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1話 一人暮らしが破綻した

BL的な要素が出てくる場合があります。お好みに合わない方はお避けください。

基本的にはタイトル通り、ご飯を食べてダラダラするだけのお話です。


 母親同士が友人であり、家も近かったので一つ年下のハル(春輝)とは小さい頃からよく遊んでいた。

家の庭でアリの行進を邪魔し、虫取り網を振り回してセミを追い、どちらかの親に連れられて原っぱに行けばバッタを追って飛び跳ねた。

河原に行けば沢ガニを探し、そこそこきれいな小川に行った時はヒモにエサをぶら下げてザリガニを捕まえた。

ハルはいつも後ろから追いかけてきて真似をする。英雄を見るような目で「コウちゃん かっこいい」と言いながら。


 さんざん遊んだ後はどちらかの家に向かい、一緒に風呂に叩き込まれた。

ある時、ハルは湯船の中に仁王立ちし、

「ぼく、コウちゃんのおよめさんになってあげる!」

と高らかにのたまった。

......その股間には可愛いおちんちんがついていたっけ。








「おはよう コウちゃん。何時まで寝てるの」 玄関からハルが入ってきた。

「あー?」

今日は土曜日か。


~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~


 高校に入学して2年目。

親父が福岡へ3年間の期限付出向になった。現職復帰も含め、条件と待遇はかなり良いらしい。

半年ほど前から内々で話はきていたので、家庭内での話し合いはできた。

おふくろも、小学6年の妹もついていくことになり賃貸だった3LDKのマンションは引き払ったが、一人だけ安い1Kのアパートを借りて残ることにした。

進路も考えないといけない時期に、授業の進捗が大きく変わるのは避けたかったのもあるし、何より!

気楽な一人暮らしってヤツをしてみたかったんだなぁ(笑)


・・・失敗したが。




 生活が破綻した。

いや、金銭面ではなく、日常の面が。

ひと月・・・、保たなかった。

考えてみりゃ、おふくろや妹にメシや掃除洗濯を頼りきっていたヤツが、いきなり独立したところでまともな生活が出来るわきゃなかったんだよな!

え? 考えなくてもわかるだろ、って? そうだよな。反論できん。



 最初こそ「ヒャァッホウ! 自由だ!」 とか思っていたが、

読んだマンガや脱いだ服は床に散乱。

メシは、朝は抜くか登校途中でコンビニ、昼は購買、夜はコンビニ弁当かカップ麺。たまにファミレス。

休日は朝か昼のどちらかを抜く。

洗濯はテキトーで、洗濯機から取り出して干したTシャツの首周りは伸びきり、黒や濃紺の服には白い糸くずが付きまくった。

取り込んだ洗濯物は畳まず、まとめてカゴにぶち込んで、都度そこから取り出して着る。

一人暮らしってこんなもんじゃねーの? と高をくくっていたが、もう部屋のどこから手をつければ片付くのかもわからん。



 このアパートに移ってからハルが初めて来たのは、そうやって途方に暮れていた日曜日だった。

インターホンが鳴ったので出てみればハルがいた。

ハルも今年、同じ高校に入ってきたのだ。

「よぅ。まぁ上がれよ」

足の踏み場もないけどな。


 玄関でハルを見おろして言う。コイツもだいぶ背は伸びてはいるんだが。

サラサラの黒髪、中性的で見惚れるような、それでいて少し童顔、男にしては肌が白い。少し潤んだような大きな瞳で見つめられるとちょっとドキドキする。だから自分に言い聞かせる。「コイツは男だぞ」と。


 ハルが座れる場所を作んなきゃな。

「コウちゃん 何してんの?」

学校では『萩原先輩』と呼ばせてるが、プライベートでは変わらず『コウちゃん』だ。

「見りゃわかんだろ。掃除だよ」

「座る場所だけを空けるのは掃除って言わないよね」

せめて"何かアクションを起こそうとしてる"努力を認めろよ。



 おふくろからハルの母親に連絡が入ったらしい。

「そろそろ()をあげるだろうから見に行ってやってほしい」と。

おふくろとはいえ、読まれているのが腹立たしい。

二つ返事で引き受けたハルの母親は代理人としてハルを寄越した。

もともと、こっちに残るってことでハルん家にゃスペアキーを預けてある。もし一週間も学校に行かなけりゃ、様子を見にきたハルはめでたく餓死体の第一発見者になれることだろう。

