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2話 熱く語る白ご飯への深い愛

前回までのあらすじ

破綻した一人暮らしに颯爽とやって来た救世主ハル

童話のこびと(妖精)のように、寝てる間も働くハルも居眠りをしてしまいました。

ハルは男なのに、男なのに、ハルの寝込みを襲ってしまいましたとさ。


「さっき、何か口に当たったような」

ギックゥ!

寝てる男にキスするとか、痴漢か変態だろう!(泣)

「あ、あぁ、ちょっと口の周りに何か付いてたように見えたんでな、手で拭ってみた。見間違いだったから気にするな」

「ありがとう」

屈託なく笑い、礼を言ってくるから心が痛い。

「見間違いだったって言っただろ」

「うん」


まともに見れなくて目が泳ぐ。やましい気持ちってのはこういうのを言うんだろうな。

視点が定まらずに部屋の中を見ていたら、取り込んだ衣類を入れていたカゴが空になっているのが見えた。

「あれ? 服が?」

「コウちゃんが寝てる間に畳んで、引き出しの中にしまっておいたよ。まずかった?」

ほんっとに! ハルが女なら嫁にしたいとこだ。

「いつもすまないねぇ・・・」

「? 初めて来たんだけど?」

そこは『おとっつぁん それは言わない約束だろ』って言うのがお約束ってもんだろうが!



「あ、そうだ。服をしまったあと、コウちゃんの寝顔を見てたら僕も寝ちゃったみたい。勝手にベッドに上がったみたいで、ごめんなさい」

あ、そう。別に気には...、いゃ、そうだよ! ハルが勝手にベッドに上がってこなけりゃ寝てるハルにキ、キスなんて!

しでかした過ちに赤くなったり青くなったりと表情をコロコロ変えているのを見て、ハルが泣きそうになっていた。

「いぁ、わざとじゃないだろうし、怒ってるわけじゃないから。服畳んでくれてありがとな」

そう慰めた。

うん! 訴えられて真実が明らかになったら、負ける!




「コウちゃん これからもこんな感じ?大丈夫?やっていける?」

正直なところ返答には窮した。しかし一人暮らしをすると宣言し、実行してまだ1か月も経っていない。


諦めるわけにはいかないのだ!

なにしろ、『ほら、言わんこっちゃない』と勝ち誇ったようなおふくろの顔が4K放送のように鮮明に目に浮かぶのだから!

「まぁ何とかなるだろ」 根拠など何もなかったが。



「良かったら土日のご飯だけでも僕が作りに来ようか?」

なんだとぉ?

願ってもない話だが、ハルはそれでいいんだろうか。

「一人分作るより、二人分以上作ったほうが単価も安くできるんだよね。僕も食べていいなら一緒にここで食べたいけど。ダメ?」

「構わねーどころか大歓迎だけど、家で食べなくてもいいのか?それにせっかく高校生になったんだし、彼女とかも作ったほうがいいんじゃね?」

ハルの顔はめちゃくちゃ可愛いから、肉食系の女子はほっとかないだろう。

なんか、ハルがむくれた。

「家はいいんだよ! ここで食べる! いいね?」

なんだ? 親とケンカでもしてるのか? まぁ話したくなったら話してくれるだろ。

「鍵は持ってるだろ? チャイムなんざぁ鳴らさなくてもいいから、いつでも上がっていいぞ」

「コウちゃん 掃除してもらえるかもってちょっと思ったでしょ?」

バレてるし・・・。

機嫌がなおった。ヤバい、笑顔が可愛い。



~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



で、今の話だ。


「一応、インターホンは鳴らしたんだけどね」

「あー?」

あぁそれはいいんだが...。なんかまだ頭がボーっとしてるな。

ベッドから頭を上げてハルを見る。

「先週片付けたばかりなのに、もうこんなに散らかして...。ダンベルは隅に置いてって言ったよね?マンガも放りっぱなしにしちゃって」

「あー?」

時間を見たらまだ8時だった。なんでコイツ、こんなに早く来てんだ?

「朝ご飯用意してないでしょ? 今朝のは家で作って来たんだ」

おぉ!朝メシが歩いて来た! 一瞬で覚醒した。うん、来た理由なんかどうでもいいや。

「こっちで準備するから、顔洗っておいて」

「わかった!」

洗顔のついでに寝ぐせをなおして部屋着に着替えた。

ベッド脇の卓袱台にはすでに朝メシが用意されている。

「ハルは食ってきたのか?」

「ううん、まだ。一緒に食べようと思って」

「そか、じゃ食おうぜ。ま、遠慮するなよ」

作ったのはハルだろうけどな。

ハルは苦笑いしたが一緒に、いただきます、をした。



「そういえばお前、これからもこんなに早く来るのか?」

「迷惑だった? ここで朝ご飯を作るならもう少し早く来たほうがいいと思うけど」

「別に迷惑ってこたぁないが、チャイムなんざ鳴らさなくてもいいぞ? 寝てるからな? 勝手に上がれよ?」

ハルは笑う。

「わかった。勝手に上がって朝ご飯作っておくよ。でも、それってもう家政婦さんか通い妻だよね」

「ハル、お前なら通い妻でいける!」

サムズアップで言ってやったらむくれたが、直後二人で吹き出した。想像した姿は同じだったのかもしれない。




「コウちゃん 今日何か予定ある?」

「いや? ゴロゴロしてるだけかな」

たくあんをポリポリ齧りながら、そう返した。

「一緒に買い物行きたい。食器とかお鍋とか包丁も揃えt......」

「そうだ、炊飯器だ!」

買い物と聞いて真っ先に炊飯器が頭に浮かんだ。ここには炊飯器がない。

そうだよ、ハルの美味いメシを食うには炊飯器が要るんだよ。なんでそこを忘れてたかなぁ。

「そ、そうだね。炊飯器もいるよね」

我ながら妙案に一人納得していたら、大声で発言を遮られたハルも同意してきたが、聞いちゃいなかったよ?


