第16話 ギルドマスターと
オークの討伐や他2つの依頼を終えギルドへ帰還する。
すっかり暗くなっちまったな。
ギルドの中へ入りハルナさんの元へと向かう。
「あら、おかえりなさいウィンくん。随分早いですね。どのくらい終わりましたか?」
「ただいま。全部の依頼が終わりました」
「あ、あの量をですか!?」
「はい」
「はぁ、もう何があっても驚きませんよ」
「良かったですね」
「あなたのせいですよあなたの!」
「なんかすいません……。」
「もういいです。それではギルドカードをお願いします」
ギルドカードを渡す。
「それではこちらに手を置いてください」
受付に常備されているバームクーヘンのような形をした魔道具に手を置く。
「これにより討伐したかどうかを判別できます。どういう仕組みかは聞かないで下さい」
この魔道具は300年ほど前に発明され、今はこの魔道具を量産する機械だけが残され、作り方や構造は一切分かっていないらしい。
まぁ俺はわかるがな。
ただこの形のものにスキルを付与してるだけだ。
サムタイムズスキル"記録"だ。
その人の魔物を何匹殺した記録するスキルだ。
特に使い道はない言ってしまえばクソスキルだ。
このスキルが付与されているため、誰がどのくらい討伐したかが分かるのだ。
「はい、ありがとうございます。おぉ、本当に全部討伐してますね。少々お待ちください」
信じてなかったのかよ。
「お待たせした。ギルドカードをお返しします」
「ありがとうございます。明日も頑張ります」
「はい、頑張って下さい」
「あ、ハルナさん、ギルドマスターに今日じゃなくてもいいので面会出来ますか?」
「ギルドマスターですか? 分かりました。ちょっと待っててください」
ハルナさんが奥に駆けていく。
しばらく待っていると戻ってきた。
「お待たせしました。今すぐ面会できるようです。執務室へどうぞとのことです」
「ありがとうございます。今向かいます」
そう言って俺は執務室へ向かう。
執務室のドアをノックする。
「入れ」
「失礼する」
室内ではギルドマスターがこちらを見て座っている。
「やあ、ウィンくん。何か用かな?」
知ってるくせに大した演技だ。
「とぼけないでくれエラド。こいつはなんの真似だ?」
そう言って俺は異空間から先程捕まえた8人を取り出した。
「こいつら、あんたの差し金だろ」
「……」
エラドはこちらを射抜くように見つめてくる。
「……君は私がなぜそいつらを差し向けたかを知ってるんじゃないのかい?何の根拠もなく私の所に連れては来ないだろう?」
「あぁ、もちろん知ってる。俺の実力を知るためだろ。こいつらはBランク冒険者で、普段は素行が悪いがなかなか悪事の証拠がない。こいつらに俺を殺すことをそそのかし、これで俺が殺られてもあんたの見る目がなかったと同時に、こんな三下に殺られる不正にBランクになったやつが消えるだけ。そして俺がこいつらを倒しても、素行が悪いやつがいなくなり、俺の実力も知れる。要はどう転ぼうがいいって訳だ」
「ご名答。さすがだな」
「それと。バレてたぜ、ずっと尾行が付いてたこと。俺の実力もだいたい把握したつもりか?」
「それもかい。いやぁ、君には敵わないねぇ」
「極め付きはエラド、あんたこれがバレることも想定内だろ」
「……」
「図星だな」
エラドは神妙な顔になる。
「チンピラ冒険者を差し向けたことは謝罪しよう。いくら試すためとはいえすまなかった。だけどねウィンくん、私は君が怖いよ。なんでもお見通しすぎる。そしてあれほどの異常な強さ。とても10歳とは思えない。魔王が姿を変えていると言われた方が信憑性があるだろう。だが私は君を信じてる。その力がいたずらに振るわれることは無いと。でもみんながみんな私のような考えではない。頭のいい君には必要はないかもしれないけど一応忠告しておこう。気をつけなさい。必ず君の力を恐れて君を害そうとするものが現れる。君なら問題は無いかもしれないけどね。それによってどうかこの世界を、人間を恨まないで欲しい」
「……あんたを信用して一つだけ教えるとすると、俺が何でも知ってるのはスキルのおかげだ。だから別に知らないことも出来る。知らぬが仏とも言うがあんたの忠告を有難く受け取っておくよ」
「知らぬが仏と言う言葉は知らないが分かってくれたようだね。こいつらは私が預かっておくからもういいよ」
「あぁ、じゃあなエラド」
そう言って俺は執務室を出る。
もちろん俺は知っている。世界が敵に回るかもしれないことを。
何が正しいのかは俺にも分からない。いくら考えても答えが出ないのだ。
恐らく答えがないからだろう。
難しい問だな。




