本文
夏の終わりの午後。
少年は部屋の隅、丁度今、西日の射しているところにあるソファーに座っていました。何かを慈しむように、懐かしむように。
そのソファーは、今それに座っている少年が、とおく海を越えて、大切な少女のもとへ運んだものなのです。
しばらくして、座っている少年の横に、少女が座りに来ました。
それは、少年と少女が出逢ってから、ちょうど半年がたった日のことです。
しばらくそうしていて、少年はふと思いました。
一人が好きな『君』と、人が苦手な『僕』。
いつの間にか溶け合うように並んでいた。不思議だな・・・と。
ふたりは、懲りもせず、何度も何度も同じ人と、同じ恋をしました。
そのたびに同じ喜び、同じ悲しみを繰り返してきました。
今度こそ、これが最後のlove songのはじまりになるように...
少年は祈っていました。いつもいつも。なんどもなんども。
二人では窮屈すぎるその心地よい空間で、ふたりはそっと寄り添っていました。
★☆★☆
それを、ある一人の人物が視ていました。
永い永い物語が、滑り出すのを心で視て。
心地よいノイズが響く、部屋で。
★☆★☆
少年はふと、少女の手を握りました。少女も少年の手をぎゅっと握りました。
合わさったてのひらは、同じ体温です。
満たされた、その過去が。
現在、少年の胸を締め付けます。
いつかやがて『僕』のもとからいなくなる『君』に、
いつか斃れて『君』のもとを去る『僕』は、
それまでに、
何ができるの? ―――― 何もできない。
何を残せる? ―――― 何も残してあげられない。
何を感じてゆける? ―――― 何も感じることができない。
悲しい気持ちがいつか流れゆくものなら
喜びも、ただじっとそこに在り、またこの秒から、去りしゆくものへと変わるでしょう。
★☆★☆
人物はそこで、部屋を出ていきました。
ノイズはいつの間にか消え、love songは一旦時を止めました。
そしてまた再び、流れ始めます。それからlove songは永遠に流れ続けました。
あとの部屋には、回り続ける古びたプレーヤーとレコードだけが残され、同じ物語を再生しているだけでした。