第66話 勇者召喚
今回から1話が2つに分かれています。
読みにくかったら言ってください。
「おはよう!」
「おう、そういえば昨日さあ……」
「ねえ、ちょっと聞いてよ! 今日来る途中なんだけど……」
「今日一時間目なんだっけ?」
「うおおお! きたこれええ!!」
「ぎゃはははは!」
リア充たちは今日も朝からうるさい。
所詮陰キャと呼ばれるぼっちである僕にとっては、うざいことこの上ない存在だ。
いやモブと言った方がいいか。
だがただの逆恨みであることには変わりない。
彼らは悪くない。
だから僕から何かしようとも思わない。
僕が友達がいなくて陰キャなのは彼らのせいではないからだ。
嫌いではあるが。
そんなつまらないことを考えながら今日も日常を過ごす。
いっそ、異世界に召還でもされないかなあ。
なんてな。
「うおっ! なんだこれ!?」
「ちょっ、これなに!? 絵?」
「ゆ、揺れてね!?」
「「「キャアアアアアア!!」」」
「みんな! すぐに机の下にかく……」
教室に入ってきたばかりの先生の言葉は最後まで続かなかった。
僕の意識が落ちかけたからだ。
まるで空を飛んでいるような、水の中にいるような感覚だ。
なんだか頭がふわふわする。
<オールウェイズスキル“加護”を得ました>
<ユージュアリー“言語理解”を得ました>
<ネバースキル“無能者”を得ました>
頭の中に無機質な声が聞こえる。
一体何のことだ?
考える暇もなく、気付いたらそこは教室ではなかった。
「え? ここどこ?」
「が、学校にいたよな?」
「せ、成功です。陛下!」
「うむ。よくやった」
そこは西洋の城の中であると僕は瞬時に見抜いた。
床には教室と同じ文様の魔法陣があり、周りにはローブを着た二十人前後の人達が、疲れ切った表情で床に座り込んでいた。
そして困惑する僕らを放置し、陛下と呼ばれる人物に真っ先に声をかけたヒョロ男は、いかにも大臣か宰相でもやってそうな見た目をしていた。
だがこの中で一番の存在感を放つのは、陛下と呼ばれたいかにも皇帝ですと言わんばかりの雰囲気を醸し出す大男だった。
ここまでくれば僕ならすぐ分かった。
これはラノベなどで有名なあの異世界召還なのだと。
「勇者諸君! よく来てくれた。まずはようこそと言っておこう。ここはヴェフリン帝国である。そして朕はこのヴェフリン帝国第78代皇帝である。勇者諸君にはある頼みごとを請け負ってもらいたい。それは邪神の討伐である。頼めるか?」
頼めるかと言っておきながら、その目には強制させる気満々に見えるんだがな。
「すみません、これは何かの撮影とかですか? 帰してもらえるんですよね?」
そう言ったのはこのクラスの学級委員の霜ヶ原 星夜だ。
陽キャグループの筆頭男子だ。
もちろんイケメンである。
「勘違いしているようだが、貴殿らは異なる世界からこの世界へと呼ばれたのだ。撮影ではない。そして残念だが、貴殿等を元の世界へと戻すことは不可能だ」
と、皇帝と名乗る人物は告げた。
「な! 何ですかそれ!?」
「そうよ! 早く帰してよ!」
「「「そうだ、そうだ!」」」
当然非難の声が上がる。
だが今奴らを非難するのは間違っている。
こいつらは自分の置かれた状況を理解していない。
ほら、鎧を着た騎士風の人たちがこっちを睨んでる。
すぐにでも腰にある剣を抜きそうだ。
対してこちらは丸腰が四十人弱。
勝てるわけがない。
「陛下?」
「貴殿等の不満は承知のつもりだ。その上で頼む。この通りだ」
そう言って皇帝は頭をさげた。
「陛下!? 頭を下げるなど!」
隣の大臣らしき人が声を上げるが、皇帝は手で制する。
『……』
その態度には皆黙るしかなかった。
仮にも皇帝と名乗る人物が頭を下げているのだから。
「分かりました。協力しましょう」
「まことか!」
そう声をあげたのはクラスの人気者、青葉 誠太郎だ。
イケメン2号だ。
「せ、誠太。でも……」
「僕はこの人たちに協力しても良いと思う。どうせ帰れないなら、せめて人助けをしよう。皆はどうかな?」
ほかの人に許可を求める割には、断定した返事をしたのはなぜなんだろうな。
「せ、誠太が言うならなあ?」
「う、うん。青葉君がそう言うなら」
「誠太君が言ってることなら正しいわね」
ほら、お前が言うから皆空気を読んでるじゃないか。
さっきまでの態度は一体どこ行った。
「貴殿らの協力、感謝する。それでは今日はもう休んでもらおう。詳しい説明は明日しよう。個室を用意してある。ほれ、案内せい」
「「はっ!」」
二人の騎士らしき人によって、男女別に部屋に案内される。
部屋の広さはそこそこといったところか。
個室であることはありがたい。
まだ僕の胸はドキドキしている。
夢にまで見た異世界だ。
ドキドキしないはずがない。
僕はチートを持ってるのだろうか。
チートで無双して、ハーレム作って、幸せに暮らす。
こうして僕は想像をながら明日を待っていた。
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ウィンバルド視点
ここでは俺がテスタに修行をつけ始めてから、学院に入学するまでの空白期間についての説明をしようと思う。
「「ウィン様、そういえばなぜこの場所で修行をしているんですか? ほかの場所じゃダメなんですか?」」
テスタを弟子にして、このレタル草原で修行を始めてしばらくたったころ、そうテスタが切り出してきた。
声が二重なのは、まだテスタは自分のドッペルゲンガーと戦う修行をしているからだ。
俺は適当にこの場所を選んだ訳ではない。
「実はな、この場所を選んだのはちょっとした理由があるんだ」
「「理由ですか?」」
「そうだ。お、来たか。お客さんだ。ほら隠れるぞ」
レタル草原は約20万ヘクタール、東京都くらいの面積というけた違いの広さを誇る。
だが、どこも腰の高さまである草のせいで、遠くから人が来ても、しゃがんでいればこちらに気付くことはない。
ちなみに俺らがいる半径30メートルは修行のせいで草が全くなくなっている状況だ。
だから素早く草のあるところに移動し、身を低くする。
俺らが見る先には、三十人ほどのローブを着た連中がぞろぞろと歩いてきていた。
「「彼らは何するつもりなんですか?」」
テスタがこそこそ声で話しかけてくる。
奴らに聞かれても面倒なので、念話に切り替える。
『まあ見てろって』
さて、何をするか見物だな。




