第69話 追放
少し短いです。
「あれ? あなたは」
その部屋は体育館ほどの広さがあり、クラスメイト全員とさっきの鑑定した宮廷魔導師筆頭の人とごつい鎧を着込んだ大男がいた。
宰相と皇帝はいないようだ。
「あなたはなぜここに?」
部屋に入ってきた僕を見て、そう宮廷魔導師筆頭のスルーさんが訊いてくる。
「だって僕だけ追放だって言われたので。あの何かの間違いですよね?」
そう訊くと、スルーさんはばつの悪そうな顔をし、僕から目をそらす。
「ねえ、あいつ誰だっけ?」
「しらね。あんな奴いたか?」
「あ、思い出した。いつも一人でいるきたほうじだよ」
「ああー、きたほうじくんね」
僕を見てクラスメイトがざわつく。
聞こえてるからなお前ら。
そして僕の名前はきたほうじじゃない。
北大路 亮人だ。
ほんと失礼な輩だな。
「すみませんが事実です。君のステータスは低かった。だから事前の取り決めに従って追放という形になってしまいました。申し訳ありません」
「そ、そんな……」
やっぱり間違いじゃなかったのか。
「それはどういうことですか。彼のステータスが低くても成長するかもしれないでしょう!」
僕が落胆する中、そう声を上げてくれたのは、学級委員の霜ヶ原だった。
あいつ優しい奴だったんだな。
やばい涙が。
「実は先代勇者方のなかに、彼の持っていたスキルを持っていた方がいたらしく、それがその、最初の訓練で他の人に迷惑を掛けたあげく、一番最初に亡くなったので……」
どういうことだよそれ。
僕のスキルだと。なんだよそれ。
「で、でも」
それでも霜ヶ原は僕のために声を上げようとしてくれている。
「あんさあ、別によくないあいつがいなくても。逆に足引っ張られるでしょ。あたしはやだ」
「俺もだなあ。きたほうじだかなんだかしらねぇけど、俺らの足引っ張るならどっかいけよ」
会議室でも発言していた男女二人が声を上げる。
お前ら何勝手なこと言ってんだよ。
僕はまだ足を引っ張ってないぞ。
そう思い霜ヶ原を見やるが、悲しそうな顔をされ、目をそらされてしまう。
他のクラスメイトも反応は同じだった。
これだから民主主義は嫌いなんだ。
「おい、なんだよそれ。僕が悪いって言うのかよ。僕はまだ何もしてないぞ!」
僕はみんなに向けてそう叫ぶ。
だがこんなことを言っても意味なんてない。
結局は多数派の意見に押されていくだけ。
モブの意見なんて誰も聞き入れない。
民主主義なんて所詮そんなもん。
正しいのは大衆であり、正義ではない。
いくら少数派に正しさがあろうとも、多数派ではないというだけで、正論ではなくなってしまう。
案の定、僕の言葉を聞いても、誰も僕を擁護してくれない。
――間違っていたのは、僕なのか。
「あ、こんなところにいたんですか。ほら城外まで案内するのでついてきてください」
そうこうしているうちに、さっき僕を部屋まで案内し、僕が部屋においてきた慇懃無礼の侍従の人が追いついてきた。
僕は喪失感の中、侍従の人に手を引かれ、気付いたら城外にいた。
「それではこれにて失礼します。さようなら」
そう言って城の中へ帰っていった。
僕は1人、城門の前に取り残される。
門番の人には、なんだこいつみたいな目でみられる。
僕はその目に耐えきれず、走って城下街へと向かった。
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ウィンバルド視点
「よし、五分経ったな」
「「はい!」」
「じゃあ次の訓練はな……」
「「なんか怖い顔してますね……」」
失敬な。
誰が怖い顔じゃ。
そして俺は無言で魔力を高める。
「魔物の討伐だ」
瞬間、俺とテスタの間の地面が光り、大きな魔物が姿を現す。
召還魔法で呼び出した魔物、テンペストタイガーである。
「「こ、これ災害級の魔物じゃないですか!?」」
「そうだ。今からこれをお前に倒してもらう」
さっきの輩と違い、俺は従属魔法がうまく魔物にかかっているので、今はおとなしい。
「「いや無理ですって!」」
「安心しろ。お前を殺さない程度に戦うように命令してあるから」
「「でも……」」
「でもじゃない。さあ頑張りたまえ」
「「ちょっ! まっ!」」
待ちません。
そして俺はテンペストタイガーにテスタと戦うように命令する。
そう命令すると、テンペストタイガーは一気にテスタへと飛び出す。
テスタも仕方なく応戦している。
よしよし、うまくやってるな。
テンペストタイガーは時より魔法を使いながら、派手な攻撃を繰り出している。
対してテスタはその攻撃をうまくいなしながら、攻撃を加えている。
だがそれもじり貧。
決定打に欠けるといったところか。
テンペストタイガーは巨体に見合わず素早く、防御も堅い。
さあ、どうするテスタくん。
ま、死なないように頑張れや。
さて、この隙に俺は奴らを片づけるか。
テスタが終わる前に帰ろう。
魔物と死闘を繰り広げるテスタを尻目に、俺は目的地へと転移する。




