第06話 金髪少女の脅迫
どうも皆さん勇者の長門 賢治です。
ひょんなことから異世界で勇者をすることになった俺は、
少女
「………」ゴゴゴゴゴゴ
酒の勢いで見知らぬ少女に手を出したみたいです。
【俺が勇者になったなら】
06『金髪少女の脅迫』
長門
「………」ガタガタフルフル
少女
「フフフ、まるで濡れて子犬みたいな震え様ね。見てて滑稽よ」
マズい、調子に乗って酒なんざ呑むんじゃなかった!
絶対にこれ手を出したパターンだろ!? 向こうは下着姿でこっちはすっぽんぽん!
少女
「昨日は世話になったわね? まさか、自分だけ楽しんでお礼の1つもさせないなんてないわよね?」
長門
「滅相もございません! 自分のやらかしたことぐらい自分で責任を取らせて頂きます!」
少女
「そう、それならいいわ。そう言えば、互いに自己紹介もまだだったわね。私はレオネスフィール・V・ハッシュよ。レオーネと呼びなさい」
長門
「? なんだろう? 君の名前に聞き覚えがあるのは何故だろう?」
レオーネ
「何故って、あんた昨日まで父様と一緒に呑んでたじゃない」
ピキッ
その時、心のヒビに入り込んでいた爪が氷細工を砕くようにかぎ砕いた。
パリンッ
長門
「つまり、レオーネさんは〜、」
レオーネ
「えぇ、王女様よ」
長門
(………うん、死んだ。死刑執行だ)
レオーネ
「ん?」
長門
「あの、お願いです、仲間には何の責任もないので、どうか見逃してあげられませんか?」
レオーネ
「? あぁ、ふ〜ん? 別に構わないけど、あなたってそんなことを頼める立場だと思ってるのかしら?」
長門
「………」
レオーネ
「ところで、早くあなたの名前を教えて頂けませんか?」
長門
「長門 賢治。第187代目勇者です、」
レオーネ
「賢治ね。あなたには1つお願いがあるのだけど、聞いて下さるかしら?」
長門
「できる範囲のことなら何なりとお申し付け下さい!」
レオーネ
「なら早く着替えなさい。あとそろそろ召使いが来る頃だから部屋を出て、門の前で待機。仲間に何か聞かれてもバラしちゃダメよ」
長門
「王女様のことを?」
レオーネ
「当たり前でしょう? 馬鹿なのあんた?」
長門
(うぅ、懐かしくも忌々しいなこの苛立ちと共に湧き出る悲しみが!)
クリス
「えぇ? 野暮用ですか?」
シオン
「しかも1人で?」
長門
「あぁ、悪いが一緒に行動する相手がいてな。その人には前にお世話になったことがあるからお礼がしたくてな」
シオン
「そう言うことなら無闇につけるのも無粋みたいね」
長門
「やるつもりだったのかよ」
シオン
「釘を刺されなければね」
クリス
「………」ジーッ
長門
「安心しろ。お前らの考えてるようなことは万が一にもーーーッ!!!」
ギリギリ
レオーネ
「ちょっと、ボサッとしてないで早く行くわよ」
長門
「だぁ、もうわかりましたから足踏まないで!」
クリス
「ゆ、勇者さん! ちょっとあなた! 勇者が世話になったかなんだか知りませんが、あまり荒く扱わないで下さい!」
レオーネ
「ハァ? コイツ私のこと喋ったの?」
シオン
「いえ、世話になったとしか、」
レオーネ
「ふ〜ん。じゃあお仕置きは半分にしてあげる」
長門
「理不尽にもほどがあるでしょ!? 痛い!」
レオーネ
「喋ってないで歩けこの芋野郎!」ゲシッ
シオン
「嵐のような人だったわね」
クリス
「勇者さん、」
レオーネ
「ふ〜ん。じゃああなたも向こうの世界に執着はない訳なのね?」
長門
