第76話 魔王と魔族
魔王の設定を1部変えました。
短めです。
ウィンバルド視点
「それでウィン様、魔王とはどうなったのですか?」
飯を食べている最中、そうテスタが切り出してきた。
「やっぱ魔王は魔王らしく粗暴だったな」
「一国の王をしてそれはどうなんですかね」
「さぁな」
実際それは俺も思う。
しかし、あれは粗暴というよりただの人間嫌いであると感じる。
それは初代魔王の影響が大きい。
初代魔王は魔人を率いて魔王国を建設したのだが、その魔王は極度の人間嫌いであったらしい。
もちろん俺は人間なので、嫌われたのだろう。
迷惑きわまりない話だ。
それをテスタに話す。
「へぇ、人間が嫌いなんですね。仮にも魔王が私怨ですか」
「まあまあ、そう言ってやるなよ」
「そういえば魔王ってどういう見た目をしているんですか?」
テスタの質問に対し、魔王の見た目を説明するより直接見た方が早いと思った俺は、“支配者”を応用して、テスタの脳内に魔王の姿を映す。
「魔王……というより魔族に見た目が近いですね」
おそらくそれは魔王の角のせいだろう。
魔族も魔王のものに似た角が生えているからだ。
違いは3つある。
1つ目は、魔王のものは二本角だが、魔族のものは一本角だというところだろう。
2つ目は魔王の角は左右のバランスがいいが、魔族の角は羊のようなものであるくせに1本しかないからすごくバランスが悪いのだ。
3つ目だが、それは機能の違いだ。魔族のものは魔法の威力を高めたり、邪神と連絡がとれたりする。高位の魔族は常に邪神と繋がっていて、思考などを共有できるらしい。
魔王のものは――ただの飾りだ。特に機能はない。
ただの遺伝、らしい。
“知覚者”で文献を調べても分からないし、現在の魔王も知らないみたいだ。
これをテスタに言うと、盛大にずっこけられた。
「いやそこはなにか機能があるものでしょう」
とのことらしい。
そんなこと言われてもだ。そんなベタな設定がそうあるわけではない。
ないものはない。
だがテスタ的には不満らしい。
「ベタな機能は必要ですよ。たとえばほら、なにか変身につかうだとかあるじゃないですか」
「お前は小説の読みすぎだ」
もちろんこの世界にも小説はある。
大抵テンプレを踏襲した英雄譚が好まれる傾向がある。
その人気の小説の1つでは、変身する主人公が登場するのだ。
だからテスタもそれを期待しているのだろう。
「そんなことはないですよ。別に変な機能を持った魔族は好きじゃありませんし。ただちょっとは――」
しゃべり途中のテスタを手で黙らせる。
噂をすれば、ってやつだろう。
ちょうどこちらへ高速で飛んでくるものを見つけた。
背中のコウモリのような羽、羊のような一本角、醜い顔。
まあ、ただの魔族だ。
なぜここに? という疑問はとりあえず
置いておく。
ここに来るまで待ってやるつもりはない。
『ピュンッ』
光魔法が魔族の羽に命中。墜落していった。
「行くぞテスタ」
俺はそれだけ言うと、魔族が落ちたところまで走って向かう。
俺がそこに到着すると、羽に穴が開き、痛みに顔をしかめる魔族がいた。
「キ、キサマ。イキナリナニヲスル!」
「いやなんか飛んでんなぁっと思って」
「フザケルナ!」
「別にふざけてはないけど」
「チッ!」
魔族はそう舌打ちをすると、突然空虚に手を伸ばす。
何をするつもりだ? と思うまもなく亜空間魔法を使いだし、何かを取り出し始めた。
「ウィン様速いですよぉ〜」
その時、ちょうどテスタが追いついてくる。
タイミングを同じくして魔族が取り出したものをこちらに投げつけてきた。
それがなにかが分かった俺は、瞬時にテスタのそばに移動。
一瞬で最上級結界を張る。
――瞬間、ヒュドラのあのブレスを思い出すほどの威力の爆発が俺らを襲った。
『ドガアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンンン』
久しぶりに結界を全力で維持する羽目になった。
その爆発の原因は魔法ではない。
魔法なら俺が防げない道理はない。
今回は物理の爆弾だった。
それもかなり強力なやつだ。
前世の核爆弾、いやそれ以上のものだろう。
どうやって作ったかも気になったが、それ以上に、魔族が爆発に紛れて逃げていった。
この野郎。俺を出し抜きやがって。
そう思った俺は追いつくべく“知覚者”の一部制限を解除。
魔族の居場所を探知し、テスタを置いて転移をした。
「あ、待って下さいよー!」
次は来週に更新します。




