第三十四話 夏祭り
『やったー! わたあめあった!』
「よかったじゃん。さっそく食べようぜ」
学校に足を踏み入れた俺たちは、レナの希望もあって最初にわたあめを売っている屋台にやって来た。
もしかしたらないんじゃないかとも思っていたが、杞憂だったようだ。
さすがは夏祭りで定番のお菓子といったところか。
「すみません。わたあめください」
「あいよ。二人前でいいかい?」
「『……え?』」
……二人前?
キレイに声がハモった俺たちに向かって、屋台のおっちゃんが豪快に笑いながら教えてくれた。
「土地柄か知らねぇけどよ、この辺に住んでるやつって大体みんな幽霊見えてるんだよ。ガハハ」
『なんかやけに視線感じるなって思ったら、そういうことだったのね』
「確かに、周りの人たち明らかにレナを見てる時あるな。全然気づかなかった」
「こんな別嬪さんな幽霊連れてたら注目の的だろうよ。ほら、できたぜ。ガハ」
『わあ、おっきい! ありがと!』
レナは特大サイズのわたあめを受け取るなり、すぐにかぶりつく。
久しぶりに食べれたことがよほどうれしいのか、一口のサイズがいつもより大きかった。
『ん~、最高! このわたあめ超おいしいわ!』
「ありがとよ。ほれ、坊主のほうもできたぜ」
「ありがとうございます!」
「しっかり満喫しろよ。ガハハ」
人のいい笑みで豪快に笑うおっちゃんに別れを告げてから、俺たちは別の屋台へ向かう。
あっという間にわたあめを食べきったレナを見れば、口の周りにわたあめがついてひげができていた。
「頬張りすぎだって。サンタさんみたいになってるぞ」
『はい、これクリスマスプレゼント』
「わたあめの棒を押し付けるなって。あと、今は夏だからな?」
棒を無理やり押し付けてから、口の周りについたわたあめを取って自身の口へ運ぶレナ。
その様子を眺めながら俺もわたあめを食べる。
ふわふわとした独特な触感と砂糖の甘さを堪能していれば、レナが俺の服の裾をちょんちょんと引っ張ってきた。
『次はあそこ行きたい!』
「お! 射的か。どんな景品があるんだろうな」
レナに半ば引っ張られる感じで連れていかれると。
「二人とも見ねぇ顔だな。よそ者か?」
人相の悪いスキンヘッドの男が出迎えてくれた。
やだ、この人超怖い。
「やっぱ別のところに――」
「よく来たなぁ! 第百七十二回白狐村夏祭りを楽しみやがれぇぇぇ!」
スキンヘッドの男が威勢良く叫びながら、鉄砲とコルクの弾を取り出した。
「さあ! どっちからドタマぶち抜く?」
「いや、言い方よ」
反射的にツッコミを入れた俺がレナのほうを見れば、すぐに意図を察したレナが胸を張りながらスキンヘッドの男の前に立った。
『まずは私からよ! 私の超絶神エイムで真ん中の一番でっかいお菓子を取って見せるわ!』
「ハッ。首魁の首を取れるものならやって見せな」
レナが鉄砲を構える。
『はっ! ほっ! てやっ! せいや! はーッ! だあああああああああ!!!』
弾をすべて撃ち尽くしたレナは、がっくりとうなだれた。
『一発も当たらなかった……。お願い海斗。仇を取って……!』
「しゃーねーな。俺に任せとけ」
俺はキリっとした表情で鉄砲と弾を受け取ると、素早く狙いを定めて放った。
「すまん。全弾違う景品に当たった」
『それはそれで天才じゃない?』
「ホントにすまん!」
『いいわよ、別に。たくさんお菓子取ってくれたんだから。……その、私のために取ってくれようとしてくれただけで充分嬉しいし?』
おうふ、またもや不意打ちでダメージを受けてしまった。
今日はやたらデレてくるなとか考えていたら、スキンヘッドがなぜか首魁の首を差し出してくる。
