第七話 狩り
『瞬速』スキルを重ね掛けすれば、今よりも早く動くことが可能かもしれない。
「よっしー。このままの身体能力じゃ六層で通用しそうもないし、三層のキラーラビットがドロップする『瞬速』スキルを重ね掛けするってのはどう?」
「ありだな。というより、それしか方法はないか」
無理して六層に行き、死ぬよりは遥かにマシな選択だろう。
かなり強くなったと思ったんだけどな……
俺たちは来た道を戻っていく。
五層のハチはスポーンする数が少ないのか、帰り道に一匹も見かけることはなかった。
無事に四層へと続く階段へ到着し、階段を登っていく。
その後の四層もスケルトンを無視して進む。
十分ほどで三層へついた。
「ここからは二手に分かれて狩るか。二時間後二層行き階段前集合で」
三層では死なないと思うので、二手に分かれる。
そっちの方が効率いいし。
「うぃー。無理すんなよ」
よっしーもその辺はわかっているらしく、快く二手に分かれることを了承した。
俺たちは別々の方向へと歩いていく。
『豪運』スキルの見せ所だな。
よっしーと分かれて五分後、早速最初の獲物を見つけた。
さっきも狩ったはずだが、四層で死闘を繰り広げたせいか、かなり昔のように感じる。
キラーラビット如き敵じゃないので、無警戒に近づいていく。
相手もこちらに気づいたらしく、俺の周りをぐるぐると回り始める。
『瞬速』スキル、発動。
その瞬間、俺の速度が三倍になる。
自分の速度が上がると、なぜか敵の動きがゆっくりに見えるものだ。
今の俺なら走り回っているキラーラビットを後ろから追いかけて倒すことも可能だが、あえてそれはしない。
キラーラビットの動きを見極める。
右、後ろ、左、前、右、後ろ、左……
今だ!
全力で槍を前に突き出す。
ぐさっ
見事に串刺しにすることができた。
キラーラビットが光の粒となって消えていく。
コロッ、と透明な球体が転がった。
スキルオーブだ。
これは『瞬速』だろうか。
それとも何か別のスキル?
よっしーに隠れて割るわけにもいかないので、ポケットにしまっておく。
いい調子だ。
このまま次のキラーラビットも狩りに行こう。
再び五分ほど歩き回ると、二匹のキラーラビットがいた。
前方百メートルほど。
先ほどと同じように倒してもいいが、別の方法を試してみよう。
三十メートルほどまで近づいて、手ごろな石を拾っう。
そのままキラーラビット向けてポーイ。
ゴチンッ
無事ヒット。二匹のキラーラビットがこちらに気づき、突っ込んできた。
そう。キラーラビットは怒ると突っ込んでくるのだ。
無防備にキラーラビットが近づいてくる。
そのうちの一匹にスライムナイフを投擲し、二匹目は槍で串刺しにする。
あっという間に二匹は光の粒となって消えていった。
後に残ったのは透明な丸い球体二つ。
どうやら二匹ともスキルオーブをドロップしたっぽい。
どれくらいの確率なんだろうか。
疑問に思いつつも、その二つをポケットにしまった。
一時間後、俺のポケットはパンパンに膨らんでいた。
入っているのは全てスキルオーブである。
狩ってきたキラーラビット全てがドロップしたのである。
あくまで俺の予想だが、多分これはレアドロップじゃない。
流石に『豪運』を持っていたとしてもレアドロップがこんなにドロップするのはおかしい。
そういうことで、俺はレアドロップじゃないと結論づけた。
「もうポケットにも入りきらなくなったし、一旦よっしーのところへ戻るか」
よっしーを探す。
とは言っても先ほどから戦闘音が聞こえてきているので、大体の方角はわかる。
音のする方へ行ってみると、よっしーが三匹のキラーラビットの攻撃を受け流していた。
一分ほど受け流し続けると、三匹まとめて一閃。
まるでプロの所業だ。
「なんでそんな刀扱うのうまいん? 前世宮本武蔵?」
話しかけると、よっしーはこちらに気づいた。
「バレた? 俺前世宮本武蔵なんだよね笑」
軽口を叩く余裕はあるようだ。
「で、なんで戻ってきたん?」
「スキルオーブがドロップしすぎて持ちきれなくなった」
そう言って俺はポケットを指し示す。
「あーね。俺でも四つドロップしたし、タカシはそんなんじゃないかなーとは思ってたわ。じゃあ一旦地上戻るか」
『豪運』スキルを持っていないよっしーですら四つもドロップしたんだ。
やはりレアドロップではないっぽい。
よっしーも一旦狩りを切り上げて、地上へ向かう。
二層、一層の敵は無視して歩く。
倒しても旨味少ないし。
レアドロップ武器も持ってるし。
道中二、三対のモンスターと戦ったが、どいつも俺らの敵ではない。
無事に地上へと到着し、自動ドアを潜る。
「俺はスケルトンの素材売ってから鑑定屋向かうから先行ってて」
そう言ってよっしーは武器屋へと消えていく。
よっしーの言葉に従い、俺は鑑定屋へと向かう。
昨日もこの道通ったな。
鑑定屋に入り、カウンターへと向かう。
「これとこれの鑑定をお願いします」
俺は金色の槍とキラーラビットからドロップしたスキルオーブをカウンターに置く。
スキルオーブは数が多いので、一つだけお願いした。
「了解しました。少々お待ちください」
店員はカウンターの奥へと消えていく。
俺は昨日と同じく、漫画を読みつつ待つ。
槍は効果知ってるし、本命はスキルオーブだな。
五分ほど経つと、よっしーが鑑定屋に入ってきた。
一体金色の骨はいくらになったのだろう。
「どうだった?」
「ふっ。聞いて驚くなよ。なんと五十万だ!」
そう言って札束を掲げてきた。
確かに大金だ。
だが、昨日のレアドロップ三点で三百万なので、あまり驚かない。
「そうか。よかったな。ちなみに今鑑定してもらってる最中」
よっしーは頷き、本棚から漫画を取り出す。
そのまま二人で漫画を読むこと十分、店員が奥から戻ってきた。
それも、槍とオーブをお盆に乗せて。