第二十九話 出発
待ちに待った夏休みがやってきた。
『忘れ物はない?』
「ああ、ぜんぶ持ってきたぜ。戸締りの確認もバッチリだ」
『ん、それじゃあ出発進行!』
「ナスのお進行~」
レナがウキウキな様子で家を出る。
俺は大きな旅行カバンを背負って手提げバッグを持ち、レナの後を陽気な足取りで追いかけた。
向かう先はばあちゃん家。
最終的に夏休みが始まってすぐに泊まりに行くことになったのだ。
『向こうについたら何する?』
レナが無邪気に聞いてくる。
ばあちゃん家の近くにはきれいな川が流れている。
確かヤマメとかがいたはずだし、渓流釣りとかどうだろう?
そう思って聞いてみれば、レナは餌を見つけたヤマメのようにすぐに食いついてきた。
『いいわね渓流釣り! 楽しそうじゃない!』
「じゃあ、一緒にやるか。釣ったばかりのヤマメを塩焼きにしたらさぞかしうまいだろうな」
『わぁ、おいしそう……!』
「時間はたっぷり一週間あるんだ。いろいろと楽しもうぜ」
『ん、そうね』
そんな話をしているうちに最寄り駅に着き、やってきた電車に乗り込む。
降りる駅に着くまで二時間くらい時間があったけど、他愛のない話をしたり向こうでやりたいことを考えたりしているとあっという間に着いた。
『ここからはどうするの?』
電車を降りるなり、レナが聞いてくる。
「ローカル線に乗り換えてさらに二時間くらい移動する」
『思ったよりも遠いのね』
「言ったろ? ばあちゃんちはド田舎だって」
会話をしているうちに、目的の電車が止まるホームにたどり着く。
一両編成、単線、一時間に一本しかやってこないという、これぞローカル線といった電車に乗り込んだ。
誰も乗っていない車内でしばらく待っていると、ようやく電車が動き出す。
『この静かな雰囲気いいわね』
「だな。心が落ち着くというか、こののんびりとした時間が結構楽しい」
『ごはんを食べながら景色を眺めるのは、さぞかし楽しいでしょうね。というわけで、早くお弁当出しなさい』
「はいよ」
お腹が空いたと急かしてくるレナに俺も同意して、手提げバッグの中からいそいそと弁当箱を二つ取り出す。
『いっただっきまーす!』
レナが上機嫌で弁当箱のふたを開ければ、中から肉のいい匂いがあふれ出てきた。
『おいしそう……!』
「ジャガイモを肉で包んで串焼きにしてみた」
そのほかにも、卵焼きやら唐揚げやらレナの好物が並んでいる。
『ありがと! ホントに海斗大好き!』
「だから気持ちのこもってない大好き発言やめろって」
『一センチくらいは込めたもん』
「一センチもこもっていることに喜べばいいのか、まだ一センチなことに嘆けばいいのか……」
出会ったころよりは気持ちの量が増えたな、などと心の中で少しだけ喜んでいると、車窓からの景色が変わった。
『わ! キレイ!』
「お~、絶景だな」
先ほどまでは山々が見えていたのだが、山が開けた瞬間、一面にきらきらと太陽の光を反射する青い海が広がったのだ。
左手には緑が生い茂る山が。
右手には青い海がどこまでも広がっている。
「絶景の中で食べる弁当はうめえな」
『……絶景のおかげで海斗のごはんがおいしくなるんじゃなくて、海斗のご飯がおいしいから絶景がより映えるの』
「ふぇ……?」
控えめに告げてきたレナに、俺は目を点にした。
レナが俺の料理を絶賛してくれるのはいつものことなのに。
それなのに今回は無性に嬉しかった。
「ん、さんきゅ」
『……感謝してるなら、その串焼きを差し出しなさいよね!』
「喜んで」
照れ隠しに串焼きをよこせと詰め寄ってきたレナに、俺はついつい二本もあげてしまうのだった。
◇◇◇◇
『着いたの?』
「いや、ここからバスで三十分くらい」
ローカル線を降りた後。
今度はバスに乗り換える。
『マジでド田舎ね』
窓から見えるのは田んぼや畑、山ばかり。
民家はところどころにポツポツ建っているくらい。
目的地についてバスから降りれば、自然の匂いが鼻腔をくすぐった。
「空気がうまい!」
『空気も空も澄んでて、都会とは大違いね』
耳をすませば、鳥などの動物や虫の鳴き声が聞こえてくる。
優しく肌を撫でてくる風に心地よさを感じながら二十分ほど歩くと、かなり大きな和風建築の家屋が姿を現した。
『海斗。もしかしてアレ?』
「ああ。到着だ」
ここが俺のばあちゃん家だ。