「えぇ、人生やり直してみようかと」
レオーネ
「一度失敗した奴って何度やっても無駄じゃないの?」
長門
「それなら、やって後悔した方が余程気分がいい気がするんで」
レオーネ
「あんた、」
長門
「?」
レオーネ
「私に反論するとかいい度胸じゃん?」
長門
「すみません聞き逃して下さい!」
レオーネ
「よろしい。また外出たらお仕置きね」
長門
「ハァ、こんなんならマゾにでも目覚めときゃどんなに楽なのだろうか、」
ドッ
長門
「あぎゃ! っつー、その靴もしかして何か仕込んでます?」
レオーネ
「えぇ、お仕置き用に鉄を仕込んであるのよ」
長門
「う〜、さてはSだなおめぇ」
レオーネ
「今の言葉を撤回してほしかったら買い物に手伝いなさい」
長門
「イエスマイマスター!」
レオーネ
「あっ、いいわねその返事。今後それを私に対して使いなさい」
長門
「あの、せめてあとどれくらい持てばいいのかお教え下さいませんか?」
レオーネ
「まだまだよ。にしても随分器用に持つわねあんた? こう言うの慣れてるの?」
長門
「パシられてることにも気づかず役に立ってることが嬉しかったみたいで、」
レオーネ
「あんた昔はマゾだったってこと?」
長門
「否定はしませんよ。ただ相手の限度が過ぎて嫌になりましたけど」
レオーネ
「あぁ、その時壊れて逆に卒業できたと」
長門
「好奇心で踏み込んだ先には痛めつける愉悦でした」
レオーネ
「凄い、MがSに反転したってこと?」
長門
「それか、ただ性に合ってなかったからそうなったのかもです」
レオーネ
「ふ〜ん、あんたってやっぱ馬鹿なのね。あいたっ、ちょっと! どこ見て歩いてんのよ!?」
男
「あぁ? 自分からぶつかっといて何様のつもりだこのアマ!?」
レオーネ
「ハァ!? アンタ私に対してどう言う口の聞き方を───」
ゴトッ
長門
「すんません、どうか妹の無礼をお許し下さい。妹にもキツく言っておきますんでどうかここはこれで」スッ
男
「あ? え、こんなに? ん〜、まあ気ぃ付けなよお嬢ちゃん」
レオーネ
「ちょっ、なんであいつ逃がすのよ!? 私が誰だか思い知らせてやりなさいよ!」
長門
「あなたはお忍びも同然な立場ですよ。あまり騒ぎを起こすのは良くない判断と思い、今回はあの手で討たせてもらいました」
レオーネ
「くっ、こんなの、王族としての恥よ………!」
長門
「正体伏せてんですからノーカンですよ」
レオーネ
「ん〜、なんやかんやで楽しかったわ」
長門
「お気に召されて光栄です」
レオーネ
「いいわ。あなたのお願い通り、昨日のお礼はあなただけにしてあげる」
長門
「ありがとうございます。まあ、あいつらには迷惑をかけることに代わりはないけど、」
レオーネ
「フフ、そうね。昨日は本当に世話になったから実際こんなことしなくてもあなただけにお礼をするつもりだったし」
長門
「そんな殺生な、もう如何様にもなさって下さい」
レオーネ
「そうね。それじゃあまず、あなたにとっておきのお知らせがあるの」
長門
「ほぉ」
レオーネ
「まず、あなたは私に何らかの粗相をしでかしたと思ってるけど、実際私はあなたに助けられたのよ?」
長門
「………え?」
レオーネ
「あなたは、自殺を図った私を助けてくれたのよ」
昨夜、
レオーネ
「………」スチャ
ガクガク
レオーネ
「………!」
長門
「頼もーうッ!」バンッ
レオーネ
「キャッ! あなた! ここが誰の部屋かわかっておいでですか!? 無礼ですよ!?」
長門
