第51話 暗雲
「えっと……。あの……、断らせて頂きます」
そう言ってレジュは申し訳なさそうな顔をする。
だが、アホ貴族はそんな顔に気づくことなく、
「ふん、嬉しさを隠しきれないか。仕方ないな」
と変な納得をし始めた。
「いえ、違います!」
「まぁこの俺様に惚れるのは当然だ。さぁ、今すぐ出掛けるぞ」
「話を聞いてください!」
レジュの言葉はことごとくアホに無視される。
何故人の話を聞かないんだろうな。
「急げ。深夜になってしまうぞ」
「ちょっ!はな「離せよコラ」」
レジュの手をいきなりつかみ、強制的に連れて行こうをした瞬間に俺は一瞬で出ていった。
「なっ!?」
「ウィン!」
「何人の彼女に勝手に触ってやがる」
「なんだ貴様は!」
「こいつの彼氏だよ」
「関係のない平民は引っ込んでろ!」
「だから関係あるつーの。話し聞けよ」
「どっかいけ! 薄汚い平民が」
「うん、全く会話が咬み合ねーな」
会話が咬み合なすぎて、カオスになってんな。
「あの!」
「なんだ、レジュレンテ。こいつなんかほっといて早くいこう」
「ウィンは私の彼氏です! あなたとはお付き合いできません。ごめんなさい」
そう言ってレジュは頭を下げた。
てめぇ何レジュに頭下げさせてんだコラァ。
さりげなくレジュのこと名前で呼んでやがるし。
やはりこいつは挽き肉にしてやろう。
……名前忘れたけど。
「なっ! この俺様の恋人になるチャンスを逃すのか!? それとウィンだと? まさか貴様が噂のウィンバルド・スフィンドールか!」
「だったらなんだ」
「貴様がか。Sランクを自称して調子に乗りやがって」
「いや自称じゃねーし」
「その上レジュレンテの恋人まで自称しやがって!いい加減にしろ!」
「だから自称じゃねーつってんだろ」
「貴様とは一回決着をつけないとならないようだな」
「いやなぜそうなる? 訳分からんわ。」
こいつは人の話を聞くっていう概念がないのかね。
「明日は剣舞祭の本戦だ。貴様とは同じBブロック。そこで貴様を叩きのめしてやる。」
ん? 剣舞祭?
――あー思い出した。こいつそう言えば準決勝でテスタに一撃でやられてたな。
うわぁ、そのテスタに勝った俺に勝てると思っちゃてる系男子ですか。
頭の悪さが末期だな。
四位以内は本戦に出れるってのも考えもんだな。
「そっくりそのままお前に言葉を返してやるよ。てめーを叩きのめしてやる」
せっかくだから喧嘩を売っておこう。
ちなみにこうは言っているが、俺は殺気はいっさい出してない。だからただチンピラがなんか言ってやがるみたいになっている。
なぜならこいつにはあとでたっぷり地獄を味わってもらうからだ。ここで俺にビビってもし逃げられでもしたら困る。
まあ、逃げられたら追いかけるが、逃げないに越したことはない。
「フン、平民ごときが貴族である俺様に敵うはずがないがな。貴様に勝ってレジュレンテをもらうからな。そして貴様のふざけた口に敬語をたたき込んでから、俺様直々に貴様を処刑してやる。せいぜい首を洗って待ってるんだな」
言いたいことだけ言い、俺には見下した目線を、レジュにはねっとりとした視線を向け、馬鹿は去っていった。
「私の意見は完全無視なのね……」
「まぁあいつ話し通じないからな」
「んー、いやな人に目を付けられちゃったよ」
「なんでレジュ目をつけられたんだ? 教師以外はできるだけ存在を気づかれないようにしてるんじゃなかったか?」
「多分剣舞祭のせいだと思う。2回戦目であたったから」
「ああー、レジュがボコボコにやられてたな」
「そんなにボコボコにされてないもん!」
ご立腹な可愛すぎる天使が、俺の胸をポコポコと叩く。
「ハハハ、そんな怒るなって。冗談だよ」
「フン、許さないもっ――んんっ!」
レジュの形のいい唇を強引に奪う。
こんな可愛い顔を見せられて、キスしたい衝動に駆られるのは仕方ないと思う。
「んん……ぷはーっ。……いきなりしないでよ……」
レジュがもじもじしながら言う。
「いやか?」
「……べ、別にいやじゃないけど……」
レジュは顔を真っ赤にしながら言う。
――ムラッ。
やばい、やりたい。
だが今日は平日。街に繰り出すには時間は遅く、寮は異性の部屋に行くのは禁止。
普通のラノベ主人公だったらここであきらめるだろう。
だが俺は普通じゃない。
チートをなめるなよ。
転移魔法を使えるし、結界を張れば音漏れなどの心配もない。
それに俺たちは実は何回も寮でやっている。
バレた試しはない。
「レジュ、やるぞ。行こう。」
「うう、お手柔らかにお願いします。」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「チッ、あやつ平民のくせに調子に乗りやがって!」
「……その平民を気持ち良く殺したくはありませんか?」
ウィンとのやりとりを終えたフールドゥムが、寮へと戻る道中に、突然目の前にフードをかぶった人物が現れた。
顔はよく見えない。
「っ! 誰だ貴様!」
「あなたの味方です。ウィンバルド。スフィンドールを殺したいのではありませんか?」
「……貴様何者だ?」
「奴に恨みがある者です。なに、あなたに協力するので警戒しないでいただきたい」
「どうだかな。だが話だけは聞いてやろう。話せ」
「ありがとうございます。奴を殺す方法なのですが、これを使ってください」
「……剣か?」
「ええ。ですがただの剣ではありません。使用者の身体能力を上げ、対象を必ず死に至らしめる呪いがかかっています。これで奴は死に至るでしょう」
「なるほど。フフフフ、フハハハハハハ。これで奴を呪い殺してやるわ!」
「しかし、お気をつけください。奴は手強いですぞ」
「フフフ。これで奴をブツブツブツ――」
ブツブツ言いながら、フールドゥムは何かにとりつかれたように去っていく。
「……聞いてませんか。せめて人の話を聞ければこんなことに巻き込まれなかったかも知らなかったかもな。フフ、まぁ、これで奴も破滅だ。せいぜいひとときの平和を楽しむんだな、ウィンバルド・スフィンドール!」




