第39話 魔族Ⅱ
続きます。
俺は正眼に構える。
魔族は下段に構えた。
はっきり言って隙がない。
あれは一朝一夕でできるものじゃない。
恐らく迂闊に斬り込むと、カウンターを叩き込まれるだろう。
俺は牽制のつもりで、飛ぶ斬撃を放つ。
神速の斬撃が、地面を抉りながら魔族へ迫る。
「ナンダコノコウゲキハ。ナメテルノカ」
魔族が剣を一閃すると、見事に斬撃を相殺した。
だが俺の狙いはそれじゃない。
俺は魔族の背後に一瞬で回り込み、右薙ぎを放つ。
完全に不意をついた一撃。普通ならこれで決まるが――、
『カキンンンンンンン』
やはり防ぐか。
「イイゾイレギュラー。ソレデコソコロシガイガアル」
『キンキンキンキンキンキンキンッ』
10、20、100、1000と剣を交える。
お互いに傷が増えていくが、俺は剣を振るいながら治癒魔法を使い治すため、一応無傷だ。
このままではジリ貧になるため、少し距離をとる。
「やるな。魔族は皆そんなに強いのか?」
「オレダケダナ。チョットトクシュナノウリョクノオカゲデナ」
「その能力を教えてくれんかねぇ」
「イレギュラーニオシエルコトハナイ」
「イレギュラーねぇ。お前はあのヒュドラと友達なのか?」
「アンナデキソコナイトイッショニスルナ」
「出来損ないねぇ。邪神の眷属らしいけど」
「オマエゴトキガアノカタノコトヲクチニスルンジャネェ!」
魔族は激高し、俺に飛びかかってきた。
俺は予め用意していた魔法を放つ。
最上級光魔法マキシマムライトだ。
その名の通り、極大の光を放つ魔法だ。
威力はまるで桁違いで、魔力量が上がった今では、あの時のヒュドラのブレスを超える威力を出せる。
極大の光が発生し、魔族を飲み込まんと迫る。
当然光なので、光速で迫るそれを避けるすべはない。
だが……、
「テンイマホウヲツカエバヨケラレルサ。」
そう言ってやつは俺の背後に現れる。
まさか無詠唱で魔法が使えるとはな。
だが転移魔法を使えるのは俺も同じ。
普通なら避けられない背後からの攻撃を転移魔法でよけ、一旦魔族と距離をとる。
戦ってる時に、転移魔法を使ったりその他の魔法を使えと言う人もいるかもしれないが、魔法には多大な集中力がいるので少々厳しい。
いくら人外の思考力があるとはいえ、この戦いでは0.01秒でも隙ができれば殺られるだろう。
マキシマムライトを発動できたのは、会話で時間があったからだし、転移魔法もやつが転移したのを見てからでも、魔法を構築するのは不可能ではなかったからだ。
俺と魔族は音速などゆうに超える速度で動いてるからな。
時間が全てだ。
また、恐らくゴキブリの時もそうだが、風魔法を使ってないので、音速を超えることでできる衝撃波が周囲には撒き散らされているだろう。
周囲が心配だっ!?
『ガキキンンンンンンンンン』
「せっかちだなぁ。少しは休もうぜ」
「オマエハイマスグコロシテヤル!」
「短気だねぇ」
やつが魔法を使おうとしているみたいだが、斬りかかることで妨害する。
俺の思考を妨害しやがって。
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン
もう既に万は超える程に剣を交える。
だが、まだ数秒しか時間は経たない。
打開策を考えないとな。
こいつには"知覚者"が通じない。
スキルに頼らず、自力で弱点を探らなければならない。
いや、あれを使ってみるか。
剣技で決めてやるぜ。
俺は"全身強化"を使い、一気に身体能力を上げ、魔族をぶっ飛ばす。
その隙を突く。
"戦闘王"をで得た剣技〈玉王剣流剣術〉の奥義を使う。現在最も最強と謳われる剣を得意とする民族、スリマン族が扱う剣技だ。
玉王剣流奥義【夜露死苦】。
『スパアアアアアアアアン』
最強の奥義のひとつが、魔族を斬り裂く。
実は〈玉王剣流剣術〉の奥義の名前は全部ヤンキーが使うような漢字だったりする。
他にも【愛羅武勇】や【仏恥義理】などがある。
俺は後ろを振り返る。
そこには斬られたはずの魔族が何事もなく立っていた。
「どういう手品だ」
「オシエルワケガナイ」
「そーかい」
よーし、じゃあ第2ラウンドと行こうか。