「何が無礼だよ馬鹿野郎………! んぐっ、んぐっ、んぐっ、ぷはぁ! お前も呑め! そんなこと興味なくなるぞ!」
レオーネ
「酔っ払い? いいから出て行きなさい! ここは王女の部屋よ!」
長門
「王女だぁ? なんでその王女様が刃物なんて持ってんだよ?」
レオーネ
「そ、それは、」
長門
「あっ! わかった! リストカットだろ!? あれ痛いだけで楽にはなれねえらしいから傷物になるだけだぞ〜!」
レオーネ
「違うわよッ!」
長門
「ん? じゃあなんだ? 自殺でも考えてたか? 勿体ねぇなぁ」
レオーネ
「ッ! うるさい! あんたみたいな酔っ払いに何がわかるのよ!?」
長門
「ん?」
レオーネ
「私は、今まで他人が引いた線の上を歩き続けてきた、それが王族だから、もう、他人の為に無理やり頑張らされるのはいや、」
長門
「じゃやめれば?」
レオーネ
「無責任なこと言わないで!」
長門
「じゃやりたいこともやれば?」
レオーネ
「あなた適当で言ってるでしょ?」
長門
「お前、エスパーか何かか………!?」
レオーネ
「誰だってわかるわよ。そもそも、なんであんたは勇者なんてやってるの? いやじゃないの?」
長門
「え、面倒臭いよ?」
レオーネ
「じゃああんたこそやめればいいじゃん! 死ぬかもしれないのよ!?」
長門
「えへへ、お嬢ちゃん優しいなぁ、」ポリポリ
レオーネ
「そんなんじゃないわよ………! 早く答えて」
長門
「ん〜、なんやかんやで楽しいからかな?」
レオーネ
「………」
長門
「最初はさぁ、俺みたいな馬鹿を呼び出すとか馬鹿じゃねぇのって言ったらさぁ、いきなり剣を握らされては勝負挑まれて、気づいたら勝ってたんだよ。そんで、冒険に出ても仲間に愚痴を漏らすだけの日々だったんだけど、いざ仲間が危機に陥ったら、」
キュポン
長門
「助けずになんていられなかったんだろよな、」グビッグビッ
レオーネ
「………」
長門
「俺は面倒事から毎度逃げ出す奴だと思ってたんだけどな、どうしてか後ろではなく、前に向かって逃げようとしちまうんだよなぁ」
レオーネ
「前に向かって、」
長門
「で、いつの間にかそんな日々が居心地良くってさ。やめる理由がなくなったのよさ。うん、嫌だ嫌だと逃げるより、目の前の現実に飛び込んで楽しみを見つけるのも一興だな」
レオーネ
「目の前の現実に、ねぇ、フフ、」
長門
「? 何笑ってんだよ?」
レオーネ
「あんたの言ってることがおかしいからよ、フフフ、」
長門
「んだとコラー!」グワー
レオーネ
「ねぇ、1つ教えて」
長門
「なんだよ?」
レオーネ
「私、他人に決められた線の中で、自分らしくいられるかな?」
長門
「んなもん知ったこっちゃねえよ」
ゴトッ
長門
「ただ、興味が尽きねえ間は自分から色んなものを知ろうとするだろう? だからその中で自分らしさも見つかるはずだ、ひっく、」
レオーネ
「………そう、そうね。あなた、名前は」
長門
「野球拳」
レオーネ
「え?」
長門
「そう言えば野球拳のことすっかり忘れてた! あぁ、皆でやりたかったのに、」
レオーネ
「え、えぇ?」
長門
「もういいや、そこのお前!」
レオーネ
「は、はい!」
長門
「野球拳すっぞ」
レオーネ
「ちょっと待って! 何なの野球拳って!」
長門
「アウト! セーフ! よよいのよい!」
長門
「つまり、酔いに酔った俺はお姫様にそんのことやらせてたってこと?」
レオーネ
「驚いたわよ。いきなりジャンケン仕掛けてきて、負けた途端に服を脱ぎ始めるんだもの」