「景品五個と交換で特別にやるよ」
『いいの? やった~!』
「ホントにありがとうございます!」
スキンヘッドの男にお礼を言ってから、屋台を後にする。
「よかったな、レナ」
『ん。これは明日一緒に食べようね』
「いいけど、一人でたくさん食べんなよ」
『海斗が食べるの遅いのが悪い!』
弾む会話を楽しみつつ、俺たちは屋台を回る。
おいしそうなお菓子や食べ物を食べて、ミニゲームを楽しむ。
俺たちは夏祭りを存分に満喫していた。
『見て海斗! 金魚すくいがあるわよ!』
「金魚すくいか。めっちゃ懐かしいな」
のんびりと泳ぐ金魚たちを眺めていると、レナがねだるように聞いてきた。
『やってもいい?』
上目づかいで頼まれれば、断れるわけがなかった。
「ん、そうだな……。久しぶりに金魚飼ってみるのも悪くないか」
『じゃあ……』
「一緒にやろーぜ」
『やった~!』
レナは嬉しそうに両手を上に突き上げてから、屋台のおばちゃんからボールとポイを受け取る。
ちなみにポイというのは、円形のプラスチックに和紙が張られた金魚をすくう道具のことだ。
『どの子にしようかな』
レナは優雅に泳ぐ金魚たちの中から、元気よく泳ぎまわっている個体に目をつけたようだ。
素早くポイを動かし、できるだけ和紙が濡れないようにしながら掬い上げる。
『よし。まずは一匹目ゲット!』
レナは和金と呼ばれている一番メジャーなあの赤い金魚を追加でさらにすくったところで、金魚たちの中でも一際目を引く個体であるランチュウに目をつけた。
『次はランチュウをとるわ!』
「お゛お゛ん」
『それはニャ〇ちゅう』
そんなやり取りをしているうちに、紅白模様の美しいランチュウが水面付近にやって来る。
かなりの大チャンスだ。
『今だ!』
レナは素早くポイを動かして、ランチュウの体をすくい上げる。
ところが、あと少しというところで和紙が破れてしまった。
ランチュウがドボンと音を立てて着水する。
すでに濡れて強度を失っていた和紙では、ランチュウの重さに耐えることはできなかったようだ。
「さて、俺の番だな」
「ほいさ。カッコいいところを見せてやりな」
俺はそのタイミングで、満を持して動き出す。
俺がここまで自信たっぷりなのは、金魚すくいが得意だからだ。
小学校低学年の時は、両親が転勤族というのもあって俺は奈良県に住んでいた。
奈良県は金魚の養殖が盛んで、毎年八月には金魚すくいの大会が開かれているほどだ。
俺はそれに参加したことがあるのだが、その時に割と上位に食い込んだくらいには金魚すくいが得意なのだ。
七年近いブランクがあるとはいえ、脳内シュミュレーションによればランチュウを取れる確率は100%だった。
「ここだ!」
期待に満ちた眼差しで見てくるレナの前で、俺は見事ランチュウをすくい上げる。
「ランチュウの重さに耐えられないのは織り込み済みだぜ!」
和紙がビリっと音を立てて破れて、ランチュウが落下する。
俺はそれよりも早くボールを移動させることで、ランチュウの体を受け止めた。
「無事ゲット! あと一匹くらいとるか」
残っていた半分ほどの和紙をうまく使い、最後に黒のデメキンをすくい上げた。
「どんなもんだ?」
『すごかったわ! これで五匹ゲットね!』
「だな。満足したか?」
『うん! 充分楽しめたわ!』
屋台のおばちゃんに金魚たちを袋の中に入れてもらったところで、真ん中の櫓から大太鼓の音が響いてきた。
『おばちゃん、何が始まるの?』
「盆踊りが始まるんだよ。ほら、二人も移動しな」
屋台のおばちゃんに急かされるまま、俺たちは櫓のほうに向かった。





