カロリー
五限目は体育だ。一学期の間は、ずっとバスケが続く。
昼食後にすぐ運動しろ、というのは残酷過ぎやしないだろうか。
男子はどうだか知らないが、大抵の女子にやる気はない。
もちろん私もない。お腹痛くなるし。
ただし女バスの子や、運動部の子は張り切っているようだ。
さっきから女バスの子に指示を出してもらうのだが・・。
「ふっ」
綺麗な弧を描いて、ボールが頭上を通り過ぎる。
私はといえば、頭を抱えてしゃがみ込み態勢だ。
危ない危ない。戦場には流れ弾が飛び交っている。
冷静な対処。まるで私は歴戦のソルジャーのようで・・。
「ちょっと小美野ちゃん!ボール見なきゃ!」
「はい!ごめんなさい!」
もう平謝りである。運動音痴でごめんなさい。
棒立ちの私を置いて、試合は激しさを増していく。
どうやら、歴戦のソルジャーは彼女たちのようだった。
やっと休憩、気持ちのいい汗をかくメンバーたち。これが青春というのだろうか。
あれ、私全然汗かいてないな・・。
というかバスケ部の子が二人もいるのがおかしい。もっと緩いチームに入りたかった。
体育館は二等分にされている。男子と女子で分かれて、それぞれ試合をするのだ。
試合はローテーションで、時間を決めて戦う。
そんなわけで、休憩中のチームが得点係を務める。試合で役立たずの私は、率先してこの係をやっている訳だ。
だが目の前の試合を見ると、この仕事に疑問を覚える。なぜなら片方の得点しか数えていないからだ。
つまり、ワンサイドゲーム。一人の選手が得点を入れまくっているのだ。
コートを縦横無尽に動く、小柄な姿。それは真鶸ちゃんに他ならなかった。
もう、味方は彼女にボールを渡すだけになっている。例え敵の手にボールがあっても、飛ぶようなスピードで奪っていく。
天宮真鶸は、運動神経抜群の女子である。
私と比べて、大して体躯が変わらないのに、だ。
おまけに成績までいいのだから、神様の采配には疑問を感じる。
もうこれ数える意味ある?挽回できないでしょ・・。
気づけば、体育館の視線がこの試合に集まっていた。
「やるねー天宮さん!」
「バスケ部として負けられないね!」
そういえば次の相手はあのチームだ。
なんだか我がチームも燃えている。うへぇ・・。
クラス中の視線が集まるなか、試合の幕は開かれた。
ところが大勢の期待に反して、結果は一方的なものだった。
すなわち我がチームの大勝利。
これまでの試合でへとへとになった真鶸ちゃんは、私並みの活躍だった。
もともと一人に頼るチームと、二人の経験者がいるチーム。
一本柱の欠けた家は崩れる。この差は歴然だった。
「「釈然としなーい!」」
試合が終わった後、彼女は大勢の人に囲まれていた。
本気出してよ、どうしたの、という声に対して。
「ご、、ごめ・・!体、力が」
息を切らして、へたり込んでいた。
授業が終わった。真鶸ちゃんに肩を貸しながら、渡り廊下を歩く。
「おなかへった・・。」
いつになく小声。相当お疲れの様子。
というか、もうお腹減ったの・・。
「悔しがってたよ?」
「ん。次はそっちとぶつかるまで温存する・・」
この姿を見ていると、改めて納得してしまう。
「やっぱり練習の度に動けなくなっちゃダメだね」
「でしょ・・?」
苦笑い。なんというか、真鶸ちゃんはスプリンター過ぎるのだ。普段練習しないのに、試合ではどうしようもなく強い。
これでは部活内の不和につながる。というか、それはすでに経験済みだ。
しかしそのことを、本人に聞いたことはない。
友達でも、踏み込むべきではないことがある。
昔のことも、あのことも。