第48話 剣舞祭(6)
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「みなさまお待たせしました! 只今より決勝戦を始めまーす! これまで一撃で相手を葬り、準決勝では熱戦を繰り広げたSランク冒険者、武術科一年ウィンバルド・スフィンドール! そして、相手は同じく一撃で相手を倒し、優勝候補すら相手にならなかった謎の青年、武術科一年テスタルネ! 異色の対決が今始まろうとしています!」
俺とテスタは同時にリング上にあがる。
「手加減しねぇからな、テスタ。ちゃんと歯食いしばれよ」
「ウィン様こそ。今日こそ下克上を思い知らせてあげますよ」
互いの殺気が魔力とともにリング上で渦を巻く。
「さぁ、お互いに闘気が高まってきたようです! それでは両者構えて、始め!」
始めの合図とともに、素早くに踏み込み、ロケットスタートをきり、リングの中央で拳をつきあわせる形で思いっきり殴り合う。
バアギイイイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンン
おおよそ拳を突き合わせた音とは思えない爆音が響くなかで、俺はテスタを挑発する。
「なんだそのへなちょこパンチは。ちゃんと力込めたんか? 腕がプルプルしてるぞ」
「ハハハ、あなたのパンチを受け止めただけでも自分的にはよくやった方なんですけどね。腕がびりびりにしびれましたよ」
そうだろうな。だいだい8割くらいの力を込めたからな。
身体強化を使っても、俺の8割の互角に持ち込めるか否かくらいだろう。
一旦互いに離れ、お互いに殴り合う。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ
すでに百を越えて殴り合っている。
俺の拳がテスタの頬に突き刺さると同時にテスタの拳が迫り、俺の腹に突き刺さる。
追撃しようとするテスタにカウンターを合わせ、顎をぶち抜く。
こんなことを繰り返すこと約3秒、数百もの殴り合いを経て、ついに膠着状態が崩れる。
俺のパンチがテスタの鳩尾に突き刺さり、テスタが吹き飛んだからだ。
しかし、テスタはうまく空中で一回転し、静かに着地した。
お互い殴り合いながらも、治癒魔法を併用していたため、無傷だ。
両者の違いは、俺は息一つ乱れてないが、テスタは肩で息をしているところだろう。
「どうしたテスタ。もう疲れたのか?」
「ハァハァハァ、これでももった方ですよ。こっちは全力の身体強化で戦ってるんですからね」
「そりゃ大変だ。じゃもう少しギアを上げてくか。死ぬなよ?」
「ハハ、冗談ですよね?」
「悪いが冗談じゃねーよっ!」
「っ!!」
“全身強化”を足だけに使い、縮地の要領で飛び出す。
おそらくテスタは目で追えてないだろう。
テスタの背後に回り込み、その無防備な背中を殴りつけ――、
――ようと思ったが、すぐさま剣を抜き、斬りこむ。
ガキイイイイイイイイイイイイイイイインンンンンンン
「やっぱりそれを使ってくるか」
「もちろん使いますよ」
テスタが俺の剣を受け止めるのに使ったのは、初めて会ったときから使っていた、銀色に輝く剣だった。
俺が攻撃するのに素手から剣に切り替えたのは、後ろから見たときに、テスタが剣の柄に手をかけているのが見えたからだ。
テスタが持っている剣は、容易に俺の防御力を上回り、ダメージを与えてくるのだ。
厄介極まりない。下手すれば俺の剣も込める魔力が少ないと斬られる可能性もある。
なぜテスタがこんな剣をもってるかと言えば、テスタが良いとこのお坊ちゃんだからだろう。
テスタに“知覚者”を使ってないから確信はないが、言葉の節々にある若干の違和感で分かる。
まぁ、テスタのことだから、プライバシーとして深くは訊かないようにはしてるがな。
こうしてる間にも、俺とテスタは剣をあわせている。
実はテスタの剣には、持ち主の身体能力を底上げする効果がある。
テスタが使えば、俺の全力とまでとはいかなくとも、俺の9割くらいの身体能力になる。
俺とまともに斬りあえているのはこれが理由である。
「はあああああああああ!!」
テスタにとってはこれが全力だろう。
ただ俺にはもう少しだけ余裕がある。
全力ではないし、“全身強化”はさっきの縮地以来使っていないしな。
「甘いですよ、ウィン様」
――っ!!
テスタの言葉の後、俺はなにか違和感を感じ、一瞬だけ力む。
瞬間、目の前が光に包まれる。
魔法ではない。スキルでもない。
恐らくなにか魔道具の類だろう。
突然のことで、俺は反応出来ず、光に視界が奪われる。
だが俺の視界を奪った程度で何ができると言うんだ。
俺は“知覚者”を限定使用する事で、見なくとも周りの様子を細かく把握できる。
剣で斬りかかろうと無駄だ。
テスタもそれは分かってるはずだ。
さぁ、かかってこいや。
全部真っ正面からつぶしてやるよ。
今思ったけど、なんか俺言動がヤンキーみたいになってる気がする。