当初、ハルん家に居候する話もあったが強硬に反対した。もちろん一人暮らしができなくなるからだ。



 そしてコマンダー・ハルの指揮下、状況は開始された。

脱ぎ捨てた衣類はハルが一度家に戻って持ってきたカゴに放り込む。コンビニ弁当のカラ、ビニールの箸袋等はプラスチックごみへ、 箸やピザの箱は燃えるごみ。ペットボトルはキャップを外し、ラベルを剥がして中身を洗い、潰していく。

うん、真面目に分別とかしてなかった、すまん。

「ピザの宅配まで利用してるなんて。面倒くさがりだなぁ。他に宅配したものとかないの?」

きれいなお姉さんとかデリバリーしてるとでも思ってるんだろうか。


3キロのダンベル2個はベッドの頭側の床に。戸棚の上とかに置いて落ちてきたら危ないし。

マンガや週刊誌はヒモでくくって廃棄。主人公の身体がゴムのように伸びる漫画の単行本は死守した。刀3本持つキャラが、好きでな。

ようやく広い空間を確保できたのでモップをかけて、終了した。


 掃除後なので、とりあえず顔と手を洗って服を着替えた。ハルにはセーターを渡して上だけ着替えさせる。アンダーシャツ姿をまじまじと見てたら照れやがった。床にクッションを置き、ハルを座らせる。

「悪かったな掃除手伝わせて。ま、茶でも飲めよ」

手伝わせたのではなく、ハルが主役だったことはこの際おいとこう。

冷蔵庫からペットボトルのお茶を2本出して1本渡した。何故か苦笑いされた。

「コウちゃん お昼ご飯はどうするつもりだったの?」

「ん~、考えてなかったけど駅前のファミレスにでも行くかな。お前も来るか?」

すると安心したように言ってきた。

「良かった。ご飯作ってきたんだけど、一緒に食べない?」

「食う!」

脊髄反射で即答したさ。たぶん信号はまだ脳に届いてなかったはずだ。



 昼メシにはもう遅い時間だったが、ハルが持ってきた容器を卓袱台に並べる。

「コウちゃん お皿もあまり持ってなくない?」

誰も来ねーのに皿なんて使わねーだろ。

コンビニ弁当やデリバリーピザを一人で食うのに皿を使う映像が浮かばねえんだけど。

中皿1枚に、コーヒーカップのソーサーを皿代わりに2枚。あとはハルが持ってきた容器の蓋を使ってランチライムが始まった。



『鳥唐』

 中高生の心の友!肉系のコスパに於いて、豚・牛を引き離すダントツのトップを独走。中に味が染みてる! カリカリ感が心地いいのは2度揚げしてるからとか言ってたな。

『出汁巻き玉子』

 価格の優等生たる玉子はナマで良し・茹でて良し・焼いて尚良し。出汁とも相性よくまさにパーフェクトフードと言えなくもない気がする。

『あじフライ』

 ガキの頃はしょっちゅう食ってた気もするが、最近は意外と高級魚扱いな気がするアジ。このサクサクの衣が好い!揚げたてなら更に美味いんだろう。

『野菜炒め』

 ピーマン、ゴーヤ等コンビニ弁当にはあまり入らない野菜もいろいろ入れてるところが、ハルなりの気遣いなんだろう。

『ポテサラ』

 ジャガイモを丁寧に潰してあって、潰してないジャガイモも小さくカットしてある。ところどころに見える鮮やかな朱色はニンジンか。ヤバい、滑るように咽喉を通って腹に収まるのが怖いw

