第38話 魔族
教会を出て向かったのは、木が全く生えてない荒野だ。
半径2kmほどが柵に囲われた場所で、この町の半径が6kmであることを考えると、とても広い場所だ。
なぜ町の中にこのような荒野が広がっているのかと言うと、
「知ってる者もいるかもしれんが、ここは異世界から召喚された勇者が魔族と戦った場所である。壮絶な戦闘により、ここにあった家屋は軒並み吹き飛んだと言われている。今でも魔力濃度が高いから、魔力酔いしないように気をつけろよ。」
そう勇者だ。
異世界から召喚された勇者とは恐らく日本人だろう。この世界にある紙や羅針盤などのオーバーテクノロジーは勇者からもたらされた技術であることは明白だ。
ここで1つ俺が気になるのは、なぜ紙の作り方を知っていたのだろうか。
よくラノベの主人公は、異世界の技術革新として紙を作ったり、火薬を作ったりするが、なぜ作り方を知っているのだろう。俺はそんなもの知らない。
知ってるわけがない。
俺の出身は紙の産地じゃねぇんだぞ。
俺が思うに勇者はラノベを読み漁り、無駄な知識を溜め込んだ厨二病だったのだろう。じゃなきゃ紙を作るなんて無理に決まってる。
年齢も高校生くらいだったらしいから紙を作る会社にいた訳でもないだろうし。
閑話休題。
まぁそれはいいとして、日本人の勇者がいた事は間違いない。
この勇者は邪神の脅威から人々を守るために、ヴェフリン帝国が召喚したのだ。勇者は神の加護を持ち、唯一邪神を殺す力を持っている。
だが、邪神の力は強大で、相討ちとなり、その時に封印することが出来たとされている。まぁ、されていると言ったが、実際俺は事実ではあったと思う。
また実は勇者は先代もいた。
これは昔過ぎて言い伝えもなく、1冊、古い書籍に載ってるだけだ。だが1冊だけでも"知覚者"のおかげで知ることはできる。
この書籍によると、勇者は邪神が復活する度に召喚されているそうだ。
どの勇者も倒しきれずに、封印しているのだという。
まぁ、何となく理由は分かる。
とはいえ勇者は死んでいて、死人に"知覚者"は通じないため、ただの推測だがな。
「先生! 質問いいですか?」
「おう、なんでも聞け」
クラスメイトAが何かを質問するようだ。
いや、別に名前を忘れたわけじゃないよ。ごめんなスウェーデル・エルベイン。
「魔族と魔人って違うんですか?」
「……そう言えばまだ授業ではやってなかったな。みんなよく聞け。世間では魔族と魔人は同一視されがちだが、実際は違う。魔族は邪神の眷族で、ただ人間を滅ぼすために存在しているが、魔人は違う。魔人は種族だ。魔族は魔物の扱いだが、魔人は人だ。このクラスは人間しかいないからわからんかもしれんが、魔人がいる所でそういうことを言ってはならんぞ。最悪殺されかねん。そして皆が勘違いしたままだと、騎士になった時に国際問題になりかねない。だから我が学院では必ずその違いを教えている。まぁ、お前らがやるのはもっとあとだがな。このことをよく覚えておけよ」
「分かりました、先生。」
俺はまともな教育を受けてない庶民が魔人と魔族の違いを知っていろというのは酷だと思うがな。
魔人は普通魔王国にいるため、滅多に会わないし。
魔王国は基本的に人間の国とは不干渉だが、全く国交がない訳では無い。民間レベルでは全くと言っていいほど交流はないが、国家間レベルでは時折会談を行っているようだ。
国家は一つだけでは成り立たない。
アメリカや中国のような大国でさえ、貿易をしなければならない。
ましてや魔王国は大国ではない。
それなのに全く交易なしと言うのはまずありえない。
なので僅かながら交易をしているのだ。
その時に実際の実務を行う公務員はカリ高から多数輩出されている。
魔人と会う際に、魔族と魔人の違いを理解していなければ、一触即発になるのは免れないだろう。
なのでカリ高ではその事を徹底的に叩き込むのだ。
――ちなみになのだが、実はさっきからピリピリとした感覚がする。
嫌な予感だ。
恐らくこれは殺気。
俺だけに向けられた殺気だ。
前回の経験からもう"知覚者"を発動しているのだが、敵が何であるかが全くわからない。
だがこいつは直感的にやばい。
脅威レベルは前に戦ったゴキブリと同等、いやそれ以上かもしれない。
俺は無言で剣を抜く。
「どうしましたウィン様?」
テスタが俺のただならぬ雰囲気に気がついたようだ。
「テスタ。正体不明の敵だ。今すぐ皆を避難させろ。ガンツ、お前もテスタと協力して皆を避難させろ」
「わ、分かりました!」
「御意」
テスタは即刻動き、ガンツもどこからともなく現れ動き出す。
「おい、スフィンドール。剣を抜いてどうし――」
『ガキイイイイイイイイイインンンン』
「やっぱり魔族か」
「オマエツヨイナ」
こいつ剣を持ってやがる。
鍔迫り合いになるが、直ぐにお互いに距離をとる。
ザワザワザワザワ
「ま、魔族だと!? み、みんな逃げろ! 私が殿になる!」
やはりビゲルの反応は早い。
だがねぇ。
「ビゲル、早く逃げろ。こいつは俺が倒す」
「馬鹿言え! お前は私の生徒だぞ! 私がここでこいつを「テスタ」足止めしてっ!……」
テスタがビゲルを気絶させ、担ぐ。
「皆さん、逃げますよ! 僕に着いてきてください!」
「……急げ。早くしろ。」
さすが入学試験を突破しただけあって、皆迅速に避難を始めた。
レジュも後ろ髪を引かれる思いのようだが、魔族の相手を務まるのが俺しかいないことを理解しているようだ。
よし、後で存分に愛でてやろう。
「こいつらが逃げるまで待っててくれるとは。随分魔族は優しいもんだな」
「マタナケレバオマエニイッシュンデヤラレルコトクライワカッテイル。オマエニスキハミセナイダロウ」
「よく分かってんじゃねぇか」
余裕があるように聞こえるかもしれないが、実際全く余裕が無い。
なぜならこいつの強さが分からないからだ。
もちろん大体は分かるが、何故かあいつに"知覚者"が通用しないのだ。
その原因の予想はついてる。
はぁー、なんて日だ!