長門
「もう、酒呑むのやめよ、」
レオーネ
「まぁ、その件に関しては下着になった時点で負け続きになったあなたに免じて許してあげるわ」
長門
「もう、死刑になってもおかしくないよこれ、」
レオーネ
「当然よ。私の寛大さに感謝しなさい」
長門
「ははぁー!」
レオーネ
「あと、1つお願いしていいかしら?」
長門
「何なりと」
スッ
レオーネ
「私と友達になって」
長門
「え」
レオーネ
「だから、敬語でなく私語でお願い」
長門
「俺が、友達?」
レオーネ
「そうよ。記念すべき私の1人目の友達よ」
長門
「………フフ、何恥ずかしいこと暴露してんのさ」
レオーネ
「あら、友達がいないってそんなに恥じること?」
長門
「結構ね。でも」
ガシッ
長門
「王女様の最初の友達とはいいとても光栄だな」
クリス
「あっ! 勇者さん! どこに行ってたんですか! 大変ですよ!」
長門
「え、何かあったのか?」
シオン
「王女様が行方不明なの。城のどこにもいないって」
長門
「おい」
レオーネ
「だ、だってあんたと遊びに行くのが楽しみだったから、」
長門
「王女様」
レオーネ
「はい、」
長門
「お説教の時間だ」グイッ
レオーネ
「うわー! バラしてやる! あんたと私の秘密バラしてやるー!」
長門
「やったらどうだ? バレて辱めを受けるのは自分もだぞ?」
レオーネ
「うわーん! そこの2人助けてー!」
クリス
「あの人、今朝勇者さんを虐めてた人ですねよね?」
シオン
「なんで王城に入って行くのかしら?」
国王
「なるほど、事前報告も無しに勇者殿を振り回していたと」
レオーネ
「うぅ、申し訳ありません、」
大臣
「そして勇者のあなたは彼女が王女とわかっていながら安易に街へ連れ出したと」
長門
「言い訳のしようもございません」
国王
「ハァ、まあいい。今回は城内だけの騒ぎで済んだのが不幸中の幸いだ。反省の色は見えているゆえこれ以上の追求はしまい」
長門
「ありがとうございます」
国王
「因みに勇者よ。昨晩は結局どこで過ごした? どこにも姿を見せなかったが」
長門
「え、あぁ、それは、」
レオーネ
「廊下で寝てるのを見つけたので、私の部屋で寝かせました」
長門
「あ、ちょっ、」
国王
「………」
長門
「………」ボタボタ
国王
「まあ、正直者のレオーネがそれ以上を言わないと言うことは何もなかったのじゃろう」
長門
「ふぅ、」
国王
「因みに何かあったら酌み交わした仲でも容赦せんぞ」
長門
「肝に命じておきます!」
国王
「ハァ、ところで勇者殿。君のパーティには回復魔法の所有者はいるか?」
長門
「え、いえ、今はシオンの調合した薬品を扱っており、回復魔法などが扱える者は1人も」
国王
「では吉報だ勇者殿。近くの村に回復魔法を扱えるフリーの聖職者がいるとの情報を得た。興味があるなら声を掛けてみるといい」
長門
「それは助かります。王の助言に感謝を」
長門
「じゃ、また機会があったら」
レオーネ
「えぇ。今度も負けないからね」
長門
「またやるつもりなの?」
レオーネ
「えぇ、今度は圧勝してあげるわ」
長門
「へいへい、なら今度は別の勝負を考えておきますよ」
クリス
「まさかいつの間にか王女様と友達になってるなんて」
シオン
「それにこれからもう1人仲間を探しに行くんでしょう? 私達みたいなパターンにならないといいのだけど」
クリス
「そうですよ! できれば男でありますように、」
長門
「さて行くか。次の村へ」