四日目 希望と絶望 前編
今日の朝はなんだか軽かった。もちろん死ぬことは嫌だと思う。けど、心は少しだけ軽くなっていた。
「おはよー」
「お兄ちゃん。おはよー。ごはん食べていいよ」
「わかったー」
俺はリビングへと行くとすでにごはんはできていたので、席に着き、食べ始めた。
「いやー梨花の料理はいつ食べてもおいしいな」
「何言ってんの。そんなの当たり前じゃん。なに、いきなりそんなこと言って。褒めても何も出ませんよーだ」
「まあな。別に何か欲しくて言ったわけじゃなくてだな。ただ、ありがたみを感じるなーって」
「なにそれw そんなこと言ってないで早く食べなよ」
梨花はキッチンの方にいたが、ここから見て少し頬が赤くなってるように感じた。
「今日、私委員会あるから先行ってるね」
「あーわかった」
梨花はそう言うとリビングを出て準備を始めた。俺はリビングでゆっくりご飯を食べながら、ドタドタという物音を聞いた。
「行ってきまーす」
「ああ、行ってらっしゃい」
梨花は学校へ向かい、俺はごはんを食べ終わったこともあり、朝の支度をもろもろしてから学校へ向かった。
俺は学校に着き、朝のHRもすぐに終わった。
「ええええーーーーー。 まだ梨花ちゃんに伝えてないの?」
俺と陽菜は二人で話していて、梨花に俺が死ぬことを伝えたのか と聞かれたのでまだ伝えていないことを言った。陽菜は俺が伝えていないことに大きな声で驚いたが、自分の声が大きかったと分かり、適切な声で喋り始めた。
「いやーなんか伝えるタイミングというか、、そのぉ、、」
「もーまたそんなこと言って。昨日も言ったけどそれ逃げてるだけだからね」
確かに俺は逃げていたのかもしれないな。いや、逃げている。陽菜に打ち明けたことに安堵し周りが見えていなかった。梨花に伝えることから目を背けていた。
「それに、梨花ちゃん。絶対気づいてるよ。りょうちゃんがなんか隠し事してるって」
「そうか?」
「うん、絶対そう」
俺は陽菜から言われ、昨日までのことを考えていた。
そういえば昨日、梨花のやつ俺になんか言おうとしてたな。少し元気がなかったような感じもしたし。そうか、、梨花も気づいているのかな。
「なんか思い当たる節があるような顔してるね。 よし。分かった。私も今日手伝うから梨花ちゃんにちゃんと伝えること。いい?」
「ああ、そうだな。そうするよ」
今日、帰ったらちゃんと伝えるか。
俺は今度こそ伝える覚悟を決めた。そして、なんだか分からなかったけど心を覆っていた闇が消えるような。そんな希望のようなものが見えたような気がした。
「おお、仲直りできたんだな」
一限の途中で俺は陽菜とのことを仲直りできたと伝えた
「ああ、なんとかな」
「おお、じゃあ仲直り記念デートとかすんの?」
「一応...日曜にイエローランドに行く予定だよ」
「ひゃー。ラブラブだなーやっぱり」
俺はいつものようにその後の授業を聞いた。
一限目が終わり、
俺は気づいた。和真にも俺が死ぬことを伝えていないと...
そうだよな。和真にも伝えないとだよな。きっとこいつも俺が伝えたとしてもちゃんとそれを受け止めてくれると思う。
俺はちゃんと伝えようと思った。昼休みは和真と二人でご飯食べるので、伝える機会はあると思い、昼休みに伝えようと思った。
二限、三限、四限と何もなく終わっていった。
俺と和真は一緒にご飯を食べ始めた。最初は何気ない話ばかりをして会話を楽しんだ。
俺は言える。ちゃんと言えるぞ。俺、ちゃんとしろ。
いざ、目の前にして伝えようと思うと言葉がのどに詰まるような感じがした。けど、俺はなんとか自分の力を振り絞り、声に出した。
「ぁ、あのさ」
「あのさ」
俺は声に出して伝えようとした。が、俺の声は和真の声に押し負けた。
「ん、どうかしたか?」
「いや、別に... 和真はどうしたんだ?」
逃げた。俺は逃げた。口が開けば和真に話を振っていた。
「そうか。 えっとだな、、その、なんていうか。俺個人の話だけどいいか?」
「全然いいけど」
「実はだな。まだ、サッカー部の何人かにしか言ってないんだけど。俺はその、、由衣が好きだ」
「知ってる」
「そうだよな。驚くよな。で、俺さ... え? 知ってた?」
「うん、知ってた」
俺は自分の話じゃなくなった途端、心が少し楽に感じた。そして、とりあえずは和真の話を聞こうと思った。
しかし、好きな人の話とは...
