第14話 邂逅
俺の声で商隊の人達が俺を見てざわめく。
「なんだあの子供?」
「お母さんって誰かの子供か?」
「はて、この商隊に子持ちがいたかの?」
俺の目に懐疑の目が集まる。
しかし俺がある一点を見つめてることがわかると、商隊の人たちもその人を見始めた。
「ヘレンさん、あの子供と知り合いなんですか?」
「い、いえ誰かに似てるような気はするのだけれど……あったことは無いと思うわ」
「ふむ、じゃが向こうはお前を知ってるようじゃぞ」
「いやいやお父様、私に子供どころか結婚もしてないことくらい知ってるでしょう」
「確かにのぉ、おい小僧! 一体誰のことを母親と勘違いしておるのじゃ?」
「いやすまない。ただそこの人が死んだ母親に似ていたもんでつい」
母さんに似てとても美人だ。
「似ていた?」
「ただの勘違いだ。迷惑をかけて済まなかった。」
俺はすごすごと退散しようとする。
なぜ俺はこんなことしたんだろう。
俺らしくないな。
「あなたちょっと待って!」
俺は振り向く。
「あなたひょっとしてだけど、私の妹のセレンの息子ではないかしら?」
「あなたは母さんのお姉さんですよね」
「あら、知っているじゃないの。初めまして、私はヘレンティーナ・バネルファよ、ゴランくんの息子さん。」
「いきなり声をかけてすみませんでした。僕はウィンバルド・スフィンドールです。ウィンと呼んでください」
「気にしなくていいのよ。母親を亡くした悲しみは私も分かるから」
「なんじゃセレンの息子か。わしはセレンの父親でこの商隊を率いてる、ダランバス・バネルファじゃ。おじいちゃんと呼んどくれ」
「すまなかったな商隊の動きを止めちまって。初めましてじいちゃん」
「おぉ、念願の孫じゃ。じゃがなんでヘレンには敬語でわしにはタメ口なんじゃ?」
「ところでウィンくん、あなたここで何をしてるのかしら?」
ヘレンさんはじいちゃんの質問を盛大に邪魔する。
「おい! ヘレン、割り込むな!」
俺もそれに乗る。
「実は冒険者になりまして、ここで討伐依頼をしてました」
「おい! おぬしも無視するな!」
「あら、冒険者なのね! 道理で少したくましく見えるわけね」
「もういいわい」
じいちゃんがすねた。
「でもここら辺で討伐依頼だなんて、まさかワイバーンじゃないでしょうね」
「ええ、ワイバーンですよ。ヘレンさんの商会の依頼ですよね」
『ええぇぇーーーーーー!!!!』
周囲で聞き耳を立てていた人達と共に驚きの声を上げた。
「あの子供何もんだよ」
「ヘレンさんの甥っ子ワイバーン討伐したのかよ」
「社長のお孫さんってすげぇんだな」
周りにざわめきが広がる。
「う、ウィンくん、それ本当なのかしら。ち、ちょっとおばさん驚きなのだけれど」
「嘘じゃないですよ。証拠にほら」
俺は空間魔法によって亜空間に閉まってワイバーンの死体を取り出した。
通称アイテムボックスだ。
生物は入れられないが物なら無限に入れられ、時間も経過しない。
ドサッ
『ザワザワザワザワ』
ワイバーンの死体を出した瞬間また周囲がざわめきだした。
「本当にワイバーンの死体だわ」
「ふむ、随分と綺麗に首が切られておるのぉ」
「ただ剣で斬っただけですよ。こうスパッと。」
剣を抜き実演してみる。
「はて、ワイバーンって剣で倒す代物じゃったかのぉ?」
「いえ、魔法で倒すものですよ、お父様」
「剣と魔法を使って倒しましたよ」
「確かにこっちの死体は魔法でやられたようじゃのう」
「ウィンくんは魔法も得意なのね」
「はい、程々には」
「さすがセレンとゴランくんの子供ね。顔もゴランくんにそっくりじゃない」
「ヘレン、その名前を出すな。憎きあいつがいなくなって清々したところじゃのに」
「まだセレンを取られたことを根に持ってるのですか。それとその憎きあいつはウィンくんのお父さんだってことを忘れないでくださいね」
「あ! ごめんよぉーウィン! 亡くなったことを喜んでる訳では無いのじゃ。嫌わないで欲しいのじゃ」
じいちゃんが慌て始める。
「い、いや大丈夫だ。もう気にしてない」
「お父様も必死ですね」
「や、やかましいのじゃ」
『アハハハハハハハ』
周囲に笑いが広がる。
「では俺は次の依頼があるので」
ワイバーンをしまいながら言う。
「あらそうなのね。ごめんなさいね長話してしまって」
「いえ、俺のせいなので」
「孫に会えたからわしはよかったと思うぞい」
「私もよ。ウィンくんはアルテに住んでるわよね?」
「はい、もちろん」
「なら、暇な時でいいから私の家にいらっしゃい。住所を渡すからちょっと待ってね」
ヘレンさんはペンと羊皮紙を取り出し住所を書き込んでいく。
「はい、これ住所だから。迷ったら近くの人にバネルファ商会の社長の家はどこ?って訊けば教えてくれると思うから」
「分かりました。必ず伺います」
「おぉ、また孫に会えるのか」
「それでは失礼します。ではまた」
そう言って俺は次の依頼へ向かう。
森の中を走る。
「走るの随分速いのぉ」
「ええ、なぜあんなに速いのでしょうか」
「さぁな。おおよそ子供の運動能力を超えてる気がするのじゃが」
「そうですね、まぁ行きましょう」
「そうじゃの」
商隊は再び動き始めた。
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