第72話 尾行
ゲラゲラコンテスト2用の漫才小説があるので良かったら読んでみてください。
作者名を押せば飛べます。
スマホのアラームの音で目を覚ます。
元の世界で持ち込めたのは、ポケットに入れていたスマホと財布くらいだった。
財布の中の金はこの世界では使えないから意味はない。
スマホの充電も後半分といったところか。
使い切れば充電する方法はない。
だから節約として、こうやってアラームくらいしか使っていない。
まぁ電波がないから結局使える機能は限られてはいるけど。
久しぶりの早起きでボーっとする頭でベッドを降りる。
一階に降りると、まだ日も昇っていないにもかかわらず、結構の人数の人がいた。
軽めの朝食を頼み、一人で席について食べ始める。
五分くらい経つと、昨日の冒険者と思わしき男四人組が降りてきた。
彼らも朝食を頼み、僕の席からは遠い席に座る。
席が遠いからか、全く会話は聞こえない。
そのまま見ていると、彼らは席を立ち、宿を出て行く。
僕はそれを見て、急いで彼らの後をついて行く。
そうして僕は、彼らと付かず離れずの距離を保ちながら尾行を始めた。
まだ朝だが、外に出ている人は多い。
異世界人は朝型人間が多いのかもしれない。
そんなことを考えながら尾行を続けていくと、彼らは不意に細い路地に入っていった。
見失わないように、僕も急いで同じ路地へと入る。
「誰だ、てめぇ」
するとそこには尾行していたはずの彼らのうちの1人が僕に剣を突きつけていた。
ここに来て僕は後悔する。
そうだ。僕は尾行の経験なんてない。
ましてやこの人たちは冒険者だ。
僕みたいな尾行に気付くのは朝飯前だろう。
僕は必死で弁解しようと試みるが、初めて受けた殺気のせいで口をぱくぱくするだけで声がでない。
「こいつよく見りゃまだガキじゃん」
「お前殺気出し過ぎ。びびっちゃってんじゃん」
「あーあ、可哀想ぉー」
「う、うっせーな! そんなビビるなんて思わなかったし」
僕に剣を突きつけていた人がそう言うと、ふっと殺気が消え、声を出しやすくなった。
「ち、違うんです! 別にあなたたちに何かしようという訳じゃなくて! あの、その」
ゆっくり声を出そうとしたが、つい早口になってしまった。
「まぁまぁ落ち着けや。ほらゆっくりでいいから」
「お前がビビらすからだろーが」
「うるせえ。でなんだって?」
意外と優しい人たちだ。
そう思った僕はゆっくりと話し始める。
「あの、僕はここに来たことがなくて冒険者ギルドの場所が分からなくて、ついあなたたちを尾行してしまいました。申し訳ありません!」
僕はそう言って頭を下げる。
こういう時は素直に謝るに限る。
「冒険者ギルドぉ?」
ま、まさか名前が違った?
それともそんなものはないとか?
「がははははははっ!」
「ははははははっ! それで俺らを尾行したのかよ」
「ははは、お前笑ってやるなよ」
「いやだってよう。くくく、ははははははっ!」
笑われた。
僕が呆然としていると、
「いやぁすまんすまん。あのな小僧。冒険者ギルドの場所はめっちゃ分かりやすいんだぜ?」
と言われた。
分かりやすい場所?
と僕は首を傾げる。
「仕方ない。案内してやるか」
「相変わらずお前はお人好しだな」
「そう言うお前もじゃねぇか」
「お、そうか?」
「ていうことだ。ついてこいよ、小僧」
思わず泣きそうになった。
異世界に来て五日ほど。こんなに優しくされたのは初めてだからだ。
「はい!」
これならだまされててもいいやと思えるほどに嬉しかった。
「そういえばお前その格好、どの国から来たんだ?」
冒険者ギルドに向かう道中、僕はこう質問された。
やばい、どう答えたらいいだろう。
僕の格好は制服のままだ。
もちろん浮いた服装だ。
異世界から来たとも言うのもあれだし。
「お前それは無粋ってやつだろ。あんまり訊いてやるなよ」
僕が黙ってるのを見て、四人の内の一人が質問を咎める。
「わったよ。じゃあよぉ、何しにギルドに行くんだ? 依頼か?」
冒険者ギルドに行く理由か。
それは僕の中では一つだ。
「あの、冒険者になろうと思いまして」
「「「「え?」」」」
「え?」
僕の返事がおかしかったのか、四人とも足を止める。
あれ? 変なこと言ったか?
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ウィンバルド視点
躾とはもちろん“支配者”を使った更生法だ。
こいつらは一筋縄では更生しない。
だから“支配者”を使うのだ。
勘違いしてほしくないのだが、俺は別に正義の味方ではない。
本来は邪神教のやつらが何をしようがいいのだが、邪神は俺の仇だ。
その邪神をぶっ飛ばすためには、早く復活してもらっては困るのだ。
よって邪神の復活を早めようと活動している邪神教は邪魔なのだ。
そして始めた躾。
方法は単純、“支配者”には忠誠心を植え付けるこ
ともできるから、スキルをただ使うだけで良い。
結果は成功。
俺に従順にはなったが、ちょっとやりすぎというか。
「ウィンさま! 踏んでください! 是非わたくしの顔をふんでください!!」
変態が生まれてしまった。
「「ウィン様、なんですかそれ」」
テンペストタイガーとの激戦を終え、ぼろぼろのテスタが変態を指をさしながら言う。
それ呼ばわりは可哀想だな。
「テスタ殿、初めましてだ。わたくしグレートン・アジャレアスと申す。気軽にグレーと呼んでくれ」
「「あ、どうも……」」
そう、こいつは俺が壊滅させた邪神教の帝国支部の司祭だ。
出世欲にまみれた男は今、変態になっていた。
「ああ、ウィンさまぁ〜」
この男、グレーは邪神への信仰心は異常なほど高い。
その信仰心は俺へと向けられた訳だ。
あまりの信仰心の大きさからか、変態性に向いてしまったのだろう。
難しいな。
俺はくねくねと気持ち悪い動きをするスルーを見てつくずくそう思った。
放っておいても気持ち悪いから、他に捕まえてしつけた邪神教徒たちを収納している異空間に入れる。
「「それであと残りの邪神教徒はどうするんですか?」
「おう、もう帝国、王国、その他小国の潜む奴らは一網打尽にしたからな。あと残りは魔王国だけだ」
「「魔王国ですか……。勝手にやって大丈夫ですかね?」」
「さぁな。ま、やるしかないだろ」
魔王国には当然魔王がいる。
他の国の国王と違い、強さは相当だ。
一筋縄でいくかどうかね。




