第20話 弟子
アルテに戻ってきてから1ヶ月がたち、俺は誕生日を迎え、11歳となった。
だが祝ってくれる家族はいないが、ハルナさんとエラドにささやかなプレゼントを貰った。
そして驚いたことに、レジュからもプレゼントを貰えたのだ。
俺のSランク冒険者昇格が発表され、俺の生存を知ったのだろう。
ギルド経由で送られていて、中には手紙も入っていた。
生存を喜んでいることと、Sランク冒険者になったことの賞賛、今は弟の世話で家を出れないため、そっちに会いに行けないことが書いてあった。
律儀なやつだな。
そして今日も依頼を受け、毎度おなじみの東門の森へ討伐に行く。
ヒュージタイガーの討伐? そういえばいたなそんな雑魚。
これでAランクの依頼とか笑わせやがる。
そう思っているとゴブリンが現れた。
俺は今まで"知覚者"を使い他の魔物とは遭遇しないようにしてきた。
だがそれではつまらない。
どこで敵に遭うか分からないスリルが全くないのだ。
よって最近はスキルをだいぶ制限してきた。
敵に遭遇するのでも、自分よりも強い魔物が近くに来た時だけ知らされるようにした。
まぁ今まで1回も現れたことないんだけどね。
閑話休題。
そしてゴブリンを瞬殺。
死体を回収する。
そして何事も無かったかのように再出発。
それにしてもこの剣は使いやすい。
テンペストコングの攻撃を受け止めた時に折れてしまったため、街へ買いに出て得たものだ。
人気の武器屋でも良かったが、小洒落た方が面白いかなぁと思って小さな店に入ってみたのだ。
案の定人はいなかった。
声を張り上げてみると、奥からドワーフのおっさんが出てきた。
俺は店に入った瞬間から気になっていた剣を指定し、いくらかを聞くと、それは誰にも抜けないという。
手に取ってみると確かに抜けない。どんなに力を入れてもだ。
だが俺は知っている。この剣は魔力を特定の波長で込めなければ抜けないことを。
そして俺がその剣を抜けたことにより、店主がいらないと言うのでタダで貰ってきたのだ。
この剣は正直言ってすごい。
魔力を込める量によってものをより切れるようになり、実体のない霊体や魂なども斬ることが出来る。
そんな剣を引っさげ進んでいくと、前方で誰かが戦闘をしてるようだ。
冒険者かなぁ?
と思って見てみると……あれは一般市民? いやでも格好的にいいとこの坊ちゃんか?
俺と同い年くらいに見える。
何者か知りたくても"知覚者"は使わない。
ここは我慢だ。
そんなこと考えていると、ホブゴブリン一体を相手に戦っていた男の子はだんだん追い詰められてきた。
ホブゴブリンはゴブリンの進化個体でゴブリンよりも圧倒的に強いのだ。
まぁそれでも俺にとっては雑魚にも等しいがな。
そして俺は茂みから出て、ホブゴブリンを瞬殺する。
「おう、大丈夫か?」
男の子に声を掛ける。
「あ、は、はい。ありがとうございます」
「気にすんな。で、お前はなんでこんなところにいるんだ?」
「え? えーと、あの……、なんと言うか、そ、そう迷子です。でもあなたはどうして?」
何をキョドってやがる。
「ん? 俺は冒険者だからな。依頼に来ただけだ」
「その若さでですか!? 凄いですね」
「そうでもねぇよ」
「あ、あの、お名前をお伺いしても?」
「ウィンバルド・スフィンドールだ。ウィンでいい。お前は?」
「あのー、えーと、テスタルネ……、です」
名前だけか。
「お前人間だよな。姓は?」
「え、えっとないです」
――嘘だな。人間は農民だろうが姓を持っている。
獣人などの他種族を除いてだがな。
おおよそ言い難い事情があるのだろう。
「そうか。テスタと呼べばいいか?」
「は、はい。」
拳を突き合わせる。
「あの! どうしてそんなに強いんですか?」
「いや、お前もその歳にしたら強い方だろ。下っ端騎士よりも強いんじゃねぇか」
「いえ、僕はこの程度では満足できません。もっともっと強くならなきゃ」
ただならない覚悟を感じる。
何かあったのだろうか。
まぁ、訊くのも野暮ってもんだろ。
「そんなに強くなりてぇのかよ」
「はい。あなたみたいなSランク冒険者に並ぶくらいの強さが欲しいです」
「ん? 俺はSランクって言ったっけ?」
「いえ、しかし国王公認のSランク冒険者のウィンバルド・スフィンドールという名は有名ですから」
「なるほどねぇ」
そこまで有名だとはねぇ。
「あ、あの! それでお願いがあります」
「なんだ?」
気になるな。やべぇスキルで心読みたい。
だがだめだ。
今の俺は相手が本質的に悪人か善人かと、言葉に悪意が込められているかしか分からない。
お願いには悪意はない。
「断られることは分かってます。でもどうしてもお願いしたいです。あ、あの、僕をあなたの弟子にしてください!」
「いいぞ」
「分かってます。断りますよ……えぇぇーー!! いいんですか!?」
「いいと言ってるだろ」
「あ、ありがとうございます!ウィンさん。あ、じゃなくて師匠!」
「師匠はやめろ。恥ずかしい」
「じゃあ先生!」
「だからウィンと呼べと言ってるだろ」
「そうですか。じゃあウィン様」
「勝手にしろ」
「それではよろしくお願いします!ウィン様」
「あぁ、よろしくな、テスタ」
「はい!」
テスタは満面の笑みでそう返事をした。
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