第三十五話 とっておきの場所
「一緒に踊るか」
『どうしよう。私、全然ダンスとかできないんだけど……』
「見よう見まねで大丈夫だって。楽しむのが目的なんだからさ」
『ん、頑張ってみるわ』
櫓の周りに集まっている人たちの中に、俺たちも混ざる。
盆踊りが始まると、子供も大人も関係なく楽しそうに踊り始めた。
レナは最初こそ緊張した様子だったけど、すぐに笑顔になって俺の横で踊る。
めちゃくちゃなリズムで楽しそうに踊るレナを見ていたら、なんだか俺まで楽しくなってきた。
これがお祭りの魔力か。
レナと一緒にする盆踊りは、すごく楽しかった。
◇◇◇◇
「は~、楽しかった」
『そうね。ホントに楽しかったわ』
あれからかき氷を食べたりゲームをしたりともう少しだけ屋台を回った俺たちは、満足気に帰り道を歩いていた。
金魚たちの入った袋を持つレナに対して、俺はいろんなお菓子が入った袋を抱えている。
これらは持ち前のコミュ力で白狐村の村民たちと仲良くなったレナが、孫や娘のように可愛がられて「これを持っていきんさい」とたくさん手渡されたものだ。
『少しくらいあげてもいいわよ』
「へへー。ありがたく頂戴するで御座候」
『……プっ』
大仰なリアクションをしたら、思わずといった様子でレナが吹き出す。
つられて俺も笑ってしまう。
夜道に俺たちの声が響き渡った。
「楽しいな」
『ん、すごく楽しいわ』
「もっと楽しめるとっておきの場所があるんだけど、行くか?」
『今から?』
「この時間にしか楽しめない場所だ」
『じゃあ、案内して』
レナが握ってほしそうに手を差し出してきた。
『迷子防止よ』
「わかってるって」
その手を優しく包み、ゆったりとした歩幅で歩く。
『どこ行くの?』
「秘密」
『そう言われたらもっと気になるんだけど』
「それでも秘密」
これから向かう場所は、この村に詳しい俺が自信を持ってお勧めするスポットだ。
百聞は一見に如かず。
その目で見たほうが、より感動できるってもんだ。
なおも聞きたがるレナをのらりくらり躱していると、目的地が近づいてくる。
俺はレナの後ろに回って、目隠しをした。
『ちょ、何するの!?』
「もうすぐ着くからな」
『着いてからのお楽しみってこと?』
「そうそう。レナには最高の体験をしてほしいから、ちょっと我慢してくれ」
『むぅ、それなら我慢してあげるわ』
レナは頬をふくらませながらも、しぶしぶ言うことを聞いてくれた。
『そのかわり、大したことなかったら今度たくさん奢らすからね』
「叙〇苑でもなんでもどんとこい!」
『お? 言ったわね!』
レナと至近距離なのもあって心臓の鼓動が早くなる。
軽いやり取りでそれを誤魔化しながら歩いていると、とうとう目的のスポットに着いた。
「いくぞ」
『とうとうなのね』
清流の上に架けられた橋のほとりで、俺はレナの目隠しを解く。
ゆっくりと瞼を持ち上げたレナは──。
『わぁ……! すごい……! きれい……!』
息をするのも忘れたかのように、うっとりとした表情で感嘆の声を漏らした。
一面に煌めく黄色い光。
たくさんの蛍たちが飛び交う、幻想的な光景を見て。