和真の顔はなんでバレたんだみたいな顔をしていたが、バレバレだった。なぜなら、
「お前なぁ。あれでバレてないって思ってたのかよ。陽菜と由衣が一緒にいた時に俺が陽菜に用事があったから喋りかけに行ったら、なぜか知らんが、お前もついてきて。隣にいるだけなのかなって思ったら、気づいたら由衣と話してたし。まあ由衣も暇そうだったから、ただ話し相手になってるだけかなって思ったら、お前めちゃくちゃ顔赤いし」
「え、まじ?」
「それにこの前の体育祭。お前背中に由衣の名前書いてたじゃん」
「な/// まじか よ」
俺は和真が由衣のことを好きなのは前から知っていた。こいつはバレていないと思っていたのか。俺が知っていたことにとても驚いていた。ちなみにこの学校では体育祭の時、背中に好きな人の文字を書いているとその恋が叶う学校マジックというものがある。これをする人は結構いるが、背中に文字を書いてるのがバレる人も結構いる。
こいつあれでバレていないとでも思ってたのかよ。他にもたくさん好きですアピールしてたくせに。
「で、好きなこと俺に伝えて来てどうするんだよ」
「告白する」
「おお、やるなー。頑張れよ」
「それで、協力してほしいんだが、亮哉には場所のセッティングをしてほしい」
「そういう事ならいいぞ。おーい。陽菜こっち来てくれ」
俺は陽菜の席の方を向き陽菜を呼んだ。陽菜は由衣とごはんを食べていたので軽く行ってくると言ってこっちに来ていた。
「え、陽菜にも手伝わせんのかよ」
「俺が由衣と二人きりになろうとしたら変なことになるだろ。それにあの二人結構仲いいし」
「まあ確かに」
「なに? りょうちゃん」
「あー実はだな~」
俺は事のあらましを説明した。
「なるほどね~。うん。いいよ。協力して。じゃあ昼休みもそろそろ終わりそうだし行こうか」
「今からすんのかよ」
「行動は早い方がいいでしょ。で、呼び出すのはピロティでいいの?」
「ああいいけど、、やべーほんとにすんのか」
「ん、わかった。じゃあ先行っててよ。呼んでくるから」
陽菜はそう言った後、由衣の方へと戻った。俺と和真は弁当を直し、席を立ちピロティへ向かった。ピロティは真ん中に大きな吹き抜けがあり、大きな木が立っていた。そして、人影はなく静かだった。
「やべーめっちゃ緊張してきた」
「まあ、お前なら大丈夫だろ。由衣がお前のことどう思ってるか知らんけど、、」
「そんな不安なこと言うなよな。なんか不安になって来たじゃねえか」
「すまん。すまん。まあそのなんだ。俺はお前らの事お似合いだと思うぞ」
「うっせぇ//」
俺は不安がっていた和真を煽りのような勇気づけのようなものをしてやってると、玄関から由衣が出てきた。ピロティから購買がガラス越しに見えることもあり、そこに陽菜がいたので
「お、来たみたいだな。じゃあ俺は行くから。頑張れよ」
「お、おう」
俺は陽菜のいる購買へと向かった。
「うっす」
「あ、りょうちゃん。今どんな感じだった?」
「あいつめちゃくちゃ緊張してたよw」
「いつも通りしてればいいのにww あ、二人話し始めたっぽいよ」
「お、ほんとだ」
俺と陽菜は二人の様子を眺めていた。和真は終始オドオドした感じで話していた。由衣はというと少し緊張してる雰囲気はあったが、和真よりは全然落ち着いていた。二人は何か話しているのか笑顔でいた。そして、二人は話し終わったらしく玄関の方に戻っていった。
「え、どうなったのかな。どうなったのかな」
「それな、めちゃくちゃ気になる」
結果に俺と陽菜はドキドキしていると、和真がやって来た。由衣の姿がなかったので陽菜は気になったのか
「由衣は?」
「由衣は別の方から教室に戻ったよ」
「ああね。それでどうだったの?」
「どうだったんだよ~ おい」
「それがですね。実は・・・」
やばい、やばい、やばい。めちゃくちゃ緊張してきた。心臓えぐ速いんですけど。
