表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/66

人工彗星

 首都山奥、とある展望台の地下。

 特殊能力肯定派本部には、一人の来客が訪れていた。

 ここは国内でも、極少数にしか知られていない機密施設。例え存在だけは知っていても、客分として扱われる人物は一握りに絞られる。


 中に入るには、相応の家柄と権力、財力や地位が必要となる。

 つまりVIP中のVIP、この客が圧倒的権力者であることに間違いはない。


 しかし如何したことだろう、お持て成しの接待は皆無と言っていい。

 むしろ――――、


『A級厳重警戒態勢発令―――A級厳重警戒態勢発令―――A級厳重警戒態勢発令』


 警報音が響く、響く、響く。

 どの階層にも焦りと緊張が蔓延していた。

 しかして、下された命令はただ一つ「手を出すな」。


 その判断は当然のものだった。

 地下空間への入口、遮蔽シェルターは―――見るも無惨にひしゃげていた。

 子供が癇癪を起こして、力任せにこじ開けたような痕跡である。


 侵入者に対して、神経に障る警報音が引っ切り無しに鳴り響く。

 普段は白色光が照らす施設、それが緋色に染まる。ランプが回る度に、辺り一帯が血のように脈動する。

 まるで巨大な生物の腹の内にいるのかと、錯覚するほどに全方位が赤々としていた。


 そんな中、『スーツの男』は武器も持たずに悠然と歩き続けていた。

 無警戒で、どこか気軽さを感じさせる足取り。

 招かれたのは、招かれざる客だった。


 -----------------------------------


「・・まさか、巣穴の最奥にまで通されるとは。不用心過ぎるのではないかね」

「それは『貴方』も同様でしょうに。敵対勢力の只中に、単身で乗り込んでくるとは思いませんでしたよ」

「入れてくれるなら是非もないさ―――この頑丈さ、中から破壊する方が幾分か楽そうだ。

 わざわざ13年ぶりに連絡を寄越したのは、そういうことだろう?」


『彼』が案内されたのは、豪勢な客室だった。

 肯定派代表は、その中心にある円卓、上座の椅子に座り背を晒す。


「なに考えてんだ!?否定派を、それも()()を入れるなんて・・・!」

 アイドホールの殺気を込めた、鋭い視線に晒される。榎並は我関せずに淡々と控えている。


「ふふ、逆にこちらを潰すつもりですか――――ああとても『貴方』らしい」

 少し落ち着いた声に変わっただろうか、年不相応に渋さが増している。


「『貴方』の研究に、ちょうどいい()()()がいるんですよ」


 思わず眉をひそめる。

 というのも、『彼』はもう研究の道を諦めていた。

 今更何を、という感慨しか湧いてこない。


 振り向いた老齢の男は、記憶に残るそれの面影があり・・・。

 13年という時間の重さが、かつて2()0()()()()()()を変貌させていて、


「貴様・・()()


