第26話 ルームメイト
朝が来た。
日差しが俺の顔を照らす。
上半身だけ起き上がり、伸びをする。
向かいにあるエザルが寝てるベットを見ると、まだエザルは寝ている。
時間は6時か。
エザルを起こさないように起き上がり、着替えて、洗面台で顔を洗い、ラウンジに向かう。
向かう途中でテスタに会った。
「ウィン様、おはようございます」
「おはよう。やっぱり早いな」
「ウィン様こそ」
「修行時代のくせが抜けなくてな。お前も起きてると思ったのもある」
「ハハハ、僕もウィン様は起きてると思いましたよ」
そう朝の雑談を交わし、ラウンジに着く。
「あれ、レジュ早いな」
「あ、おはよう。ウィンが家にいた時早く起きてたの知ってたからね」
「おはようございます、レジュ様」
「おはよう、テスタくん」
「で、そいつはなんだ?」
さっきから気になっていたが、レジュに何かがひっついている。
「えーとね。この子はルームメイトなんだけど……」
「おはようございます! お姉様の彼氏のウィン様ですね! 私はジュリアン・ケン、東方の小国出身です。聞いたことあるかもしれませんが、隠密と諜報を生業とする一族、ケン族の一員です。よろしくです!」
元気な可愛らしい見た目の子だ。茶色の毛を短く切りそろえている。でもこの子強いな。確か入試でもドラゴンの幻術に全くビビってなかったし。
「お、お姉様?」
「はい、私はお姉様を見た瞬間、この人について行こうと決めました」
「はあ、でも俺は別にレジュの彼氏じゃねぇぞ」
そう言った瞬間レジュの顔が悲しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「あれ? そうなのですか。お姉様が嬉々としてあなたの話をするので彼氏かと思いました」
「違うぞ。でもいいのかジュリアン。お姉様って言うほどだからレジュのこと大好きなんだろ。俺が邪魔じゃないのか?」
「なぜですか? もちろんお姉様のことは大好きですけど、あなたはお姉様が夢中になって嬉しそうに語る程の人ですよ。それだけでお姉様がウィン様のことが大好きである事が伺えます。そんな人を邪険に扱うわけないじゃないですか。そんなことしたらお姉様が悲しみます。私はお姉様の幸せを願ってるんです」
いいやつだな。
「ジュリちゃん……」
「そうか。野暮なこと言って悪かったな」
「気にしないでほしいです。私のことは気軽にジュリと呼んでほしいです!」
「わかったよ、ジュリ」
「あ、あの、僕も交ぜてもらっても……」
「あ、ごめんね、テスタくん」
「えっと、あなたは?」
「僕はウィン様の弟子のテスタルネと申します。テスタとお呼びください」
「テスタ様ですか。私のこともジュリって呼んでください!」
「はい、ジュリ様」
「なんでお前ら様で呼びあってんだ?」
「お姉様のご学友ですよ。そしてさらにあなたの弟子と言うじゃないですか。様を付けるのは当たり前です」
「僕も右に同じですね。様付けは当たり前です」
俺は小声でレジュに話しかける。
「なぁレジュ、こいつら似てると思わないか?」
「うん、激しく同意」
「あの、ウィン様、ひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだジュリ」
「あなた達はどうしてこの学院のこの学科に入ったのですか?入学式で目的があると言ってましたが」
その質問来たか。
はてどう答えたもんか。
「あー、それはだな、手加減を学ぶためだ。高すぎるステータスをセーブするためにな」
「ウィン様、言っちゃっていいんですか?」
テスタが訊いてくる。
「大丈夫だと思う。ジュリは信用出来る」
「信用してくれるのはありがたいですけど、ちょっと目的が傲慢ですね。ですが、入学式での圧力を考えると高ステータスだということは信じられる気がします。実際どのくらいなんです?」
