第81話 呆れ
そんなこんなでやっと学院に到着した。
毎度くぐっている正門を抜け、教室へと向かう。
ルイヤスは学院の生徒ではないため、俺の異空間魔法で異空間に入ってもらう。
相変わらず空間魔法は使い勝手がいい。
教室に着くと、ビゲルがひとりで教卓に座り、何か書類を書いていた。
俺らの足音に気づいたのか、顔を上げる。
「おう、お前らか。早かったな」
「僕らは何番目だったんですか?」
何番目か気になったのか、テスタはそうビゲルに訊く。
「お前らが最初だ」
武術科A組は20人。4〜6人を1組としているため、全部で4組のグループが存在する。
他の奴らもA組というだけあって優秀だが、俺らには及ばなかったようだ。
実習のタイムリミットが19時まで。現在16時だ。
さすがに早すぎたか。
“知覚者”で確認してみると、まだプレーリーウルフキングを探しているようだ。
だが、あいにくプレーリーウルフキングはそもそも絶対数が少ないのと、そのうちの一体を運良く俺らが見つけて狩ってしまったため、見つけるのはほぼ不可能だろう。
是非頑張りたまえ。
君たちが運ゲーにあらがえることを祈っている。
……名前、覚えてないけど――。
「それでちゃんとギルドで貰ってきたか?」
「ああ、これだ」
事前に貰うように言われていたものをビゲルに渡す。
討伐証明書だ。
あのバームクーヘン型の魔道具で測定したことを証明するものである。
ビゲルは俺から受け取った討伐証明書に目を通す。
「また馬鹿みたいに狩りやがって。もう驚きを通り越してあきれるぞ」
「同感ですね……」
「同感だね……」
ビゲルの言葉にジュリとレジュが同意する。
ちなみにお前らもその片棒を担いでいるのだが、それに気づいていないのだろうか。
「だが、やはり魔物の数が多いな。いくら何でもこの数はおかしい」
「そりゃ邪神のせいだろうな」
「そうだったな」
邪神が復活した今、魔物の数がとてつもなく増えている。
各地で魔物による被害が続出し、冒険者ギルドによる討伐依頼は日々増加している。
俺も毎日依頼を受けてはいるが、いかんせん数が多すぎて追いつかない始末だ。
目下の解決すべき事案であるが、もう解決手段は見いだしている。
あとは実行するだけだ。
「それじゃあ今日は実習を終えた者から授業を終わりにしていいことになっている。各自寮に帰宅するように」
「おう」「「「はい」」」
◇◇
「ねぇ、ウィン?」
「ん? どうした、レジュ」
寮のラウンジのソファーでくつろいでいると、レジュに声をかけられる。
「あのね。私を鍛えてほしいの!」
「鍛える?」
「うん。私はっきり言って足手まといだと思うんだ。今日のプレーリーウルフキングを狩る時ジュリちゃんの足を引っ張っちゃったし、ウィンの援護なしに倒せなかったし」
レジュはそう言って俯く。
なるほど。レジュはレジュなりに葛藤していたのか。
だが、レジュの実力は高い方だ。
決して弱くはない。
Aクラスにいる実力は伊達ではないはずだ。
「確かにAクラスだから他の人よりは少し実力はあるのかもれないけど、それでもウィンと並んで戦うにはまだ足りないかなって」
ナチュラルに俺の思考を読むのはやめていただきたい。
「そうだなぁ。分かった。今日この後ルイアスと修行するからそのとき一緒にやるか?」
俺がそう言うと、レジュは勢い良く顔を上げ、嬉そうな顔を見せる。
――可愛い……。
女神がいる。
俺はそのまま顔を近づけて――、
「私の目の前でキスとは随分根性ありますね」
だがジュリの言葉で現実に引き戻される。
レジュも目をつぶって俺に口を近づけていたが、ジュリの声が聞こえた瞬間にバッと離れてしまう。
「ジュリちゃん! いたの!」
「さきほどからずっとです」
俺は気づいていたぞ。
なかなか声をかけてこないからそのままキスしても何も言わないのかと思っただけだ。
「ウィン様」
「ん?」
ジュリは俺に視線を移して声をかけてくる。
「私もお願いできませんか?」
「おう。いいぞ」
「そんなすんなりですか!?」
俺が即答すると、ジュリは驚きの表情を見せる。
「だってどうせレジュと同じ理由だろ。いや、ジュリの場合はレジュのためか」
「……その通りです。お見通しということですか」
「そういうこった」
俺はそう言って立ち上がる。
「さて、早いに越したことはない。さあ、外に行くぞ」
「うん!」「はい!」
次は来週の月曜日に更新します。




