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私はダレ

 

 休み時間まで待ち、誰もいないであろう化学室に戻る。

 といっても流石に何食わぬ顔で教室に入る訳にはいかない。時間を潰す目的も兼ねて、事前に保健室で包帯を貰ってきた。無傷の右手に大袈裟な処置を施す。


 ゆるりとドアを開くと、既に授業は終わって閑散としており―――、

「待ってたぜ。とりあえず、見た数が少なかったから見間違いで押し通せる、というか押し通すしかない。けど・・・」


 予想通り、窓枠に腰を掛けた和月凪柊(わづきなぎと)が待ち受けていた。

 彼は目を細め、拘束された右手に目を移す。


 彼の言葉は耳小骨を震わせたが、脳は伝達された情報を無価値であると断じる。時間が有限である以上、そんな些事に構うよりも、価値あることを思考する方が建設的である。

「見て。知らない間に勝手に発動して、どんどん短くなってる。まだ上にいけるかもしれないの」


 私は花のようにクルクルと舞い、誇りを持って五指を開き、蛍光灯の白光へかざす。

「はぁ・・・・」

 恋をするうら若き乙女の瞳で、情熱を孕んだ希望の表情で。左手を赤く染まった頬に当て、熱っぽい吐息で空気を濡らす。


「なんで・・」

 和月凪柊(わづきなぎと)の疑問は、その先の言葉は。待てども待てども、唇を震わせるだけで音を形成しなかった。

 なんで笑っているのか、なんで約束を破ったのか―――――言葉にならない意志が、瞳を通じて投げかけられる。


「だって・・・中途半端は良くないでしょう?」


「―――」

 満面の笑みで、戸惑う彼に答えを返す。

 何事も途中で止めてはモノにならない。一度に手を伸ばし過ぎては収拾がつかない。人生の時間は余りにも少ないから、仕方なく、誰しもがこれと決めた一本道を歩み出す。

 匠の技とは、極限まで研ぎ澄ました努力の結晶だろう。


 なら私は『無敵』を極めよう。

 今のペースを保てば、やがて()()()()()()()()()()()()()()()


 そうなれば、常時『無敵』状態であることと同義。

「ふふっ」

 ああ、どうしてこんな単純なことに気が付かなかったんだろう。可笑しくて可笑しくて・・・・おかしくなってしまいそう。喉から喜々たる声が鳴り止まない。


 クルクルクルクル、壊れた人形のように飽きもせず回り続ける。これはたった一人の舞踏会。これは誰が為でなく、我が為だけに捧ぐワルツ。

 教えてくれた両国さんには、感謝の念で一杯だ。


「・・・・狂ってる。お前、だれだ」

「しらないよ。そんなこと」

 自分が誰か、なんて答えを知る人間がどこにいようか。誰もがキャラを演じる世界で、己と他者の境界線などあってないようなもの。


 普段温厚な人間が、必要になれば蛇にも鬼にもなる。

 要はタイミング次第だ、一つの顔だけを持つ人間なんていない。多面性を持ち、危険な獣性と両隣に共存するのが人間だ。

 自分を自分と定義することが、如何に危険を孕む行為かは言わずもがな。


「そう、いえば・・・愛汰(かなた)は?」

 和月凪柊(わづきなぎと)は掠れた声を絞り出して、私との会話を放棄して――――問う。

 狂っている、という表現なら詩風愛汰(しふうかなた)にこそ相応しかろうに。

 ――――起きた出来事を余さず、子細に伝える。


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「そんな訳ない、友達を疑うなんてどうかしてる・・・・・!!」

「へぇ」

 愚かなる妄信が笑いを誘う。何たる無知蒙昧、空想夢想にして楽観主義か。

 直接見ていなければ何とでも理想を語れよう。


「だからって理由があるはずだろ、何で聞かなかったんだ!」

「何も言わないんだから・・肯定してるんでしょ?」

 黙して語らず―――ただいたずらに時間を先に延ばすだけの愚行。時間以上に価値ある物はなく、目利きの力がない愚者は一生気が付かない。

 第一、身の潔白を証明出来るなら弁明すればいい、わざわざ言葉を濁す理由もない。つまりは隠す本心があるということ。


「・・・詭弁だ。俺は・・・探す」

「そう」


 去り行く月など見向きもせず、花は自身の成長のみに執心する。嫋やかに、華やかに、鮮やかに回り続ける。


 ――其は舞いて踊らん、其は踊りて廻らん――

 ――汝は世を廻す要石なり――


 スカートが動きに合わせ円状に広がる様は、日を浴びた花弁が開く姿を幻視させた。


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