「ハルが炊く飯は美味いからなぁ」

そう言って箸を持った右手を額に当て、目を閉じる。米の粒が立った熱々の白ご飯をいそいそとお茶碗によそうハルの姿と、そのお茶碗をハルから手渡されるのを想像して、一人でうんうんと頷いてしまっていた。


湯気が立つ熱々のご飯は、そのままはもちろん、玉子をかけてよし、海苔を乗せてもよし、納豆でも納得。もし何も無くたって、1杯目はそのまま、2杯目3杯目は塩を振るだけで、4杯目はお茶かけで。 お~!白メシだけで4杯食える!


もちろん和食に合う。味噌汁、豚汁、魚の塩焼き、肉じゃが、根菜の煮もの・・・。

洋食だって品を選ばない。ハンバーグ、ステーキ、エビフライ、シチュー、ポタージュ、カレー。

ん?カレーって洋食なのかな?

中華にも相性がいい。餃子、春巻き、八宝菜、麻婆豆腐・・・。

『餃子はおかずじゃねぇよ!主食なんだよ!』と叫んでた中国人を知ってるが、『不味いのか?』と聞いたら『この組み合わせ、美味いな!』と言ってた。好いやつじゃねぇか。

柔道部や野球部の連中は駅前の食堂でラーメンライス大盛を食うが、量はともかくラーメンでも白ご飯が美味いことは否定しない。

これだけは言える、間違いない!

炊き立て熱々の白ご飯はまさにオールラウンドプレイヤー!

自然と箸を握る手に力がこもる。


それをハルが炊くんだ、最強じゃねぇか! ウヒャヒャヒャ。 ヤベぇ。ニヤけて、よだれが出そう...。

ふと目を上げると、ハルが赤い顔をしてこっちを睨んでプルプル震えている。やべ、話聞いてなかったよ。何か怒ったのかな。ここは素直に謝っておこう。メシのために。

「すまん。聞いてなかった。何か怒らせたか?」

「何でもないよ!」

言い捨てて後ろを向いたかと思えば、床を見ている。どうした?泣くなよ?



食べ終えた食器をハルが洗って片付けている間に、部屋着から外出着に着替えた。といっても普段着だが。ジャージやスウェットでないだけマシ程度の。


「どこ行くんだ?」

玄関を出て、隣を歩くハルに聞く。

「ちょっと遠くなるけど、ショッピングモールに行ってみようと思うんだ」

あぁ、駅の近くにあるデカいとこな。遠いっても5駅先なだけだ。

「台所周りの小物は100均、包丁とお鍋とフライパンはホームセンター、炊飯器は電気店。一度に買えるからね」


食器等も1枚1枚買うよりは、ホームセンターで買ったほうが1枚当たりの単価が安い時もある。

「炊飯器は持つ」

「持ち帰るの?」

「今日持ち帰ったら明日からでもハルのメシが食えるだろ?」

「期待してもらってすごく嬉しいかな」

ハルは笑う。




ショッピングモールではまず100均に向かい、ヘラや醤油差しなどの小物を買っていく。

次に電気店に入り、あーだこーだと悩んだ結果、四合炊きを選んだ。まだ買い回るため荷物になるので、支払いを先に済ませて帰りに受け取る。

あとは鍋やフライパンを買うためにホームセンターに行くのだが、先にモール内のフードコートで昼食にしようということになった。



3階のフードコートは広かったが、週末とあってかなり混雑していた。

なんとか対面で座れる二人席を確保し荷物を引き受けて、ハルが二人分の天丼を注文しに行く。

ハルの姿を微笑ましくみていると不意に横から声をかけられた。

「萩原?」

聞き覚えのある、そしてあまり聞きたくない声。隣のクラスの川越がいた。

「よう、川越。珍しいな、こんなところで遭うとはな」


そこそこ大きい病院の院長の息子。

正直、顔と声に出さないよう努力するのが大変。なにしろコイツ、ガチ○モなのだ。

それだけじゃなく素行が良くない。一見、優男なんだが中身はエグい。

「家がこの駅の向こうなんでな。よく来る。むしろお前が珍しいぞ」

そうか!これからはここには近寄らないようにしよう。



「ただいま」

天丼を2つ、プレートに載せてハルが戻ってきた。なんてタイミングの悪い!

「連れか?」

「あぁ、馴染みってか弟みたいなもんってかな。菅原ってんだ」

それを聞いてハルが少しムッとした。

「菅原くんか。俺、川越。萩原とは1年の頃からかなり親しくしてもらってる」

また一瞬、ハルの機嫌が悪くなったが、川越にはバレてない。

「それなら先輩ですね。1年の菅原春輝です」

「1年か。学校でも会うだろうから、よろしくな。それじゃ俺は行くわ。またな、萩原」

「あいよ。またな」

良かった。行ってくれた。ホッとしたよ。

よし。そんなことよりメシだ、メシ。



ハルの機嫌が悪い。ムスッとして天丼を食べている。

「どうした?」

「別に」

「次は鍋とフライパンだな」

「そうだね」

「何を怒ってんだよ」

「怒ってないよ」

怒ってんじゃねーか。ハルのほっぺたをつねる。

「言ってみ?」

「コウちゃん いまの人と仲良いの?」

ガチ○モと仲良くなんかねえわ! ただ、ここでは言えない。誰が聞いているかわからないのだ。

ボソッと答える。

「あとで話す」

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