三日目 彼女という存在 前編
俺はいつも起きている時間に目を覚ました。体感では二時間くらいしか寝ていないように感じ、体には倦怠感が残っている。俺は朝の支度をしてリビングへと向かった。リビングではもうすでにごはんができており、梨花と一緒に食事をした。特にこれといった会話はなく、普段通りの会話をしながら過ごした。
片付けも終わり、俺と梨花は学校へ向かおうとしたが、
「梨花。悪いんだけど今日先行ってていいよ。俺は見たこともないでっかい花をアマゾンに取りに行ってくる」
「はいはい。特大のが出るから先に行っててことでしょ。それなら、ちゃんとトイレ喚起してから学校行ってよね」
「オブラートに包んだ意味ないだろ。ちゃんとするから行ってらっしゃい」
「全然オブラートじゃないし。 うん、行ってくるね」
梨花は学校へ向かい、俺はトイレへと向かった。
憂鬱だ。
学校へ行くのがこんなにも憂鬱だとは今まで思ったことはなかった。学校の授業が嫌なものばかりで、憂鬱になったことはあった。しかし、これとは別の憂鬱だ。
陽菜は多分俺に文句を言ってくる。別れる理由を絶対に聞いてくる。仕方ないよな。昨日まで変わったことなく生活してきたんだから… はぁ、、憂鬱だ。
俺はしばらく考え込んであることを決めて学校へと向かった。
陽菜から喋りかけられても無視し続けよう。
そして、
嫌われよう。
俺は学校へ着き、自分の席に着いた。陽菜はすでに学校へ着いていて、俺が教室に入った途端、俺のことを見つけ、
「ねえ、昨日のことどういうことかな? ずっとメッセージ送ってたよね? 電話も出ないし」
「・・・」
「まだ、こっちは納得してないんですけど」
俺は無言を貫いた。チャイムがすぐになったこともあり、陽菜は席に戻っていった。
朝のHRはいつものように進み、終わったらすぐに陽菜は俺の席へと来た。
「ねえ、なんか言ってよ。別れるなら別れるでどうしてなのかわからないし。理由を教えてもらえないと私は納得できないよ」
陽菜は少し涙目になりながら俺に話しかけていた。
「ごめん、先生に呼ばれてるから」
俺は先生から呼び出されていたわけでもなく、席を立ち教室を出た。
ごめん、陽菜。俺はどうしたらいいのかわからない。これが正解なのかさえも…
最近なんかりょうちゃんの様子がおかしい。最近というより昨日からかな、、 昨日は、顔色が悪かったけど。なんかそれだけじゃないような感じがした。なんだろう。何かを押し殺してそれを表面に出さないようにしてる。そんな感じがした。りょうちゃんのことだから私や和真君を心配させないために何か隠しているかもしれない。私たちには教えられない何かを...
けど、それでも、別れるということにどうつながっているのか納得できない。私のことを嫌いになったわけではないと思う。ただ、何か隠さなきゃいけないこととつながりがあるのか、それが別れることとどう関係しているのか、私にはさっぱりだった。
俺は職員室に行くわけでもなく、ただ誰もいないところで無言のまま一限までの時間を過ごした。
俺は一限の化学が始まりそうになり、チャイムギリギリに科学教室へと向かった。
「気を付け。礼」
「「お願いします」」
「着席」
俺は教室に入って、日直の号令に従って挨拶をした。
「なぁ、お前、陽菜となんかあったか?」
「ああ、別に、、少しけんかしたくらいかな」
「お前と陽菜が喧嘩ね~。前もなかったわけではないけど、珍しいな」
「まあなんだろうな。 そんな心配すんなよ」
「わかったけど、早く仲直りしろよな。 しかし、理由は何なんだよ。喧嘩するってなったらよっぽどな理由なんだろ?」
「・・・」
俺は何か適当に嘘をついて誤魔化そうとした。けど、言葉が喉の奥につまり出てこなかった。
「・・・ まあ、いいや。早く仲直りしろよな」
「ああ」
俺は何も返せなかったことに悔しさを覚えその後の授業を聞いた。
二限、三限、四限は特に何もなく過ごした。陽菜も学校だったからか、そんなに声を大にできることでもなかったからかあのことについて何回か訪ねてきたものの、そこまで深くは追及してこなかった。そして、昼休みが始まった。俺は今日も友達と話すときは普通を演じていた。が、昨日ほどくるしいことはなかった。
「それで、あいつがさ・・・」
俺は和真はいつも通り昼ご飯を食べていた。
「ねえ」
陽菜が俺の席まで来た。
「今日学校終わったら私の家に来ること。わかった?」
陽菜はそれだけを伝え、自分の席に戻っていった。
「ついにお呼び出しかw お前ほんとに仲直りしろよな」
「ほっとけ」
家 か。
俺は悩んだ。行こうか行かないか。行かなければ嫌われる。嫌われるというのは俺が覚悟したことだった。だから嫌われることなのでそれはそれでいいと思った。
けど、それは...
