第二十四話 天月との勝負
「遊びに来ましたよ、二人とも!」
定期試験を二週間後に控えた休日。
朝早くから、天月が家にやって来た。
どうしてこうなったのかというと、数日前のバイトまでさかのぼる。
「そろそろ試験の時期ですね」
「だな。しっかり勉強しとかねーと」
「お互いに頑張りましょう!」
俺たちがいつものように雑談に花を咲かせていたら、話題が試験についての話になった。
『だったら家に来れば? みんなで勉強したら楽しそうじゃん』
「お、楽しそうですね! ぜひ行きたいです!」
『なら、決まりね! 勉強会を開催するわよ!』
「お昼ごはんは先輩に作ってもらいましょう!」
『ナイスアイデア! 勉強の後は三人でゲームしましょ!』
「二人とも勉強以外のこと目的にしてない?」
その場にいたレナの一言で、とんとん拍子で天月が家にやって来ることになったというのが事の顛末だ。
「というわけで、おじゃましまーす!」
『おもてなしの準備はばっちりできてるわ!』
「準備したのは俺だけどな」
天月を家に招き入れてお茶を出す。
このお茶もレナの見繕ったもので、当たり前のように絶品だ。
それをずずずと飲んだところで、天月が話を切り出した。
「先輩の誕生日の時の話が聞きたいです!」
『ちょ! 今その話題持ち出すの!?』
「黙秘権を行使します!」
サプライズで誕生日プレゼントを渡したり、一緒にケーキを作ったりしたことを思い出してたじたじになるレナ。
俺は冷静に素早く牽制する。
俺の判断は間違ってなかったはずなのに、天月には通用しなかった。
「ふふふ、先輩が黙秘権を使おうが問題ありませんよ」
天月が不敵に笑いながらレナを見る。
「約束しましたよね、レナちゃん。誕生日プレゼントの代金は私が払う代わりに、後でどうだったか詳しく教えてって」
『あああ美沙っちの悪魔! 今じゃなくてもいいでしょ!』
「今、聞きたいです」
天月がにこりと笑う。
結局、容赦のない天月に負けたレナが顔を真っ赤にしながら詳しく説明することになった。
それを横で聞かされてた俺は、たぶん赤鬼みたいな顔してたと思う。
いや、だって恥ずかしかったんだってばよ……。
◇◇◇◇
「先輩」
「先輩ですが何か?」
「私たちって別の高校に通っていますけど、試験の範囲は結構似てるじゃないですか」
どっちも普通科だからな。
「なので、罰ゲームありの勝負をしましょう!」
「勝負……?」
思わず聞き返してしまうのも無理はない。
他人をからかうのが大好きな小悪魔である天月の提案が、まともなものであるはずがないのだから。
絶対ろくでもない罰ゲームになるという確信があった。
内心でガクブルする俺をよそに、天月は話を続ける。
「学年別に順位が出るわけですが、順位が低かったほうはレナちゃんをデートに誘うということで」
「『え!?』」
俺の声と、『勉強なんてさっぱりわからん!』とソファーで寝っ転がっていたレナの声が重なった。
デートのお誘いとか恥ずかしすぎて無理なんだけど!?
なんとしても拒否せねば……!
『ちょっと! それはさすがに私が恥ずかしすぎるわ!』
「先輩の誕生日プレゼントを一緒に買いに行くって私が言った時に、レナちゃん『私、美沙っちのこと大好き! なんでも言うこと聞く!』って言ってましたよね? なので、今回は拒否権ナシです。言うことを聞いてもらいます」
『うぐ……』
レナは何も言い返せずに押し黙ってしまう。
「なんでレナはいつもそう浅はかなんだよおお! もう俺の味方いないじゃん!」
『ホントにごめん……。海斗、頑張って美沙っちを言いくるめて……!』
どうやって提案を断ろうかと思案する俺に向かって、天月は笑顔で告げてきた。
あ、ヤバい。猛烈に嫌な予感が……。
「先輩、この前のバイトの時に『誕プレありがとな。お礼したいから、何か俺にできることがあればなんでも言ってくれ』って言ってましたよね? なので、勝負をしてもらいます」
「実は俺、勝負したら死んじゃう病で……」
「二言を言う男はカッコ悪いですよ」
「俺……じゃなくて、私は女よ! 二言を言ってもいいじゃない!」
「でも、嘘をつくのは性別以前に人として最低ですよ」
「んばあああああ!!!」
俺は頑張った。よく頑張ったと思う。
プライドなんて捨てて頑張ったよ。
だがしかし、言論で天月に勝つことなどできるわけがなかった。
「はい……。勝負受けます……」
かくして、「負けたほうはレナをデートに誘う」という罰ゲームありの勝負をすることになった。





