第三十話 到着とひと悶着
『海斗。もしかしてアレ?』
「ああ。到着だ」
今では珍しい和風な家屋が建っている。
家の周りは生垣で囲まれており、庭には桜の木が植えられている。
端のほうには小さな池があり、きれいな色合いの錦鯉が優雅に泳いでいた。
『ほえ~。趣のある家ね~』
「趣があるのは外観だけじゃないぜ」
『ん、行こっか』
俺たちは敷地内に足を踏み入れる。
軽やかなリズムで飛び石の上を進んで玄関まで移動した俺がインターホンを押せば、懐かしい声とともに扉がガラガラと音を立てて開けられた。
「ばあちゃん久しぶり」
「久しぶりだねぇ、海斗。ささ、家に……」
俺の後方に視線を移したばあちゃんが、表情を険しくさせながら言葉を失う。
俺が困惑していると、ばあちゃんは予想外の一言を発した。
「海斗! おぬし悪霊に憑りつかれておるではないか! すぐに祓わねば――」
「え!? ばあちゃんレナのこと見えてるの!?」
『うぇ!? 見えてないと思って変顔してたのに見られてたの!?』
「お前は何アホなことしてんだよ……」
俺たちの軽いやり取りを目の当たりにしたばあちゃんは、少しの間言葉を失っていたものの。
心配して損したといった感じで元の調子に戻った。
「……まさか海斗が悪霊と仲良くなっているとは思わんかったわい。そもそも海斗は霊など見えんはずじゃろ?」
「俺としては、ばあちゃんが幽霊見えてたことに驚きだよ。そんで、レナは波長が合うから見えるだけで、他の霊は見ることできないよ」
「そうかそうか。それで二人はどんな関係なんじゃ?」
そう聞いてきたばあちゃんは、おもちゃを見つけた子供のようにニヤニヤしていた。
……既視感あるなと思ったら、これまでさんざん手のひらの上で転がしてくれた天月とそっくりだった。
『私は宮乃レナよ。仕方なく海斗にお世話してもらっているわ』
「だからなんで偉そうなんだよ。……引っ越したアパートにコイツがいたんだよ。地縛霊として。そんで、いろいろあって仲良くなったってわけだ」
「ほっほっほ。じゃあ、海斗の誕生日を祝ってくれた友達っていうのも、レナちゃんのことなのかい?」
「ブッ!? その話題は蒸し返さないで!」
『海斗、なんの話?』
「十年後にはどこまで宇宙に進出しているかって話!」
とっさの嘘で何とかレナを誤魔化しながらばあちゃんに頼めば、天月とは違ってあっさり引き下がってくれた。
天月はぜひとも俺のばあちゃんを見習ってほしい。
「……とにかく、一週間よろしくな。レナが迷惑かけるだろうから先に謝っとく。ごめん」
「そのくらい問題ないわい。レナちゃんもゆっくりくつろぐとええ」
『よろしくね、おばあちゃん! 飴ちゃんとかないの?』
「いきなり飴をねだるなよ。というか、飴をのどに詰まらせて死んだのにトラウマとかないのかよ?」
『飴ちゃんおいしいでしょ』
「それはそうだけどさ」
「玄関先で話しとらんで、はよぅお入り」
「『はーい』」
ばあちゃんに促されて家に入った俺たちは、すぐに泊まる部屋に案内された。
縁側に接した二部屋を俺とレナがそれぞれ使う形だ。
部屋の床はすべて畳で、壁はふすまで仕切られている。
壁際には骨董品や日本人形が飾られていたりと、これぞ和といった感じだった。
「晩ごはんができるまで自由にしてくれといてええからね」
「『は~い』」
レナに付き合わされて俺が家の中を案内したりしているうちに時間は過ぎ、自分たちにあてがわれた部屋へ戻ってくるのと同時にばあちゃんが迎えに来た。
「腕によりをかけて作ったからの。冷めないうちに食べようや」
『おばあちゃんの料理楽しみ~!』
「ちなみにばあちゃんは俺の料理の師匠だ」
『絶対においしいじゃん! 早く食べましょ!』
はしゃぎまわってお腹ペコペコ状態のレナに連れられて、俺たちはリビングに向かうのだった。