訝しげな表情を浮かべて訊いてくる。
「俺が6万くらいで、テスタが3万くらいだ」
「6万!? あ、ありえないです!」
驚愕の表情を貼り付けながら否定した。
「嘘じゃねぇぞ。本当だ」
「その顔ですと嘘じゃなさそうですね。一応信じますけど」
「ハハハ、一応か。俺らも、一応、お前を信用して言ってるんだぞ」
おどけて言ってみる。
「お互い様ですね。大丈夫ですよ。こんなこと言いふらしても皆信じませんし」
「理解が早くて助かる」
「ジュリちゃん頭いいよね。ジュリちゃんはなんでこの学院に来たの?ジュリちゃんの家族の職業からすると騎士というのもおかしいような……」
レジュって結構グサッと言うよな。相手の失礼を考えないというか。
「その疑問はもっともですよね。私たちの一族は長年歴代王様に仕えてきました。私の父、族長が一族の当主で、私はその娘です。もちろん政治利用されます。他国へのスパイみたいなもんです。一応、隠密の一族なので」
「それ言っていいのか? スパイって普通言わないだろ」
「お姉様とお姉様が信用してる方々に話して何が悪いのですか? 私の優先順位1位はお姉様ですよ」
「あ、そうですか。」
呆れた。思わず敬語になるほどに。
「あともう1つ理由を上げるとすれば、前の王様は良かったのですが、今の王様はちょっと……。父様も既に王様を見限ってます。前王様への義理でまだ仕えてるようなものです。私も今の王様は気に入らないので。スパイだと明かしたのはささやかな反抗ですかね」
「ふぅん、大変なんだな」
「一族に生まれた宿命です」
「ジュリちゃん……」
「大丈夫ですよ。私はお姉様がいれば満足です」
「私もだよ」
美少女同士が抱き合ってるのは絵になるな。
だが少し胸が痛いのはなんだろうか。
HAHAHA気のせいだよな。
俺は断じて嫉妬などしてない。ロリコンでは無いぞ……。
この後は皆が起き始め、しばらく他愛もない雑談をした。
「いやぁ、ウィンは朝が早いな」
「おう、やっと起きたかエザル」
「君が早すぎるんだよ」
「おうみんなに紹介して……どした?」
俺が振り向くと、レジュは平伏していて、テスタは驚きの表情を浮かべ、ジュリはあっそういえば、みたいな顔をしている。
周りの起きてる人達もエザルの存在は知っていたようだ。
「え? 待ってください。ウィン様、王子と知り合いなんですか?」
「部屋が同じだ」
「よろしく皆さん。私はエザルネス・フォン・ドートミール。昨日から皆さんの学友だ。だから畏まらなくてもいいよ。私の前では楽にしてね」
レジュはおずおずといった感じで、頭を上げる。
「君どこかで見たことがあるような気がするんだけど。私の気のせいかな」
テスタを見てエザルが言う。
「え? いや、そんな、き、気のせいですよ」
「そうかい。ならいいけど」
テスタは何かがある。
未だに俺は知らないが、もしかしてテスタは他国の王族とかなのかな。王子に殿下を付けないあたり怪しいな。
「お前らエザルに自己紹介したらどうだ?」
「そうしてくれると助かるね」
3人は顔を見合わせる。
「えっと、じゃあ私から。レジュレンテ・カーヴィーと申します。レジュとお呼びください、殿下」
「私はお姉様の忠実なる僕であるジュリアン・ケンです。気軽にジュリとお呼びください」
「え?」
レジュがそんなことないみたいな顔でジュリを見る。
「僕はウィン様の忠実なる弟子であるテスタルネと申します。テスタとお呼びください」
「これは丁寧に。私のことはエザルと呼んでくれ。あと敬語もいらない。私はここでは王子ではなく、一学生だよ」
「わ、わかったよ、エザル……くん」
レジュは戸惑いながらも了承。
「「(私、僕)はいつも敬語なので!」」
やはり2人は似てる。
「ジュリちゃんは友達なんだけどなぁ」
僕にした心当たりはレジュにはないようだ。