俺はめちゃくちゃ緊張していた。ただでさえ好きな人と話すのに、話がトントン拍子に進み、いきなり告白という展開になって来たからだ。
俺まだ心の準備できてないよ。
「お、来たみたいだな。じゃあ俺は行くから。頑張れよ」
ほんとだ。やばいって
俺は戸惑い続けていたがすぐに由衣がやって来た。
「話って何かな? 和真君」
「え、えっとだな。そのーそれは」
しっかりしろ。俺。ちゃんと言うんだ。付き合ってくださいって。
「俺と...そのー」
「ん?」
あーやばいやばいやばいどうしようどうしよう。
俺はとても逃げたしたかった。けどここで伝えなきゃと思い、
「俺と...つ、つつ」
俺は言おうとしたその瞬間
日曜にイエローランドに行く予定だよ
その言葉が頭によぎった。なぜだかわからなかった。ただなんとなくそのことが思い浮かんだ。
「俺とイエローランドに行こう」
「え?」
バカバカ。俺のバカ。何言ってんだよ。まじで。
自分でもなんで行ったか分からなかったただ、思いついた次にはその言葉が出ていた。
「今度の日曜日に、よかったらその な。遊ばないか?」
「日曜ね...」
「その、亮哉と陽菜も行くらしいんだ。だからそのみんなで遊ばないかって」
しかも、あいつらの名前まで出して、バカだろ俺。
「ふふ。 いいよ。遊んでも」
最初、由衣の顔は驚いていたけどすぐに笑顔になった。
「え、いいのか」
そしてちょうど雲が動いたからか、太陽が出てピロティに光の筋が入り込んで、
「その代わり、ちゃんとリードしてよね」
由衣の全身を照らした。
かわいい。 じゃなくて、
「おう、任せとけ」
そう言って俺と由衣は戻っていった。
「というわけでして。ほんとにすみませんでしたぁ」
「あー結局告白できなかったと」
「はい、、で、その、、」
「日曜の件だろ? 俺はいいけど陽菜は?」
「私も全然いいよ。してみたかったしダブルデート」
「ありがとうございます」
「その代わり、ちゃんと日曜日には告白しろよな」
「はい、わかりました」
「なら、よし」
「ほんとにありがとな。亮哉も陽菜もサンキュウな」
そう言って和真は俺の方に手をかけてきた。
「お、おう」
「どういたしましてw」
「やっぱ持つべきものは友達だな。これからもずっとよろしくな。な、亮哉」
俺の心は喜びから悲しみへと変わった。
ずっとよろしく か
俺はその言葉を聞いて周りが見えなくなった。とても暗くなった。自分に対してその言葉はとてもつらかった。
「ん? どうした?」
「おお、そうだな。これからもずっとな」
逃げた。俺はまた逃げた。本当のことを伝えられない自分に嫌気がさした。
陽菜は俺のことを呆れたような表情で見てきたが、俺はそう思われても仕方なかった。
「じゃあ、俺先戻ってるから。二人は仲良く喋ってな」
「お、おう」
和真は教室の方へ戻っていった。
「もう、なんでそう逃げるかな。和真君怒るよ?」
「いや、だって、、」
いや、言い訳はやめよう。自分の弱さが原因だ。自分が弱いばっかりに何も伝えられず、こうなってしまったのだから。
「そうだな。俺はまた逃げたよ。けど、今度はちゃんと伝えよう と 思う」
「はあ、ちゃんと伝えてよね。私は笑顔でいる姿を見たいんだから。いつまでもそんな感じじゃ許さないからね」
「お、おう。分かった」
「じゃあ私たちも戻ろっか」
俺は教室に戻る陽菜の後に続いた。
はあ、俺は何してんだろな。ちゃんと伝えようと思っても逃げて逃げて... 何してんだろ。
俺は結局逃げてばっかで、いざ前にしても何もできないのか。
次機会があったら、俺は伝えようと思う。すべて打ち明けようと思う。
ただ、いざ目の前にするとどうなるか分からない。ちゃんと言えるのか。言葉で伝えられるのか。不安だ。
俺は自分が嫌だ。絶対に伝えられるという自信がない自分が...ほんとに嫌いだ。
俺は自分という存在に、自分の考えに、
絶望した。