第78話 洞窟
今回も2部構成ではありません。
恐らくもう2部構成にはしません。
ウィンバルド視点
転移した場所は、薄暗い洞窟だった。
一応気休め程度に小さな照明があるが、ほとんど機能していない。
あの魔族は転移魔法を使ってあの場から逃げ出したらしい。
テスタがいなきゃ俺もそうしたのだが、あいにくテスタを守らなきゃいけなかったからな。
「キ、キサマッ! ドウヤッテコ――ッ!?」
しゃべってる魔族の首を足で蹴り飛ばし、そのまま足で壁にめり込ませることで黙らせる。
「――っ! ――っ!」
首が足で押さえられているため、声が出せないようだ。
何か言いたいようだが、何が言いたいのかさっぱり分からない。
ここでふむ、と俺は考える。
――はて、どう情報を聞き出したものか。
“知覚者”制限を一部はずしてこいつの記憶だけを探るか。
そう一瞬で結論に行き着いた俺は、早速“知覚者”の制限をはずし、魔族の記憶を探る。
――なるほど。
あの爆弾はアーティファクトか。
今から3000年以上前、当時は魔法もなく、高度な文明が発達していたらしい。
らしいというのは、“知覚者”で文献を調べて分かったことだからだ。
たった1冊の本にしか書いてないため、あまり信用はできない。
当然3000年以上前から生きてる人もいないため、人の記憶を探ることで知ることも出来ない。
とりあえず、この爆弾はその高度文明の時に作られた物みたいだ。
威力は水爆並だが、放射線は出さない代物らしい。
俺の最上級火魔法であるエクスプロージョンよりも威力は高い。
そりゃ当然、全力で最上級結界張らないと防げないわけだ。
そして問題はそれをどこから持ってきたかというと、それがこの洞窟だ。
ここはただの洞窟ではなく、過去の文明の遺跡らしい。
そこから出土したのがあの爆弾だというわけだ。
3000年たっても劣化しない爆弾も驚きだが、それ以上にそれの構造を理解し、運用できたこいつ、いやこいつらは敵ながら感心する。
さらに俺が邪神教をつぶしていることを知り、俺を殺そうとしてくるとはな。
すごいやつらだぜ。
「なぁ? お前ら。こそこそ隠れてないで出てこいよ」
そう俺は暗闇に呼びかける。
厳密には暗闇ではなく、他の魔族が隠れているのだが。
俺が呼びかけると、その暗闇からヌルッと魔族が現れる。
「ヨクワカッタナ、ニンゲン」
出てきたのは5体。
そのうちの1体が俺に話しかけてきた。
「そりゃお前らいるのばればれなんだもん」
なんかおもしろそうなのでちょっと挑発してみる。
だが、挑発が通じなかったのか、
「トリヒキシナイカ、ニンゲン。ソノマゾクヲカイホウシテクレナイカ。ソノカワリ、オレタチハオマエニテヲダサナイ。コノカズデハキサマノカチメハナイゾ」
と取引を持ちかけてきた。
ふむ、と俺は考える――フリをする。
答えはもちろん決まってる。
「なるほど。確かにこの人数では俺に勝ち目はないか」
「ソウダ。ダカラハヤク――」
「だが断るっ!」
「ナニッ!」
「このウィンバルド・スフィンドールが最も好きな事のひとつは、自分で強いと思ってるやつに、『NO』と断ってやることだっ!」
「…………」
――――。
――――――――。
「いやそこつっこめよ! ジ○ジョのネタだぞゴラァッ!」
なんかムカついたので、瞬時に地面に手をつき、上級土魔法を発動。
この洞窟を操作し、魔族を押しつぶす。
「ナッ! ヤ、ヤメ――ッ!!」
「「「ギャアアアアアアアアアアッ!」」」
魔族の悲鳴が聞こえてくるが無視する。
俺のボケに突っ込まなかった罰だ。
やがて悲鳴が収まり、すごく狭い空間に俺とはじめに俺を襲った魔族だけが残った。
魔族を殺したというのに自然と罪悪感はない。
やはり魔族は人類という認識はなく、人類共通の敵だからだろう。
それにしても都合がいい。まだ俺には人殺しはしたことがないからだ。
いや、一生したくはないのだが。
ここに来て、先ほどまで猛烈に抵抗していた魔族が抵抗しなくなった。
死んだようにぐったりしている。
死んだフリも考えられるので、一応頭の光魔法を打ち込んでおく。
よし、これでオーケーだ。
すぐさまテスタの所に帰還する。
「あ、ウィン様! 僕を置いて転移しないでくださいよ!」
「悪い悪い。急いでたんだよ」
「それでどこに行ってたんですか?」
「ちょっとムカついた魔族をぶっ飛ばしてた」
「あれ、そう言う意味で訊いた訳では……。あ、ちょっ、どこ行くのですか!」
「さっさと修行の続きをするぞ」
「待ってくださいよ〜」
こうして俺らはカリ高に入学するまでの間、修行を進めていった。
次は9月2日水曜日に更新します。
「ストーカー美少女と毒舌男子」というラブコメの連載を始めました。良かったら読んでみてください。




