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最強への道 〜異世界で神になるまで~  作者: 土沢天樹
第5章 青年期 勇者編
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第77話 中田

今回も2部構成ではありませんので、主人公不在です。

召還された勇者視点


「なあ、実戦ってまだやらせてくんねーの? 早くやらせてくれよ」


 いつも通り訓練を終えた頃、そう唐突に中田が言い始めた。


 それにはもちろん理由がある。

 基本的に勇者が城の外に出ることはなく、訓練はすべてお互いに戦うか、騎士団と宮廷魔導師と戦うかくらいしかない。


 つまり中田は飽きたのだ。

 最近はステータスの伸び悩み、せっかくの異世界だというのに魔物と戦うことができない現状に不満を抱いているのもあるだろう。


 どちらにしろ不良である中田がつまらない訓練に耐えられる訳もなく、こうやって不満を露わにし始めたのだ。

 

「そうは言われましても……陛下の許可がないとなんとも……」


「そうやっててめーらはすぐへーかへーかって言いやがって。許可なんていらねーだろ」


「そ、そう言われましても」


 中田がスルートンに詰め寄るが、そう言われましてもの一点張りだ。

 だがこれも仕方のないことだ。

 勇者の件に関してはすべて皇帝が管理している。

 つまりすべてに関して皇帝の許可が必要であると言うことだ。

 

 スルートンはおろか、騎士団長や宰相であるインターズにさえ決定権は存在しない。


「チッ、キリがねぇ。俺が皇帝に直訴してやる」


「ちょっ! お待ちください!」


 スルートンは慌てて中田を止めにかかる。

 いくら勇者とはいえ、皇帝に直訴するなど不敬の極みだ。

 最悪その場で処刑されるおそれもある。


「どうしたスルートン。そんな大声を出して」


 すると、突然その場に皇帝の声が響く。

 ちょうど訓練を見に訪れたようだ。 


「へ、陛下!」


 スルートンは皇帝の突然の訪問に驚くも、すぐさまひざまずき、臣下の礼をとる。


「よいよい楽にせよ。それで何があった?」


「じ、実は――「なぁへーか。早く実戦に出させてくれねぇか?」」


「「ッ!?」」


 しびれを切らした中田はスルートンを遮り、皇帝に直訴する。

 そのことにスルートンは顔を青くし、他の従者は驚きを隠せない。


「無礼者っ!」


 我に返った近衛騎士が警告なしにいきなり中田に斬りかかる。


 皇帝への直訴にその口調、ひざまずかないなど不敬極まりない行為ばかりだ。

 警告なしに斬られても文句は言えない。


 だがそれは異世界の人間の常識だ。

 中田はそんなことは露ほども知らない。

 教師に敬語を使ったこともなく、直訴の意味を知らない中田は斬りかかられた意味も分からなかった。


 しかしそこは勇者の1人。中田は近衛騎士の攻撃を物ともせず、普通に避けてしまう。

 そして斬りかかられたことに腹を立て、まるで正当防衛だと言うように、その近衛騎士の腕を一瞬で切り落とす。


「ぐあああああああっ!」


 突然の出来事に皆が唖然とする場に近衛騎士の声が響く。


「いきなり何しやがんだよ」

 

中田は剣をしまいながらそう呟く。


「き、貴様!」


「無礼者!」


「一体何を!」


 一瞬間が空いたが、すぐさま他の近衛騎士たちは色めきだし、一斉に剣を抜く。


「止めろ」


「「「「はっ」」」」


 だが、それも皇帝の鶴の一声で騎士たちは剣を納める。


「ナカタ殿、と言ったか」


「ああ」


 相変わらず敬語を使わない中田に周りからの視線が刺さるが、本人は全く気にしていない。


「貴殿の要望は許可できない」


「……なんでだよ」


「貴殿等はまだ騎士団と宮廷魔導師に勝ててないのであろう?」


「……」


「その状況で外で魔物と戦わせることは出来ない。まだ早すぎる」


 皇帝の正論に中田は黙らざるを得ない。


 未だ騎士団と宮廷魔導師に中田たちは勝てていない。

 クラストップの実力の5人なのにだ。

 他のクラスメイトはこの5人よりも実力は低い。

 外で魔物と戦えば死ぬ可能性も高い。

 

 もちろんいずれ外で戦わなければ実力は上がらない。

 だが皇帝はそれはまだ時期尚早だと考えていた。


「……だが一つだけ方法がある」


「んだよ。方法って」


「この帝国の隣にドートミール王国という国がある。そこは帝国を上回る教育力を持っていてな。そこにある学校に入学するのだ」


「はぁ? なんで今更がっこーなんて行かなきゃなんねぇんだよ」


「その学校には実習として魔物と戦うというのがあってな。それで我慢してはくれないか?」


「だったらてめーらが俺らにそれをやってくれればいいだろうが」


「我ら帝国は教育制度が整っていないのだ。帝国は弱者がどうなろうが知ったことではない、というのが本来のスタイルなのだ」


「じゃあ今回も別にクラスのよえー奴が死んだっていいだろうがよ」


 その言葉に会話を聞いていたクラスメイトがざわつきだす。

 中田に自分以外を思いやるという概念はなく、そのことを悟ったクラスメイトが、もしかしたら自分が魔物に殺されて死ぬかもしれないと思ったからだ。


「そうはいかない」


「んでだよ」


「勇者の召還は他国との協定のもと行われた。もちろんその身柄についてもだ。勇者たちは邪神と戦うまではなるべく欠けてはならない。それが決まりなのだ」


「……」


 皇帝の言う通り、勇者召還は周りの国との協定に基づいて行われている。

 もしそれを帝国が守らなかった場合、周りの国が一斉に侵略してくるおそれもある。

 さすがの帝国でもそれを防ぐのは容易ではない。


 結局は中田の言う通りにしたくても出来ない理由があるということだ。


「だから朕は貴殿の要望に応えることが出来ない。代わりと言ってはなんだが、ドートミール王国に学校に入学するのを提案しよう」


「……なぁ」


「なんだ?」


「要は実力があればいいんだな」


「それがまだ足りぬと朕は言っているのだ」


「いや足りてるねぇ!」


「いや足りてない」


「ッ!?」


 そう皇帝がぴしゃりと告げる。

 それと同時に中田は、自分の首に剣がそえられていることに気づく。


(い、いつの間に! 全然見えなかった……)


 その剣の主は中田が一回だけ見たことがある人物だった。


 その名も帝国左将軍ワーグナース・ユリバスだ。

 あのドートミール王国鬼将軍ウォレット・バーキンの宿敵であり、戦場で何回も矛を交えている。


 その顔には大きな傷跡があり、歴戦の猛者の雰囲気を纏っている。

 左将軍の圧力にあてられたのか、中田は当初の勢いを完全に失い、情けなく萎縮する。


「これで分かったであろう。それでどうする。学校に入学するか?」


「……わーたよ。入ればいいんだろ」


「他の者も異論はないな」


 皇帝は他のクラスメイトを見渡すと、満足そうに頷くと、


「よし、それでは入学することを決定しよう」


 そう言ってこの場を去ろうとする。

 だが、何か思い出したのか後ろを振り向き、


「そうだ。入学する学校の名前を教えておこう。――その学校はドートミール王国立カリア学院高等学校。通称カリ高だ」

次は今週の金曜日に更新します。

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