『たくあん』

 口の中のモードを切り替えてくれる魔法の一品。噛む時に出るポリポリという音も歯ごたえとともに心に響くぜ。

そして

『白ご飯』

 熱い飯をそのまま詰めたのではなく、一度覚ましてさらした上で詰めてあるから水っぽくなくメチャうまい。コメは良いぞぉ~。


 ハルが持ってきた料理は結構な量があったが、2人がかりとあってぺろりと平らげた。高校生の胃袋ナメんなww

「美味かった! さすがだなぁ、ハル」

お世辞じゃなく心からそういうと、ハルは照れた。



 実際、ハルが作るメシは美味い。

ハルは小さな時から簡単な料理をしていた。

火を使わない卓上IH調理器は、少なくとも火災の心配だけはない便利な器具なのだ。火傷にさえ気をつければ。

ハルの母親は目の前で調理器を使わせ、16センチのフライパンで作れる料理を教え込んだ。横から説明だけをし手は出さず。一度火傷をすれば次からは気をつけて調理するようになる、というスパルタで。


ただ、鍋を使うものと揚げ物だけは中学生になるまで調理させなかった。小学生の体力では取り回しが大変で、万一倒した際は大きな火傷に繋がり、加熱しすぎた油は火災の遠因になる可能性もあるゆえに。

鍋物、揚げ物は中学生になってから始めた。深さ2.5センチのフライパンでもできなくはないけれど、たっぷりのお湯や油で作るそれらとはやはり味が違うと思う。



「コウちゃん ご飯に苦労してそうな気がしたんだよね」

「あはは バレバレだな。メシだけじゃないのは、ま、見ての通りだ」

気ままな一人暮らしってのは、自分で家事を賄える能力(技術と意欲)、またはそれを賄ってくれる人を雇える資金があってこそ成り立つ。

うるさく言われずに漫画を読みたいというただの我がままとは次元が全く違う話だったってことだ。



 さ~て、動いて、腹がふくれたとなればやってくるのが眠気というものだ。3点セットメニューといってもいい。あくびをしてベッドに転がり込んだら、ハルが笑ってやがる。

無料でスマイルまでついてくるとはお得なセットだ。そんなことを考えながら微睡みの中に落ちていった。



 目が覚めたら、なんか狭い。そして半身が温かい。

横に目をやると、隣でハルが寝ていた。人のベッドに潜り込んでくるとは。家賃を請求してもいいかもしれないな。

それにしても、ガキの頃はこうやって一緒に寝てたなぁ。

まぁ、親が手間を省くために『まとめて一緒に転がしていた』のが正解だろうけどな。

そんなことを考えながらハルの寝顔を見る。


あぁ、こんなに近くでまじまじと見たことは最近なかったな。顔が小さいな。まつ毛は長くてきれいに揃ってる。頬っぺたは見た感じすべすべしてる。鼻筋は通って色も白い。

化粧させたら女の子で通るんじゃないか? めちゃくちゃ可愛くなるぞ?

唇はそれほど薄いというほどでもないがぽってりとした厚さもない。



 その唇に、......目が吸い寄せられる。 

寝息を立て、ほんの少しだけ口が開いている。その唇から、目が離せない。

開いた口の隙間の奥に見えるピンクは、舌だろうか。

見えそうで見えない。『艶めかしい』『じれったい』頭の中をそんな言葉がグルグルと回る。


ハルは、ハルは男だぞ。

そんなこと分かってる! ハルの家族以外では誰よりも。

唇から目が離せない。

その口が動いた。一度閉じ、下唇を噛み、また少し開く。ハルの口が動いたときに出た「クチュ」という音が耳に残る。


 今の動きで湿った下唇が、甘い蜜を(たた)えた花に見える。その花が(いざな)う・・・。(いざな)われる・・・。

あの花の奥、蜜壺の(ふち)にも思える唇に見えかくれするピンク。

ハルは、...男なのに。

あの蜜壺の中を知りたい......、なぜかそんなことが頭に浮かぶ。

引き寄せられる。目が、顔が、唇が...。


 気が付けば、ハルの唇にキスしていた。

「うう~ん」

瞬間、顔を引き上げ、跳ね上げた頭は、反対側の壁に打ち付けられた。

「あれ?コウちゃん? いま何か、ゴンッて」

目をこすりながらハルが聞いてくる。

あぁ、いやなんでもないさ。ははは。痛む頭を押さえながら笑った。


評価していただけるととてもうれしいです。


でも、思いついた勢いだけで2話までしか考えてなかったので、更新は遅くなります。



こんな話も書いているので、暇つぶしにどうぞ。

「ガッツリつかみます!  ~弟に胃袋をつかまれた姉の話~」

https://ncode.syosetu.com/n2292ft/

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