第57話 剣舞祭本戦(6)
俺は数十年前に騎士になった。
俺の家系は代々騎士を排出していたから俺が騎士になるのは当然のことだった。
別にそれに関して不平も不満もない。
俺と兄は小さいときから暴れ回っていたから、この有り余った力を職業に発揮できるのもよかった。
兄は大人になるにつれて兄としての自覚からか俺と馬鹿をやる回数は減り、兄にたしなめられるうちに俺も大人しくなった。
そして兄は騎士団に入り、俺は軍隊に入った。
無我夢中で訓練し、戦争でがむしゃらに人を殺し、一軍の指揮を任されて勝利を重ねていくうちに、いつの間にか鬼将軍なんて呼ばれ始めた。
だが兄はその上を行っていて、騎士団長になっていた。
特にひがんではいない。逆に尊敬している。
そして我が忠義をささげる国王陛下も敬愛している。
その国王陛下に無礼をはたらいた不逞の輩がいたと兄から聞いた。
曰く王太子殿下になれなれしくしたあげく、陛下との謁見では不敬にも陛下に対してひざまずかず、無礼な口調をやめなかったとか。そ
してなぜか陛下はその無礼者に異例のSランク冒険者の地位を与えられたそうだ。
いくら殿下を災害級の魔物から守ったとはいえ、どこの馬の骨とも知らぬ輩に対して恩賞など必要ないと思うのだが。
その無礼者の名はウィンバルド・スフィンドール。
彼奴だけは許さない。いつかその首をかっ斬ってくれる。
この俺の願いが届いたのか、開催された剣舞祭ではウィンバルド・スフィンドールと同じブロックで戦うことができた。
始まってすぐ、恐ろしいほどの威圧感が俺に直撃した。
何という圧力!
息すらつけぬ。
これは以前戦った帝国の左将軍以上ではないだろうか。
立っていられたのは俺の他三人のみ。
女、貴族風のガキ、そしてウィンバルド・スフィンドールだ。
まさかこの威圧をあのウィンバルド・スフィンドールが放ったというのか?
災害級の魔物を倒した実力は伊達ではないようだ。
聞いた話だと兄が苦戦した魔物を奴が瞬殺したそうだ。だとすると帝国左将軍なんて比じゃないぞ。
俺に勝てるか? いや、他二人と共闘すればもしくは。
だがそれをしようとした瞬間、女が俺に攻撃を仕掛けてきた。
この女、そこそこ強い。
俺は急いで迎撃する。
この女、なんで俺を攻撃するんだ?どう考えてもあのウィンバルド・スフィンドールを全員で攻撃すべきだろう!
くそが! この女まさかあいつを弱いと勘違いしてるな。
仕方ない今はこの女に集中するか。
この女の得物は細剣だ。
レイピアとも呼ばれるそれは、一見細く軽そうに見えるが以外と重量があり、刺突力に優れている。
戦場では使われる物ではないが、冒険者には使う者が少なくないと聞く。
その見た目以上の重さと速度のせいか、俺の使っているハルバードで捌くのは難しい。
チッ、戦場ではほぼ無敵の武器なんだがな。
対速度型には相性が悪いか。
しかしただ相性が悪いだけだ。
こちらの懐に入られなければ良いだけの話。こちらの間合いは広い。現に先ほどからこの女は俺を攻め倦ねている。
そうやって戦い続けていると、なんだか周りが静かになったり、うるさくなったりしてることに気がついた。
おおよそあのウィンバルド・スフィンドールのせいだろう。
貴族風のガキの相手をしていたはずなんだがもう終わったのか?
そう思い、ちらっとみると、なにやら二人で会話している風だった。
何をしているんだ?
あいつならばあの貴族のガキくらい瞬殺できそうなもんだが。
そうやって考え事をしていると、女はそれを隙と見たのか、一気にこちらへ踏み込んできた。
しまった! 油断した。
――ならば!
“縮地”を使い一瞬で離脱する。
そして詠唱。
「氷を生みだし、動きを止めよ。メガフリーズ!」
「なっ!」
中級氷魔法を使い、女の足を凍らせる。
女は動揺するが関係ない。
「うおおおおおお!」
ザシュッ
動けない隙をつき、一瞬で首を刈り取る。
よし、終わった。
あとは……。
「お、ちょうどそっちも終わったか」
今し方考えていた奴の声が響く。
ウィンバルド・スフィンドールも終わったようだ。
「苦戦したが問題ない。やっと貴様と戦えるな」
「いやあ、光栄だな」
「勘違いするな。これは一方的な蹂躙、貴様をいたぶるだけだ」
「え、いやなんだけど」
「くっ、舐め腐りやがって、貴様!」
「いや知らねーし。なんなのかねこの一方的な敵意は」
「貴様が一番知っているだろう! 国王陛下への無礼の数々! 忘れたとは言わせんぞ!」
「ああ〜、それか」
「その事を騎士団長である兄から聞いてからずっと貴様の事を考えていた。四六時中だ!」
「すまん、俺ノンケだから。おまえの気持ちには応えられない」
「恋愛話ではない! ふざけるのも大概にしろ!」
「でも豆はふやかさないと食えないよ」
「ふやかすなではなくふざけなと言ったのだ! それに豆の話はしていない!」
「おや、違いましたか」
「貴様アアッ! 殺す!」
「おやおや、短気だこと。ま、俺も人のこといえないが」
俺はウィンバルド・スフィンドールに突っ込んでいった。
ああは言ったが、あの災害級の魔物を倒したなら、俺は全くかなわないだろう。
だが一太刀でもいいから入れてやる!
そう思ったのだがハルバードを振りかぶったとたん、視界が暗転し、気がつけば目の前に蘇生師の顔があった。
「おおっと! いきなり起きあがらないでください! まだ完治していないんですから!」
俺は違和感の元である胸元を探る。
そこにはまだ治りきっていない傷があった。
――心臓を一瞬でか……。
正直何をされたかも分からなかった。この傷の感じからして光魔法っぽいが。
だが魔法を無詠唱かつ見ることもできない速度でうつなど可能なのだろうか。
「畜生!!」
俺は悔しさのあまり自分の寝ているベットを叩く。
次こそ殺してやるぞ。
首を洗って待っていろ、ウィンバルド・スフィンドール!




