第46話 剣舞祭(4)
忙しい中での現実逃避で書きました。
俺は一瞬で相手に肉薄し、まだ俺を認識出来ていない相手の腕をとり、地面へ組み伏せる。
「ぐぅっ!?」
相手が苦悶の声をあげるが、気にせず腕の骨を折るため、少し腕に力を込める。
ふむ。
いくら力をいれても折れない。
不思議なもんだな。
「くそ! 離れろ!」
うるさいなぁ。
暴れるなよ。
鬱陶しいので、程々に魔力を込めて、相手の背中に剣を突き立てる。
そのまま突き刺さる……と思いきや、なにか硬いゴムに剣を刺そうとした時ののように阻まれた。
うーん、なるほど。
俺はある案を思いつき、手に魔力を集める。普通の人間は詠唱もなしに体内の魔力を移動させることは不可能だが、俺には寝ててもできることだ。
俺がやろうとしてるのは即席の魔力弾だ。
魔力自体には大した威力はない。魔力を魔法に変換して初めて威力が出るのだ。
ただこの場合、魔法は適していない。
威力が大きすぎて相手を殺してしまうかもしれないからだ。
魔力弾なら余程相手の防御力が低いか、魔力弾の威力を桁違いにしなければ、気絶くらいで済む。
俺はそんなヘマをするほどバカじゃない。
さぁ、くらえや!
「ちょっ!? やめ! くっ!?」
「おう! 危ないな!」
相手は苦し紛れの中級火魔法ファイヤーボムを放つ。
だが俺に魔法は悪手だ。
すぐさま"魔法達人"で、魔力弾への追加魔力に変換する。
「なっ!? ちょっ待っっ!?」
待たないよ絶対~。
失礼。言わないよ絶対〜でしたね。
よし、KOだ。
魔力弾を当てた瞬間に相手は気絶した。
「と、トールマン・ケン選手、気絶により戦闘不能! 勝者ウィンバルド・スフィンドール選手!!」
『ワアアアアアアアアアアアア』
アナウンスが響き、歓声が上がる。
今回は少し楽しかったかな?
「……あ、あの!」
「ん?」
試合後に、席に戻ろうとするといきなり声をかけられた。
「す、すまん。いきなり声をかけて」
「ああー、さっきの試合の」
「そうだ。少しいいか」
「まぁ、いいけど」
話しかけてきたのはさっきの試合の相手、トールマン・ケンだった。気絶していたが、すぐさま回復して追いついたようだ。
「すまない、1つ聞きたいんだが」
「ご自由にどうぞ」
「どうしてあんなに強いんだ? 良ければ教えてくれないか?」
「……それを知ってどうするつもりだ」
「もちろん強くなるためだ。貴様は強い。どうか俺にその強さの秘密を教えてくれないか?」
「あんたは今のままでも十分強いだろ。はっきり言って学院トップレベルだぞ」
「いやでもだ。全く強さが足りない。現に貴様には負けてしまった」
「確かにそうかもしれんが」
「そうだろう。教えてくれ。頼む」
頼むと言われても。
強くなりたい理由も知らんし。
まぁそんなこといったらなんでテスタを弟子にしたんだっていう話なんだがな。
だがそれ以前にあまりこいつに中途半端な強さを与えない方がいいと思う。
なんかこいつ生き急いでるというか、なんか変なことに力を使いそうというか、まぁただの勘なんだけど。
「あんたがそれを知ったとしてどうするつもりだ?」
「貴様には関係ない」
Oh……。
教えてもらう立場としてその態度って。
分かった。教えたくないのはこいつの態度のせいだな。
「関係ないって言われても。そういうんなら教えねぇよ」
そう言うと明らかに相手からの動揺が伝わる。
「なっ!? ま、待て。分かった。少しだけ教える。こちらが教えたら教えてくれるか?」
「あんた次第だな」
「……分かった」
トールマン・ケンの話は随分と伏せられていたが、大まかなことは分かった。
自分の一族はある人に仕えているが、自分としてはもう仕えたくない。
それを強行する為に、一族の決定権を握ってる親父さんに力を見せつけて、自分が一族の決定権を握るために力が欲しいと。
「なるほどなぁ」
「そういう事だ。さぁ、貴様も教えてくれ」
「断る」
「は? いや待て何故だ!」
「俺にはあんたのエゴの為に教える義理も義務もない」
「エゴだと。エゴではない!族長を継ぐことは義務なのだ!」
族長って言っちゃってるし。
いいのかよ。
「知るかんなもん。義務だのなんだの言ってるがそりゃただのエゴだ。お前のワガママだ。義務とか言って正当性を出して、自分の思い通りにことを進めたいただのガキの所業だ」
「が、ガキとはなんだ!」
「その通りじゃないか。人生とは思い通りにならないのが常だ。義務という言葉を使えば思い通りになると思ったら大間違いだ。正義という名の武器を振りかざすな。思い通りにしたければてめぇの力で何とかしろ。人を巻き込むな」
「な、何とかしろって、どうしろと言うんだ!」
「考えろ! 考えて考えてそして苦しめ! 悩め! 苦しんで苦しんで、悩んで悩んで、それでも答えが出ないのが人生だ! そうだろうがよ! 違うか!」
俺に甘えたって仕方ねぇだろうが。
「……」
「苦しんで苦しんで、それでも答えが出ずににっちもさっちも行かなくなったら人を頼れ。それだけ全力になってりゃ人も応えてくれる。それを理解しろ。俺が教えてやんのはそれからだ」
「……分かった」
そしてトールマン・ケンは渋々下がって行った。
偉そうな事言ったが、彼の事情の全てを俺は知ってる訳でもないし、そもそもぶっちゃけ俺も褒められた人間では無い。
この力だってほぼほぼ運だけで与えられたようなもんだ。
そしてそのおかげで大して苦労もしていない。
ああやって罵られれるべきは本来俺だ。
……家族を守れないクセに何を偉そうなっていう話だ。
これは本当に後悔してもしきれんよ。