俺は昼休みの間悩み続けた。そして昼休みが終わり、五限目が始まろうとしていた。五限は体育ということもあり、女子は更衣室に向かい、男子は教室に残り着替え始めた。そして、着替え終わった人から体育館へと向かっていった。俺も着替え終わり和真と体育館に向かった。
俺は少し気分が悪かった。悩んでいたからだろうか。体が重く感じた。
なので、俺は体育館に行った後、一通りのストレッチをして、体育の先生に「貧血だったので今日は、体育は休みます。あと、今も少し気分がすぐれないので保健室に行ってきます」と伝え体育館を出て行った。
俺は保健室へ向かわず、職員室に向かった。
確かこの時間、先生は授業なかったはず。
俺は職員室の入り口の教科担当者表を見ながら先生がこの時間授業がないことを確認し、
「失礼します。三年五組、山崎亮哉です。斎藤先生に用があってきました。失礼します」
俺はいつもの決まり文句を言い、職員室へと入った。授業や出張に行っているのか、教室には斎藤先生しかいなかった。俺は先生の方へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「一くん、そんな顔しないでよ。一くんには笑顔で見送ってほしいなぁ」
とある病院の病室にベットに横たわる少女とその隣の椅子に座っている少年とベッドの後ろで部屋の隅に二人の夫婦らしき人がいた。
「無理だよ。笑顔を作ろうと思っても、涙が止まらないよ。なんでこんな… なんで香織が死ぬんだよ。こんなの勝手すぎるよ」
「前から決まってたことだよ。それにこの一週間ずっと一くんと居られたから私はとても幸せだったよ。まあ死ぬことを伝えなかったのは悪かったとは思ってるけど…」
「それでも、それでも。俺はお前と離れたくない」
「もぅ… わがままだなぁ」
「わかってる、わかってるけど」
俺は悲しかった。香織が死ぬことはとても信じられなかったが、それ以上に香織と離れたくなかった。
「ねえ、最後に手 つないでくれる?」
俺は香織の手を握り
「最後だなんて言うなよ。ずっとずっとこれからもお前の手を握り続ける。だから、だから、、生きてくれ。生きてこれからも俺の隣にいてほしい。俺はお前がいなかったら何もできないダメな人間だから」
「ありがと。でもね、そのお願いは聞いてあげれないなぁ。もうね、手 自分で動かせないんだ。感覚はあるんだけど動かせない。ほかの部分も動かそうと思ってるんだけど、どこも動かないよ。 もう死ぬのかな」
香織の両親はずっと泣いていて、お義母さんは顔をハンカチで押さえながら、お義父さんはお義母さんを抱きしめながら泣いていた。俺は香織の顔を見ると香織の顔から涙があふれてきていた。
「わたし、死にたくない。ずっと、ずっと生きていたい。そして一くんといろんなことしたい。これからもずっと」
「うん、ああ俺もだ。俺もお前と生きていたい」
俺は悲観した。どうすることもできない自分を、ただただ悔しく思った。
「お父さん、お母さん。私ね、二人にたくさん迷惑かけたと思う。私、やんちゃばかりしたから大変だったでしょ。けど、それでも、それでも優しく接してくれた二人が私はとても大好きだよ。ありがとうね。 一くん。 一くんのおかげで私はとても救われた。私が落ち込んだ時、悲しいことがあった時ずっと側にいて私を支えてくれた。それだけで私はとてもうれしかったし、救われた。ほんとに今までありがとう。大好きだよ」
香織は静かに目を閉じた。
「うわああああああ、俺も、俺も香織のことが大好きだ。だからずっと側にいてくれよ。お願いだから さぁ」
俺は冷たくなり始めた香織の手を握り締めてただひたすらに
泣き続けた。