。俺も大満足だよ」
そう答えた俺の胸に、またもやチクリと何かが刺さったような気がした。
前に同じような感覚がした時よりも、痛みが増していた気がした。
なんだろう? この感じは……。
思考の渦に呑み込まれそうになったけど、すぐに遮られる。
肩にのしかかってきた重みと、頬にかかるさらさらとした感触、ふわりと漂ってきた甘い匂いによって。
「ん?」
横を見れば、レナが俺に寄りかかってすやすやと静かな寝息を立てていた。
頭がこくりこくりと揺れるたびに、髪の毛が俺の頬を撫でる。
あれだけ長いことはしゃいでいたのだから、疲れて寝てしまうのも当然だろう。
目的地に着くまでゆっくり寝させといてあげようと、俺は静かにそのままの体勢をキープし続けた。
なんとなく、むず痒かった。
◇◇◇◇
「ほれ、降りるぞ」
『マグロ十貫ダブルでプリーズ……』
「どんだけ食べるんだよ」
すし屋で独特な注文をしているレナを伴ってバスから降りる。
「ばあちゃん家まであと少しだぞ。頑張って起きれるか?」
こんな状態で家まで帰れるのだろうか?
いまだ寝ぼけているレナに声をかけると、レナは子猫のように甘えた声で頼んできた。
『海斗……おんぶ……』
またもや心臓が跳ねる。
いくら今日のレナがデレ期だからと言っても、こんなことを頼んでくるとは思いもしなかった。
……おんぶして連れ帰らなかったら、絶対に変なところで眠っちゃうだろうな。
すでに夢の世界に片足を踏み込んでいるポンコツ少女を見て、俺は溜息を吐く。
仕方なく屈んだ。
「おんぶしてやるから、早くつかまれ。風邪ひくぞ」
『んぅ……焼肉食べ放題……』
レナは寝言を呟きながらも、大人しく俺の背中におぶさってきた。
「太もも触ることになるけど、後で文句言うなよ」
『いちごパフェ最高……』
太ももに手を回して、そのまま立ち上がる。
すべすべで柔らかい感触が手のひらに伝わってきた。
俺は頭をふって煩悩をかき消してから歩き出す。
『あー、海斗のポテチこっそり食べちゃった……』
「夢の中でもポンコツかよ」
『まあいいや……』
「よくないわ。てか、夢の中でも食いしん坊だなオイ」
俺の肩に顔を埋めながら寝言を呟くレナにツッコミを入れる。
こうでもしないと、耳元でささやかれる声に意識を奪われて転んでしまいそうだった。
なんとか家まで帰ってこれた。
「着いたぞー。ちゃんと布団で寝ろよ」
もう一度屈んで、レナを背中から降ろす。
レナの部屋までたどり着いた俺は、これでようやく心が落ち着くと思った。
――のだけれど、そうもいかないようだ。
『ぽむぽむー』
布団に潜り込んだはずのレナが、すごい力で俺を引っ張ってきたのだ。
俺はあっという間に布団の中に引きずりこまれた。
レナが抱きしめるように腕を伸ばしてくる。
「ちょ、おい! レナ!?」
悲鳴を上げた時には、がっちりとホールドされていた。
『むー、もふもふじゃない……』
レナが不満げに呟く。
その時になって、ようやく気付いた。
レナはゲーセンで俺がとったあの特大ぬいぐるみを毎晩抱きしめて寝ているのだが、今回の旅行には持ってきていないことを。
それで俺をぬいぐるみだと勘違いして抱き着いてきたのだろう。
しかし、どうするべきか……。
離してくれる気配はみじんも感じないどころか、より強い力で抱きしめてくる。
無理やり抜け出したら、レナを起こしちゃいそうだな。
せっかくぐっすり眠ってるのに……。
「……このままだと一緒に寝ることになるぞー」
そう声をかけてみるも、レナはうんともすんとも言わない。
「ホントに一緒に寝ちゃうぞー」
なおも返事がない。
レナのほっぺをぷにぷにしてみる。
柔らかい……じゃなくて、レナは『んぅ……』と声を漏らしただけで起きる気配はない。
「……ホントに寝るぞ?」
最後にもう一声かけても、レナはむにゃむにゃと寝言を呟くだけ。
返事は返ってこなかった。
「……レナが悪いんだからな」
言い訳するように呟く。
仕方なく眠りにつこうとしたところで、レナがポツリと零した。
『大好き……』
「ッ!?」
心臓が爆発した。
それは寝言であるはずなのに。
十中八九、食べ物か何かに対してであるはずなのに。
これ以上ないほど、俺の心臓を荒ぶらせた。
なかなか寝付くことができなかった。





