第三十二話 レナの着物姿
「わしの娘……つまりは海斗の母親に着せた着物が仕舞ってあるんじゃが、レナちゃんも着てみるかい?」
夏祭り当日の昼過ぎに、唐突にそう提案された。
俺とレナはぱちくりと瞬きした後、お互いに顔を見合わせる。
レナの着物姿か。
頭の中で着物姿のレナを思い浮かべる。
着物の柄は分からないけど、ばあちゃんが言うのだからきっとレナに似合うのだろう。
レナは基本的にどんな服を着ても似合うような美少女だから、着物姿もさぞかし美しいに決まってる。
「見てみたいな」
気づいたら、そう零していた。
『そ、そう? ……海斗が見たいっていうのなら着てもいいわよ?』
恥ずかしそうに、されど嬉しそうに返された。
何かを返そうとしても、言葉が出てこない。
「それじゃあ、ついてきなさいな」
『はーい。私が戻ってくるまで、海斗はおとなしく部屋で待ってなさいよね!』
俺が見惚れてしまっている間に、レナは鼻歌を歌いながらばあちゃんに連れられて行った。
「レナの着物姿……。楽しみだな」
一人残された俺は、ぽつりと呟いた。
◇◇◇◇
『じゃじゃーん! どうよ?』
戻ってきたレナを一目見て、俺はフリーズする。
青天の霹靂だった。
『さっさと再起動して感想言いなさい!』
「……あ、ああ……」
改めてレナを見る。
淡いピンク色の生地に花々のデザインが施された着物は、派手すぎずそれでいてレナに負けることもなく完ぺきな調和を果たしている。
鮮やかな花々のデザインが、よりレナの美しさを際立たせていた。
「……可愛い。レナが写真に写らないことが残念だ。写るんだったら、そっこーで写真撮ってたんだけどな」
『この姿を見れるのは今だけなんだからね。しっかりと見ときなさい!』
レナは満足げに目尻を下げる。
俺は言われたとおりに心のカメラのシャッターを切ってから、名残惜しそうに聞いた。
「せっかく似合ってるのに、もう着替えるのか? わりと残念」
『だっていつものワンピのほうが着慣れてるんだもん。それにこの状態だと他の人たちからは、着物がひとりでに宙を舞ってるホラーにしか見えないじゃない。そんなので目立ちたくはないわよ。海斗と一緒にゆっくり夏祭りを楽しみたいんだもん』
「おおふ……」
不意打ちクリティカルヒットが炸裂して、俺は思わず膝をつく。
「ぐ……! なんていう威力だ……! まさか俺にこれほどまでのダメージを与えるとは……!」
『……何やってんのよ? アホなの?』
出会った当初はあんなにもツンツンしていたレナが、ここ最近は無自覚にデレてきて非常に心臓に悪い。
だからといってレナにそんなことを言えるはずもなく、俺は心の中で叫ぶしかなかった。





