第23話 試験
カリ高の筆記試験を受けたのだが、楽勝すぎた。
え?スキルはずるいって?
ノンノンスキルなんか使ってねーよ。
俺の前世は大手証券会社勤めだぞ。どことは言えないが、君たちが想像している大学を卒業してるんだぞ。
自力で満点を取るくらいできる。
ただ約30年ぶりの試験はやはりキツかったな。空気感というかなんというか。
「こちらに先程の筆記試験の合格者が掲示されます。筆記試験の合格者のみ、次の実技試験を受けることができます。それではどうぞ!」
その声と同時に紙が掲げられた。
もちろん俺は受かってる。
「レジュはどうだった?」
「あった! あったよ、ウィン!」
嬉しそうで何よりだ。
だからといって俺の腕に引っ付くのはやめて欲しい。
「ウィン様、僕には聞かないんですか?」
「ん?お前は当然受かってるだろ?まさか落ちたとは言わせねぇぞ」
「ちゃんと受かってますよ! 受かってるので僕を殴ろうとしないでください!」
「受かったからと実技は気を抜くなよ」
「はい、本気を出さないように気をつけます」
「あ、本気を出さないようにってことね」
「レジュ、なんか言ったか?」
「いや、なんにも」
「そうか」
そう言って実技試験の試験会場へ向かう。
受験生の数は筆記の時と比べてざっと半分くらいの300弱。
筆記よりも実技の方が難しいってか。
あいつが試験官らしい。
「俺がこの試験を執り行う試験官のギルべスターだ。そしてこっちは助手のジルだ」
「ジルニエルです。よろしくお願いします」
「さて、お前らは騎士を目指すものが多かろう。俺も騎士だが、お前らの素質を見極めてやろう」
そう言ってジルニエルに指示を出す。
ジルニエルは詠唱を始めた。
あの詠唱は……、
「イリュージョン!」
俺には何も見えない。
おそらくテスタにもだろう。
俺らの魔耐性の値が高すぎるせいだ。
これは幻覚魔法だろう。
おそらく見せているのはドラゴンだろう。
ドラゴンはSランク冒険者くらいでないと倒せない化け物だ。
周りを見てみると、逃げ出すものや腰を抜かすもの、失禁するものなど様々だ。
立ってられているのは約3分の1。
涼しい顔をしているのは数人といったところか。
レジュも顔が青ざめているが、辛うじて立っているようだ。
そして幻覚が消えていく。
「この中で立っていられたものは次に移る。騎士になるものが逃げ出したり、戦意を失うなど言語道断。騎士ならばどんな危機にでも国民や国王陛下を守るために戦わなければならない。今立っていられてないものは即刻立ち去れ!」
もっともだな。
そして立っていられた100数人は次に移行するそうだ。
「ここに残った勇気ある者達には最後の試験として俺との模擬戦をしてもらう。手加減はしてやるが、あまりにひどい結果だったものは落とされるからな、心してかかれ!」
『はい!』
「よし、じゃあ受験番号59番から前に来い」
こうして試験官との模擬戦が始まった。
適度に指導を入れながら、1人5分ほどで進んでいく。
「次! 受験番号398!」
俺か。
「おう」
「武器はこちらの木刀を使え。使えないとは思うが、人を殺せるほどの大規模魔法は控えろ。それ以外は好きにしろ。貴様に負けるほど俺はヤワじゃない」
どっかで聞いたことのあるセリフをほざくが気にしない。
「模擬戦の審判と採点は私が執り行います。双方構えて、始め!」
俺は歩いてギルべスターに近づく。
ギルべスターはなんだこいつみたいな顔をするが、気にすることなく木刀を振りかぶって、ギルべスターに叩きつけた。
バァァァァァンン
ギルべスターは辛うじて防いだが、衝撃からかふらついている。
俺はそこに畳み掛けるように、攻撃を加えた。
「ま、待て!」
声を出すが、気にしない。
「足! 右脇! 右腕! 腹! 左脇! 防げ防げ! これはフェイント! そこはカウンターを狙え! 攻撃も加えろ! そうだ!相手に攻撃させるすきを与えるな! 違う! そこはフェイントいれてけ! これは誘いだ! カウンターを叩き込まれるぞ! そこで足を止めるな!」
俺は教官に対して容赦なく教育していく。
立場が逆転しているな。
どちらが試験官か分からなくなる。
そして俺は一気にギルべスターに詰め寄り、首に木刀を突きつけた。
「し、終了!」
俺は木刀を下ろす。
「鍛錬不足だぞ」
ギルべスターはこちらをキッと睨む。
恨まれたか?
「さ、流石だった。全く手も足も出なかった」
だがさっぱりとした顔で俺に言ってきた。
「あんたの面子を潰したことを恨んでないのか?」
「己の鍛錬不足をお前のせいにはしない。むしろお前と手合せが出来てありがたかった」
「そうか。すまないな」
「お前が謝る必要は無い。こうやって教えられたのは何年ぶりだろうか。感謝することはあっても恨むことは無い。それが騎士というものだ」
「そうか。ありがとよ」
そう言って下がる。
「ウィン様、さすがですね!」
「ウィン、あんなに強かったんだね!」
2人は目をキラキラさせている。
単純なこった。
周りを見ると、驚いた顔をするものや恨みがこもった目を向けるもの、尊敬の眼差しを向けているものなど様々だ。
「次! 受験番号399!」
こうしてテスタとレジュは危なげなく受かり、試験は終わりを告げた。
「余裕でしたね」
「そうだな。つまんなかった」
「ウィン達の感性どうにかしてるでしょ。国の最高峰の試験だよ!」
「いやぁ、ウィン様の修行の方が辛かったですし」
「身の丈にあった修行をすべきだ。俺とお前はあそこにいた誰よりも強い。自分の実力を過大評価も過小評価もするな」
「もちろん分かってます、ウィン様」
「そういえばウィン達はどこに泊まってるの?」
「もちろんギルドにある宿だが」
「じゃあうちに来なよ! お父様もお母様も喜ぶよ」
な、なんだと。じ、女子の家だと。
か、完璧美女の家だと。
そりゃもちろん、
「それじゃあお邪魔させてもらおう」
「レジュ様、ありがとうございます」
こうして俺たちはレジュの家に泊まることになった。