 既知の仲である代永伊鶴(よながいずる)を名乗る人物は―――果たして70を超えているだろう容貌をしていた。

 見知ったはずの顔に、多くの濃い皺が刻まれている。13年だけではあり得ない、長き人生の積み重ねがありありと伺える。

 50代の『彼』よりも老け込んでいる姿に驚愕する。


 それこそ、13年という括りに収まらないのは明白であった。

 むしろその4倍、52年が経過していると言われなければ納得できない違和感。


 ならば別人だと、安易に断じていいものか。

 理知的な目、喋り方、声質といった類似点が記憶と重なる。


「―――zisser」

「――――それは」

 その名を口にした瞬間、若者と見紛う幼き表情が過ぎる。


「なら何故そこにいる。彼女を殺した特殊能力をどうして肯定出来る。愛していたなら逆で・・」

「ええ逆です。それでも彼女は歌い続けたから・・・、ならば尊重しなければいけないのでしょう」

「・・・やはりzisserを解散して、身を引いた私が間違っていたようだ」


 不思議にも老人は敬語を、50代の男はタメ口を使うことに躊躇いを覚えない。

 年齢と言葉遣いの関係が反対だった。

 この奇妙な会話は、すれ違うばかり。

 切っ掛けは同じでも、能力に対する考えは決定的なまでに乖離していた。


「それでも貴方と私はアプローチが違えど目指す場所は同じ・・これをご覧ください」


 榎並を通じて渡された、分厚い資料。その表紙に記されたのは、奇妙奇天烈な題名だった。

 懐疑心に満ちた面持ちで、一ページだけ目を通す。

 ・・・・・・。


 ―――めくる、捲る捲る捲る。

 めくるめく、捲る。目まぐるしく、目が覚める程に捲る。

 手が止まらない、圧倒的情報量に眩暈を起こしながら、脳をフル稼働させて実現性を考察する。

 嫌でも見覚えがある、これは・・・。

「この計画は、あなたの論文を下地に考案したものです」


 瞳を閉じて暗闇の中、数分の吟味を重ねる。そして導き出された結論は、

「――――()()()()()()()。いや待て・・・、どれだけ取りこぼした」

「些末な問題でしょう」

 その言葉は、全生命体を愚弄することに等しかった。


「・・いや。いや違う、机上の空論だ」

 数秒前の、己の結論を否定する。

 ・・・・可能性は認めるが想像の域を抜けない。

 その学説は、かつて大衆の目前で押された屈辱の烙印。

 若気の至り、恥ずべき記憶。

 そもそも、重大なピースが欠如していて話にならない。一つでもピースを失えば、パズルは全体の調和を失って総崩れを起こす。


「film観測者、惑星の寵愛児。次代の光輪の巫女がいるでしょう」

「能力が消えている、見つけようがない。例え見つけても、力を失っていては・・・」


「いえ・・()()()ですよ。もうじき、もうすぐ、来る」

 ニイと頬を吊り上げる老人の顔には、確信の火が灯っていた。

「何より会いたくないんですか、彼女に?」

「貴様がそれを言うのか・・・!私からすべてを奪った、貴様が―――」


「その私が言うのです。学会を追放され、辺境の地で化学教師に甘んじる天才科学者――――高橋千尋に」

「・・・昔の話だ」

「ならば今の話をしましょう。あなたの研究を証明し、世界をひっくり返す。これは言わばその案内図、辿るべき道行を示すものです。原案者の力があれば、計画はさらに加速する」


 ―――有限周回、制限付きの時間逆行。

 この世界には、幾層にも渡って惑星を覆う()()がある。原初から続く世界の()()()、過去のデータが全て内包された可能性の具現―――film。

 人類の歩みの結晶。

 それは失われた知識や歴史さえも、余すことなく記録している。


 原因も発生も、存在すら不明。

 分かることは3つ。


 1に、それは人類に残る最古の記録より前から()()()。ともすれば、惑星の発生に端を発したとも目される。

 2に、それは今この瞬間にも伸び続けている。一秒前の記録だろうと、どんな些末な情報だろうと、光輪となりて永久に保存される。

 3に、それは彼の巫女以外に不可視であり、不可侵の領域。

 ―――何人も、観測すること叶わず、干渉すること能わず。


 神秘のブラックボックス、それを紐解ける巫女は各時代に一人のみ。

 ゆえに惑星の寵愛児。

 光輪の巫女を有する者は、世界を制す。

 隠された真実を暴き出し、国家の威信すら揺らがせる。

 領土問題、戦争の裏。

 闇に葬られた事実など、星の数ほどある。


 人間が知識の積み重ねによって構成されるなら、それは間違いなく人類の至宝だ。

 うまく活用すれば、特殊能力消失の原因すら解明できるだろう。


「・・人工彗星。星を作る、か。・・・貴様は神にでも成るつもりか?」

「―――神とは成るモノではなく、作るモノ。所詮、私は導き手です」


 全ての生命体は、母なる地球から生まれた愛し子だ。

 そんな矮小な存在が牙をむくというのか。

 環境を汚染するだけに飽き足らず、神をも貶めようというのか。

 それは間違いなく冒涜であり、背徳であり、独善であり―――――ただの人間だった。

 親を越えようとする愚かしさは、この上なく人間らしい人間の姿。


「・・会えるのか・・・」

「―――必ず」

 かくして、人知れず行われた会合の末。

 特殊能力肯定派、否定派の代表は手を組んだ。



 計画名、『film~有限周回彗星~』

 ここに稼働せり。



「さあ饗宴の始まりだ。貪り、簒奪し、改竄する―――――」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